15年近く前になりますが、熱心に塗料を研究されている塗装屋さんから塗料・塗装について色々をお話を聞かせていただいたのがきっかけです。
かつて、塗装は道具にするもので、建物に塗装をする文化はほとんどなかったという話から始まります。
道具に塗るのは漆が代表的。漆はアルカリや油に強く、何よりもピカピカしていて見た目がきれい。だけど耐候性が悪いので、正に道具向きの塗料と言えます。
建物に塗らなかった理由は簡単。昔の塗料と言えば自然素材が原料ですが、自然素材であれば紫外線で劣化します。日の当たる所に塗ってもしょうがないという事と塗ってしまうと木口(木の繊維に対して直行方向の断面)から水を吸ってしまって、それが塗膜のせいで抜けにくくなってしまい、却って腐朽させてしまう事。床に関しては、靴(草履)を脱いで歩くんだから汚れないでしょという事。
(今と汚れに対しての感覚が違っていたんですね。土足のまま上がり込んで泥や砂が床に付けば「汚れた」となりますが、普段の生活で付いた歩いた跡や手あか等は汚れの部類ではなく経年変化の部類に入っていたのでしょう)
そして、住宅の需要が増えると、杉の他に栂(ツガ)が増え始めます。それでも足りなくなると輸入材が登場しました。
ラワンという材料。
ラワン(広葉樹)は日本人の感覚的に見た目が良くない事と、塗装が乗りやすいメリットを活かして塗装する材料として使われます。ここから次第に建築材料にも塗装の文化が根付き始めます。
建築材料における最初の頃は、汚れ防止というよりは見た目がメインだったという事ですね。
次第に針葉樹でも安価な材料という事でスプルスやアガチス、パイン等が使われるようになりますが、塗装ムラが出やすい事が欠点とされ、世間では「更に安くて、きれいで、早くて、大量に生産できるいいもの」が必要とされてきます。
そこで、新建材が誕生しました。「安くて、きれいで、早くて、大量に生産できる」材料の誕生です。
バカ売れしたんでしょうね。
そしたら、ある問題が浮上しました。
食器棚に入れておいたケーキがなかなか腐らない。
なぜ?
という話。
ホルムアルデヒドが問題視された第一歩です。
それから15年経過した頃、ほとんどの建材に含まれるホルムアルデヒドが問題視され始めて、「自然素材」や「健康住宅」というキーワードが新たに誕生しました。(’90年台半ば)
新建材を使わない(なるべく使わない)がテーマなので、無垢材を塗らなきゃいいだけの話なんですけど、
商売ですから。
無垢材に自然素材の塗料を塗りましょうという商売が始まったんです。
一応念を押しておきますが、これは塗装屋さんが話していた内容です。
確かに最初に書いた通り、昔とは汚れの感覚が違ってきているので、床や造作材に汚れ防止の為の塗装をするのは否定できません。手あかも何も付けたくないという需要がある訳ですから。
その場合、塗るなら自然素材(塗料)を、という事を言ってる訳ですが、これも最初に書いた通り、自然素材であればすぐに劣化してしまうので、コマ目なメンテナンスが必要です。
つまり、
木を保護する為に塗装をして塗膜をつくる。
塗膜を保護する為にワックスを塗る。
ワックスはすぐに汚れたり、剥がれるのでメンテナンスは、
ワックスを全て剥いでから、ワックスを再施工する。
しばらくするとワックスがまた汚れたり、剥がれたりするのでメンテナンスは・・・
がループするんです。
面倒臭くないですか?
オイルステンなどの染み込むタイプはどうでしょう。
ワックスは塗っても、塗らなくてもどちらのパターンもありますが、いずれにしても次第に繊維間(空気層)に埃などが詰まり汚れてきます。
無塗装であれば、水拭きしたり、削ったり自由ですが、オイルステンの場合は水拭きしたり削ったりすれば塗装が剥げてしまうので、簡単な拭き掃除しかできません。
無垢材は傷に対しても、多少のへこみであれば水かけてスチームアイロン掛ければ元に戻ります。
この話を聞いて、私は多少の傷や汚れを「あじ」や「経年変化の一部」だと思えば、無塗装の方がいいと思った訳です。
それでも汚したくないなら耐用性も説明した上で、自然素材は諦めて新建材をお勧めします。
この塗装屋さんの話はまだまだ続きます。今までが、「塗料とは」の前段になります。
私はマンツーマンで7時間休憩なしでみっちり聞いてきましたが、このくだりで約2時間。
そして、この前段のまとめとして塗装屋さんは、
何も塗らないのがエコ。
自然塗料を塗るのはエゴ。
と言っていました。
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