native dimensions blog

新潟市の住宅設計事務所ネイティブディメンションズ=狭小住宅や小さい家、構造計算、高気密高断熱が好きな建築士のブログ

暖房とは(続きの続き)

2010-11-05 17:22:04 | 温熱環境

前回までのあらすじ

床暖房の特徴である伝導と放射による暖房方法は、床下にスラブヒーターや蓄熱暖房機、エアコンを設置する事で同等以上の効果が得られるものの、同時に発生するデメリットを解消する必要もあるというお話でした。

デメリットは白アリ対策の事でしたが、白アリ対策が解決すれば最良の暖房方法なのでしょうか。

Photo 床下暖房にはもう一つ注意する事があります。

それは、床下の掃除。

床下暖房と床暖房の決定的な違いは、床下暖房の場合、床面にスリットを設け、対流による暖房も可能な事。

それは、床下の空気が直接室内に入り込むので、上昇気流によって床下の埃も一緒に室内に入ってきます。万が一、防腐防蟻処理をしていたら、揮発した薬品も室内に入り込むことになります。

よって、床下の空気を直接取り入れる場合は、床下が掃除しやすい状況にする必要もあるのです。

ちょっとしつこいですが、じゃあ、床下の掃除が解決すれば床下暖房が最良になるのでしょうか。

結論としては、何を使うかによります。

現在、床下暖房の主流は深夜電力を利用した蓄熱タイプです。深夜電力を利用するので、電気代が安いのが特徴です。

確かに昼間の電気代と比べると1/3ですから安いと思います。

でも、もっと安い暖房器具があります。

それはエアコン。

ここ15年でエアコンの性能は飛躍的に向上しました。

簡単に説明すると、最近の高性能エアコンは1kwの電気で最大6.5kw以上の熱を出す事ができます。(12/2加筆:「0.15kwの電気で約1.0kwの熱を出す事が出来る」の表現の方が正しいです)

ちなみに蓄熱式の場合は、某メーカーのカタログによると、1kwの電気で0.9kwの有効蓄熱量です。

つまり、蓄熱式とエアコンを電気代で比較すると、蓄熱式は深夜電力の恩恵により1の電気で3の熱を出すのに対して、エアコンは日中利用でも1の電気で最大6.5の熱を出せるのです。

エアコンは、外気温等で能力が変動してしまいますが、新潟市の一番厳しい時期(時間帯)でも3程度の熱を出す事は可能です。

暖房器具の性能よりも、深夜電力=電気代が安いという印象がコマーシャルで植えつけられていますが、冷静にカタログを眺めると性能の違いは簡単に分かります。

更にエアコンは温度調整が簡単です。エアコンの温度調整はリモコンでピッ。方や蓄熱式は、暑ければ窓を開けて熱を逃がして、寒ければ補助暖房を増やすしかありません。

更に冷房はエアコンを利用するしかないので、結局の所、ほとんどのご家庭でエアコンは買われているんですよね。そして、買い替えも量販店で簡単に交換ができます。

だから、改めて暖房器具を買う必要がなくなるので、イニシャルコストも抑える事ができます。(冷暖房両方可能な設備機器が10万円台で購入できる訳ですから、圧倒的な安さだと思います)

但し、エアコン自体の金額差は性能の差だと思って下さい。安売りのエアコンでは1の電気代に対して最大で3でるかどうかの機種もあります。さらには、同じ機種でもいわゆる6帖用のエアコンと12帖用のエアコンでも能力差があり、出力の小さいエアコンほど、効率が良くなります。

以上の事から、床下暖房を採用する場合は、問題点を解決した上で床下にエアコンを設置すれば、理想的な暖を取る事が可能です。

ここで、素直に締めたい所ですが、前回も言った通り、当事務所では床下暖房はファーストチョイスとはしていません。

理由は、前回の最後にもちょっと触れましたが、「床温かい」というよりは「床温かい」で計画しているから。

つまり、建物の断熱性能を上げて、熱を逃げにくくして室内で常時エアコンを回していれば、最初は対流による暖房ですが、いずれは壁・床・天井が温まるので、すくなくとも放射や伝導で寒いとは感じなくなるのです。無塗装の無垢フローリングを採用すれば、一層効果は高まります。

建物の性能が悪いとどんなにファンヒーターやストーブで空気を温めても、外気に接している床・壁・天井から熱が奪われて、表面が温まりません。その結果、空気は暖かいのに伝導や放射で温かさが感じられない為になんとなく寒いと感じてしまい、さらに、塗装で塗り固められたフローリングに触れる事で一層冷たさが伝わります。

エアコンは、上から温風が吹きつけられるのが体に合わないということで敬遠されがちですが、それも常時運転すれば気流も感じないほどの穏やかな運転になるので、さほど気流を感じずに済みます。常時運転しても電気代が掛からない断熱性能とのコラボレーションが理想の暖房を作り出すのです。(そもそもエアコンが温風を強烈に吹き続けるのは、建物の性能が悪いからであって、エアコンが全て悪い訳ではないんです)

単純に室内の見える位置にエアコンがあれば、メンテナンスもより簡単になりますし、気分的に「あそこから暖気が出ている」という安心感もあります。

見た目的な事や対流がどうしても苦手と言う場合は床下設置でも構いません。つまり、床下設置と室内設置の決定は、使い勝手と「伝導」「対流」「放射」のどれに比重を置くかで決めています。

いずれにしても、暖房とは、暖房器具の性能と建物の性能から組み合わされるべきで、それには計画した建物がどの程度の熱量を必要とするのかを設計する必要があるという事です。流行やコマーシャルで決まるものではありません。


コメントを投稿