山側にコンクリート電信柱そして湖岸側に高さ3mほどの目の粗い金網とその上方外側にひさしがついている塀がずっとつづいている。
ただし五線譜のように有刺鉄線が弾かれたひさしである。
湖岸に沿った斜面に敷設されたアスファルト道路で車どうしのすれ違いがやっとできるほどせまい道路だ。
この辺りには何かわからぬがかすかな緊張感を感じる。
湖岸にも人や動物の気配はない。風もまったくないので空気が固まってし~んという音が聞こえるようだ。
小鳥の声さえも聞こえないしとにかく不気味なほどに静かすぎる。
景色全体がぴ~んと張り詰めている感じがする。
この緊張感は国境地帯というところから来るのだろうか。
その金網塀の網目の向こうにアルバニア側の蒼い湖面と黒っぽい山々の嶺峰の連なりが見える。
ゆるやかな下りの左カーブを抜けたところにマケドニアの出国検問所があった。
国境検問所といってもいたって簡素で二人も入れば満員になってしまう大きさの有料道路料金支払い所風の箱が大きな白いひさしのしたにひとつあるだけである。
その箱の側面についた窓のところで一旦停車し中にいる制服姿の年配係官へパスポート・車検ならびにグリーンカード(車両保険証書)それと運転免許証をまとめて手渡した。
係官はパスポートのページをパラパラとめくって押されている数多の出入国スタンプを調べていたが“OK”といってすぐにすべての書類をポンッと返してくれた。
出国のスタンプは捺してくれなかった。
ここでもそうだったが入国より出国する方の検問はあまり時間がかからない。
その窓付きの箱(検問所)を後にして左にそして右にそれぞれ3つ目のカーブを曲がったところにアルバニアの検問所があらわれた。
ここの窓付きの箱(検問所)の風体はさっき通過してきたマケドニアのものとさして変わらぬがそのほか道路に沿って国境管理事務所や両替所らしき小さな建屋が6棟ほど山側に連なって並んでいる。
そのいちばん端の建物と次の建物の間に起立する旗ポールには赤地に黒の双頭の鷲が描かれたアルバニアの国旗が掲げられている。
ほとんど風がないので国旗は力なく垂れ下がっている。
ここの窓付きの箱(検問所)のすぐ先に白とグレーに塗られたゲートバーがある。
そこに着いた時先客が二組いた。
くすんだ緑色のふるいベンツセダンと濃いブルーのふるいVWステーションワゴンがすでに入国審査中である。
その後に着いたがどうも時間がかかりそうな雰囲気なのでエンジンを止めて少しでも風が入るようにとドアを半分開けた。
まだ高みにある真夏の太陽にじりじり炒られ停まっている車の中にいると汗がどんどん吹き出てくる。
待つほどもなくまえの二台はゲートバーの向こう側へ進んだ。
自分の番になって窓口へパスポートとほかの書類を出した。
今回もパスポートのページをめくっていたがすぐにスタンプを押してくれた。
てっきりこれでOKかと思っていたら別の係官が外へ出てきて“前に進んであそこの右脇に停めなさい。”とその場所を指差して誘導された。
前にいた2台も同様にすでに道路わきに停めてほかの係官に検問をうけている。
車からおりると女性一人を含む渋い緑色の制服姿の係官3人がならんでやってきて陽の照りつける路上でたったままで検問を始めた。
いっしょに来たほかの係官の一人は制服姿がよく似合うひげ剃りあとが濃い年配男とそしてスマートな体格の若い男である。
どうやら年のころ20代後半と見える女性係官だけがいちばん語学に長けているらしくさっき手渡しておいたパスポートと車の書類を手にもって目線があったところで話しかけてきた。
ながいブルネット髪をうしろで束ねている。
それが渋いみどり色の制帽からはみ出している。
顔付きは南ドイツの田舎町にでもいそうなぽっちゃり顔ではあるが目つきはなかなか利発そうな風貌をしている。
“あなたはドイツ語・イタリア語?英語・フランス語?それともアルバニア語が話せるか?と、アルバニア語で言っているらしい。
半呼吸おいてから
”アルバニア語を話したいのは山々だが残念ながらまだ良くわからないので英語でお願いする。”
と英語で返答した。
その係官もおなじように半呼吸おいて“Mr.○× あなたは一人だけか、ほかに連れは?
あなたはどこから来たの?
これからどこへ行くのか?
何の目的で?
何日この国に滞在するのか?
これはあなたの車か?
酒やタバコなど申告するものはないか?”と質問された。
“オランダに住んでいて今はバケイション中でこれから貴国のアドリア海海岸にあるDURRESへ向かうところだ。
そのあとTIRANEへ寄ってからモンテネグロへ移動する予定で、アルバニアへ入るのは初めてで2~3日間ほど滞在するつもりだ。
これは自分の車である。
酒は飲まないしタバコも吸わないからそういうものはまったく持っていない。
今晩はDURRES泊まるつもりだ。 良い所だといいんだが…。”
と相手の目を見ながら返答した。
じっとそのままの目線で一呼吸おいてから同僚へ“コレコレシカジカナントカカントカフムフムナルホドアノネーソーデスカー~。”といってから、
“ではリアトランクを開けなさい。”という。
これもルーティンウヮークなのだろう丸ぽちゃ顔係官が入っている荷物の中身をお義理程度にしらべてそれでおしまいかと思った。
すると横にいた若い係官が脇からのぞきこんでトランクの奥まった所にいれておいた飲料水がたくさんはいったダンボール箱を見つけた。
これはオランダから品質確認済随時水分補給用として持ってきているものである。
とにかくカラフルな意匠のいろんな種類の330ml缶やPETボトルがたくさん入っているのですこし疑問を持ったようだった。
3つ缶とPETボトル1本引っ張り出してきて
“これはなんだ?
こっちは?
それはなんだ?“
とやや疑いの眼差しで聞いてきた。
“それはとっても美味しい緑茶でそっちはスポーツドリンクだしあれは爽やかなフルーツ清涼飲料水でどれも私のお気に入りの飲料だ。
とにかく暑くて汗をたくさんかき喉が渇くのでこれをのむのだ。”
と一々説明した。
考えてみればアルバニアはイスラム国なのでとくにアルコール飲料の持込には神経過敏なのだろう。
とにかくアルコール類ではないのが判ったようで穏やかな表情に戻った。
さらに車内の方も一べつしたあと丸ぽっちゃり顔係官がかすかに微笑みながら“OKだ。 ぜひDURRESであなたの休暇を充分楽しまれることをいのる。”
と申し渡してくれた。
これもホリディでアルバニアを訪れる観光客用のルーティン会話なのだろうかと思ったがそう言われればけして悪い気はしないものだ。*(ウインク)*
これですべて完了らしいやれやれと勝手に思い込んでいたら、
その丸ぽっちゃり顔係官が
“ではあそこの事務所へ行ってEuro.10-を支払いなさい。”とのたまわれる。
ああ~まだ終わっていなかったのだ。
“?なんでEuro.10-??”
すこし戸惑っていると
“では本官がご案内仕るのでいっしょについてきなさい。”
といっているような仕草とともに若い方の係官が渡してあるパスポートと車の書類をもってその事務所のほうへ歩き出した。
よく事情がわからなかったけれどしかたなくその係官のあとについて6棟並んでいるまんなかの事務所へはいった。
事務所の中は薄暗く太った年配の係官が額に汗をかきながら扇風機の風を背中にうけながら正面の事務机に座っているのが見えた。
若い係官から手渡された私のパスポートと車の書類を広げながら必要な事項を拾い出している。
そして液晶フラットスクリーンではないやや古ぼけたボディのブラウン管型ディスプレイPCをみながらキーをたたいて打ち込み始めた。
キーがしばしストップしてこちらを向いて、
“生まれは?”
“ええ~とここです。△▽◇○。”
パスポートの出生地のところを指差す。
“車の名前は?”
“○凸凹日の丸です。”
書類の一番上の行を指差す。
さらに汗をにじませながらもひととおり必要な情報を入力し終わり、机の横のプリンターからけっこう長い書類をプリントアウトした。
その書類の中ほどを指差しながら、
“Euro.10-だ。”という。
まだ良くわからぬけどどうもビザ代か通行料のようなものらしい。
ここで確実に支払って支払い証明書をしっかり持っていないと出国のときにトラぶりそうような気がしたので、ではと素直に腰のウエストバッグからEuro.10-札を1枚取り出して支払った。
その係官はつごう書類2枚に自分の署名をいれ、そのうち上側1枚めの半分を切り取ってパスポートと車の書類とともに渡してくれた。
これでほんとうにすべて完了だ。
返してくれたものをウエストバッグへしまい入れた。
薄暗いと思っていた事務所に目がすっかり慣れてしまったのだろう。
用事が済んでから外へでてみたらこんどは圧倒的な陽射しがぎらぎらとまぶしすぎて目が開けられない。
炒るような陽射しと乾いた地面からの照り返しそして乾いた熱気にあてられて一瞬めまいがするほどだ。
目を細めて辺りをうかがうとさっき自分の前にいたふるいVWステーション組のおじさんたち二人はTシャツをぬいで半身裸になっている。
そして道端にある水道の蛇口の下へ頭つっこんで冷たい水を頭に浴びせていた。
なんともすこぶる涼しそうであった。
その近くの木蔭で官犬?のシェパード君が寝そべってそれを上目づかいにながめていた。
そのときふと両替所がここにあるはずだけと思い出し並んで建っている他の棟に行ってみた。
並びの端の方にそれらしき建物があったがあいにく閉店中であった。
残念ながらアルバニアの通貨であるレクへの両替はできなかった。
車に戻って地図を拡げこれから進むルートをたしかめた。
すぐ先にある次の町ポグラデッツにある銀行で両替すればよいと思った。
強烈な午後の暑さに炒られて時の流れがよどんでいるようなアルバニアの国境検問所を後にしてふたたび狭い沿岸路を走り出した。
はじめて訪れるアルバニアという国へ入ったという感慨を感ずる間もなくほんの数KM走ったらあの金網の塀が途切れた。
その辺りでゆるやかな下り坂になり目の前には何軒かの家並みがあらわれた。同時に緊張感もすっと消えたようだ。
左側がオフリド湖の湖岸左側の山並みは低くなりながらかつ遠のきその分湖岸からすぐに耕作地が広がっている。
遠くのほうに羊の群れらしきものが見える。
ところどころにぽつりぽつりと民家が散らばって見える。
平和な田舎の風景である。
ちいさな村を走り抜けてさらに進んで行くと湖岸の水浴から帰ってきたらしい人たちに出くわした。
あいかわらず道幅が狭く歩いている人たちがいるので努めてゆっくり走る。
その辺りからは湖岸で水浴をして遊ぶ人たちが見え路上をはだしで歩いている子供達の声が行き交っている。
少し先に大勢の人だかりがしている所があった。
近づくとそれは小さなレストランらしく外に並べたたくさんのテーブルはすでにいっぱいでウエイター達がその間を体を傾かせながら動き回っている。
人だかりは座れきれない人たちがレストランの入り口付近に群がっているのだった。
この道沿いにはそのレストラン以外には食料品店が1軒あったきりだ。そのほかにはこれといった保養地らしき施設や建物はなにも見えない。
それでもそういう人たちを眺めているとやはり夏の保養地っぽい雰囲気が充分に漂っている。
猥雑さや混雑度それから実際の保養客の数は比較にならないが数年前に立ち寄ったハンガリー南部にあるバラトン湖畔に似た雰囲気があるようだ。
そこを通り抜けて湖岸に沿った道路を先に進むと人気が少なくなった。
ふたたび左側にはあまり手入れをされていないような耕作地が広がっている。
その景色にすこし違和感をおぼえた。
もしや?と思いさらにしっかり良く眺めてみるとすぐにその原因がわかった。
あのホッジャのブンカー(トーチカ)が“道端やひとつ向こうの山の斜面に3ついやもっとありそうだ、数えてみると6つかな”現れたのだった。
径5~6mぐらいまるでままごと遊びの土饅頭のような格好をしたコンクリート地肌色のものが地面にかぶせてあるのだ。
ほかのどこにもないこの国にしかないこのアルバニアというついこの間まで鎖国をしてこの国を治めていたホッジャが造らせた70万個もあるというブンカーがアルバニアへ入ったことを否が応でも実感されられるのだった。
*(びっくり1)**(青ざめ)*
ただし五線譜のように有刺鉄線が弾かれたひさしである。
湖岸に沿った斜面に敷設されたアスファルト道路で車どうしのすれ違いがやっとできるほどせまい道路だ。
この辺りには何かわからぬがかすかな緊張感を感じる。
湖岸にも人や動物の気配はない。風もまったくないので空気が固まってし~んという音が聞こえるようだ。
小鳥の声さえも聞こえないしとにかく不気味なほどに静かすぎる。
景色全体がぴ~んと張り詰めている感じがする。
この緊張感は国境地帯というところから来るのだろうか。
その金網塀の網目の向こうにアルバニア側の蒼い湖面と黒っぽい山々の嶺峰の連なりが見える。
ゆるやかな下りの左カーブを抜けたところにマケドニアの出国検問所があった。
国境検問所といってもいたって簡素で二人も入れば満員になってしまう大きさの有料道路料金支払い所風の箱が大きな白いひさしのしたにひとつあるだけである。
その箱の側面についた窓のところで一旦停車し中にいる制服姿の年配係官へパスポート・車検ならびにグリーンカード(車両保険証書)それと運転免許証をまとめて手渡した。
係官はパスポートのページをパラパラとめくって押されている数多の出入国スタンプを調べていたが“OK”といってすぐにすべての書類をポンッと返してくれた。
出国のスタンプは捺してくれなかった。
ここでもそうだったが入国より出国する方の検問はあまり時間がかからない。
その窓付きの箱(検問所)を後にして左にそして右にそれぞれ3つ目のカーブを曲がったところにアルバニアの検問所があらわれた。
ここの窓付きの箱(検問所)の風体はさっき通過してきたマケドニアのものとさして変わらぬがそのほか道路に沿って国境管理事務所や両替所らしき小さな建屋が6棟ほど山側に連なって並んでいる。
そのいちばん端の建物と次の建物の間に起立する旗ポールには赤地に黒の双頭の鷲が描かれたアルバニアの国旗が掲げられている。
ほとんど風がないので国旗は力なく垂れ下がっている。
ここの窓付きの箱(検問所)のすぐ先に白とグレーに塗られたゲートバーがある。
そこに着いた時先客が二組いた。
くすんだ緑色のふるいベンツセダンと濃いブルーのふるいVWステーションワゴンがすでに入国審査中である。
その後に着いたがどうも時間がかかりそうな雰囲気なのでエンジンを止めて少しでも風が入るようにとドアを半分開けた。
まだ高みにある真夏の太陽にじりじり炒られ停まっている車の中にいると汗がどんどん吹き出てくる。
待つほどもなくまえの二台はゲートバーの向こう側へ進んだ。
自分の番になって窓口へパスポートとほかの書類を出した。
今回もパスポートのページをめくっていたがすぐにスタンプを押してくれた。
てっきりこれでOKかと思っていたら別の係官が外へ出てきて“前に進んであそこの右脇に停めなさい。”とその場所を指差して誘導された。
前にいた2台も同様にすでに道路わきに停めてほかの係官に検問をうけている。
車からおりると女性一人を含む渋い緑色の制服姿の係官3人がならんでやってきて陽の照りつける路上でたったままで検問を始めた。
いっしょに来たほかの係官の一人は制服姿がよく似合うひげ剃りあとが濃い年配男とそしてスマートな体格の若い男である。
どうやら年のころ20代後半と見える女性係官だけがいちばん語学に長けているらしくさっき手渡しておいたパスポートと車の書類を手にもって目線があったところで話しかけてきた。
ながいブルネット髪をうしろで束ねている。
それが渋いみどり色の制帽からはみ出している。
顔付きは南ドイツの田舎町にでもいそうなぽっちゃり顔ではあるが目つきはなかなか利発そうな風貌をしている。
“あなたはドイツ語・イタリア語?英語・フランス語?それともアルバニア語が話せるか?と、アルバニア語で言っているらしい。
半呼吸おいてから
”アルバニア語を話したいのは山々だが残念ながらまだ良くわからないので英語でお願いする。”
と英語で返答した。
その係官もおなじように半呼吸おいて“Mr.○× あなたは一人だけか、ほかに連れは?
あなたはどこから来たの?
これからどこへ行くのか?
何の目的で?
何日この国に滞在するのか?
これはあなたの車か?
酒やタバコなど申告するものはないか?”と質問された。
“オランダに住んでいて今はバケイション中でこれから貴国のアドリア海海岸にあるDURRESへ向かうところだ。
そのあとTIRANEへ寄ってからモンテネグロへ移動する予定で、アルバニアへ入るのは初めてで2~3日間ほど滞在するつもりだ。
これは自分の車である。
酒は飲まないしタバコも吸わないからそういうものはまったく持っていない。
今晩はDURRES泊まるつもりだ。 良い所だといいんだが…。”
と相手の目を見ながら返答した。
じっとそのままの目線で一呼吸おいてから同僚へ“コレコレシカジカナントカカントカフムフムナルホドアノネーソーデスカー~。”といってから、
“ではリアトランクを開けなさい。”という。
これもルーティンウヮークなのだろう丸ぽちゃ顔係官が入っている荷物の中身をお義理程度にしらべてそれでおしまいかと思った。
すると横にいた若い係官が脇からのぞきこんでトランクの奥まった所にいれておいた飲料水がたくさんはいったダンボール箱を見つけた。
これはオランダから品質確認済随時水分補給用として持ってきているものである。
とにかくカラフルな意匠のいろんな種類の330ml缶やPETボトルがたくさん入っているのですこし疑問を持ったようだった。
3つ缶とPETボトル1本引っ張り出してきて
“これはなんだ?
こっちは?
それはなんだ?“
とやや疑いの眼差しで聞いてきた。
“それはとっても美味しい緑茶でそっちはスポーツドリンクだしあれは爽やかなフルーツ清涼飲料水でどれも私のお気に入りの飲料だ。
とにかく暑くて汗をたくさんかき喉が渇くのでこれをのむのだ。”
と一々説明した。
考えてみればアルバニアはイスラム国なのでとくにアルコール飲料の持込には神経過敏なのだろう。
とにかくアルコール類ではないのが判ったようで穏やかな表情に戻った。
さらに車内の方も一べつしたあと丸ぽっちゃり顔係官がかすかに微笑みながら“OKだ。 ぜひDURRESであなたの休暇を充分楽しまれることをいのる。”
と申し渡してくれた。
これもホリディでアルバニアを訪れる観光客用のルーティン会話なのだろうかと思ったがそう言われればけして悪い気はしないものだ。*(ウインク)*
これですべて完了らしいやれやれと勝手に思い込んでいたら、
その丸ぽっちゃり顔係官が
“ではあそこの事務所へ行ってEuro.10-を支払いなさい。”とのたまわれる。
ああ~まだ終わっていなかったのだ。
“?なんでEuro.10-??”
すこし戸惑っていると
“では本官がご案内仕るのでいっしょについてきなさい。”
といっているような仕草とともに若い方の係官が渡してあるパスポートと車の書類をもってその事務所のほうへ歩き出した。
よく事情がわからなかったけれどしかたなくその係官のあとについて6棟並んでいるまんなかの事務所へはいった。
事務所の中は薄暗く太った年配の係官が額に汗をかきながら扇風機の風を背中にうけながら正面の事務机に座っているのが見えた。
若い係官から手渡された私のパスポートと車の書類を広げながら必要な事項を拾い出している。
そして液晶フラットスクリーンではないやや古ぼけたボディのブラウン管型ディスプレイPCをみながらキーをたたいて打ち込み始めた。
キーがしばしストップしてこちらを向いて、
“生まれは?”
“ええ~とここです。△▽◇○。”
パスポートの出生地のところを指差す。
“車の名前は?”
“○凸凹日の丸です。”
書類の一番上の行を指差す。
さらに汗をにじませながらもひととおり必要な情報を入力し終わり、机の横のプリンターからけっこう長い書類をプリントアウトした。
その書類の中ほどを指差しながら、
“Euro.10-だ。”という。
まだ良くわからぬけどどうもビザ代か通行料のようなものらしい。
ここで確実に支払って支払い証明書をしっかり持っていないと出国のときにトラぶりそうような気がしたので、ではと素直に腰のウエストバッグからEuro.10-札を1枚取り出して支払った。
その係官はつごう書類2枚に自分の署名をいれ、そのうち上側1枚めの半分を切り取ってパスポートと車の書類とともに渡してくれた。
これでほんとうにすべて完了だ。
返してくれたものをウエストバッグへしまい入れた。
薄暗いと思っていた事務所に目がすっかり慣れてしまったのだろう。
用事が済んでから外へでてみたらこんどは圧倒的な陽射しがぎらぎらとまぶしすぎて目が開けられない。
炒るような陽射しと乾いた地面からの照り返しそして乾いた熱気にあてられて一瞬めまいがするほどだ。
目を細めて辺りをうかがうとさっき自分の前にいたふるいVWステーション組のおじさんたち二人はTシャツをぬいで半身裸になっている。
そして道端にある水道の蛇口の下へ頭つっこんで冷たい水を頭に浴びせていた。
なんともすこぶる涼しそうであった。
その近くの木蔭で官犬?のシェパード君が寝そべってそれを上目づかいにながめていた。
そのときふと両替所がここにあるはずだけと思い出し並んで建っている他の棟に行ってみた。
並びの端の方にそれらしき建物があったがあいにく閉店中であった。
残念ながらアルバニアの通貨であるレクへの両替はできなかった。
車に戻って地図を拡げこれから進むルートをたしかめた。
すぐ先にある次の町ポグラデッツにある銀行で両替すればよいと思った。
強烈な午後の暑さに炒られて時の流れがよどんでいるようなアルバニアの国境検問所を後にしてふたたび狭い沿岸路を走り出した。
はじめて訪れるアルバニアという国へ入ったという感慨を感ずる間もなくほんの数KM走ったらあの金網の塀が途切れた。
その辺りでゆるやかな下り坂になり目の前には何軒かの家並みがあらわれた。同時に緊張感もすっと消えたようだ。
左側がオフリド湖の湖岸左側の山並みは低くなりながらかつ遠のきその分湖岸からすぐに耕作地が広がっている。
遠くのほうに羊の群れらしきものが見える。
ところどころにぽつりぽつりと民家が散らばって見える。
平和な田舎の風景である。
ちいさな村を走り抜けてさらに進んで行くと湖岸の水浴から帰ってきたらしい人たちに出くわした。
あいかわらず道幅が狭く歩いている人たちがいるので努めてゆっくり走る。
その辺りからは湖岸で水浴をして遊ぶ人たちが見え路上をはだしで歩いている子供達の声が行き交っている。
少し先に大勢の人だかりがしている所があった。
近づくとそれは小さなレストランらしく外に並べたたくさんのテーブルはすでにいっぱいでウエイター達がその間を体を傾かせながら動き回っている。
人だかりは座れきれない人たちがレストランの入り口付近に群がっているのだった。
この道沿いにはそのレストラン以外には食料品店が1軒あったきりだ。そのほかにはこれといった保養地らしき施設や建物はなにも見えない。
それでもそういう人たちを眺めているとやはり夏の保養地っぽい雰囲気が充分に漂っている。
猥雑さや混雑度それから実際の保養客の数は比較にならないが数年前に立ち寄ったハンガリー南部にあるバラトン湖畔に似た雰囲気があるようだ。
そこを通り抜けて湖岸に沿った道路を先に進むと人気が少なくなった。
ふたたび左側にはあまり手入れをされていないような耕作地が広がっている。
その景色にすこし違和感をおぼえた。
もしや?と思いさらにしっかり良く眺めてみるとすぐにその原因がわかった。
あのホッジャのブンカー(トーチカ)が“道端やひとつ向こうの山の斜面に3ついやもっとありそうだ、数えてみると6つかな”現れたのだった。
径5~6mぐらいまるでままごと遊びの土饅頭のような格好をしたコンクリート地肌色のものが地面にかぶせてあるのだ。
ほかのどこにもないこの国にしかないこのアルバニアというついこの間まで鎖国をしてこの国を治めていたホッジャが造らせた70万個もあるというブンカーがアルバニアへ入ったことを否が応でも実感されられるのだった。
*(びっくり1)**(青ざめ)*