昨年の2月26日に自粛要請が出された時
藤田俊太郎さんが演出を手がけていらした「天保十二年のシェイクスピア」は
東京公演が3ステージ残して中止となり、3月の大阪公演も中止が決まったらしく(汗)
主演の高橋一生さんは、2月27日の最後のカーテンコールで「心の底から無念です
娯楽が世の中からなくなったら『豊かな心』が失われて行ってしまう」と語られたそうですが
「甲斐バンドツアーの延期発表でも、テンション下がったのに
ツアーが開幕してから中止なんて言われたら泣くに泣けないよ」と奥さん
イヤ、そういうファンの気持ちも含め、公演に向けて稽古を重ねられたことはもちろん
共演者の方々や、スタッフの皆さんと作り上げて来られたものを
この先、ステージを重ねられることで、更に深みを増すであろうものを
途中で手放さなければならない無念さは、察するに余りあります
後々、仮に再演される機会があって、同じ顔ぶれがお揃いになったとしても
ただでさえ「生モノ」と呼ばれる舞台芸術を
当時と同じように再現するのは不可能…というより、そもそも再現では意味がないし
やはり失われたものは取り戻せないんですよねぇ…(汗)
「半沢直樹2」で大活躍された歌舞伎役者の尾上松也さんは…
「緊急事態宣言が出た昨年4~5月は、ほとんど自宅で過ごしていました
公演が中止され、稽古もほとんど出来ていませんでした
『3密』を避けるためには仕方ありませんが、心苦しく悔しくて
歌舞伎という仕事が自分の生きる目的で、原動力になっていたことを改めて感じました」
…と話されていて「スルース」のプログラムに載っていた吉田鋼太郎さんの
「やっぱり自分は演じたい人間なんだなと…
これだけ芝居がやりたいと思っているということは
俳優の仕事を選んで良かったのかも知れない」という言葉や
甲斐さんが「良いものを作る時間をくれよ」と宣言なさって
ツアーを休止され、レコーディングに専念なさっていたにも関わらず
「アルバムが完成しようがしまいが、とにかくツアーに出たい!」とおっしゃった話を思い出し
「舞台に立つこと」が日常でいらした方が、その日常を奪われると
ご自身のお仕事に対する情熱を改めて実感なさるものなんだなあと…
ともあれ…松也さんは「何とか目標を見つけようと、歌舞伎の表現方法の1つである
『みえ』などを採り入れた配信用の動画の撮影をしたりして
以前からの課題だった『若い次世代のお客様に来て頂くこと』に取り組み始めました
ネット配信の公演には、これまでの舞台にない角度や近さがあるので
表現方法を考え直す機会にもなるし
どんな演目や配役で、どう伝えて行けば良いのか
ビジネスとして成功することを、今まで以上にシビアに考えないといけないと感じています」
…と「時代に敏感」で「お客様のニーズに対応する柔軟性」を持つ歌舞伎界が
「配信などネットの活用に乗り出す姿勢」に可能性を見出だされる一方で
「歌舞伎には、画面を通してでは伝わらない、その時にしか味わえない空気感があります
リアリティやドキドキを同じ空間で共有できるのが、生で観ることの醍醐味だと思います
同じ空間で何かを生み出すことは、喜びや楽しさが大きい
コロナ禍で仕方ない面もありますが、対面なしで何でも済ませるのは
生きる上で損ではないでしょうか」
…と生の舞台の魅力を語られているのを拝見して
ふと、1日最低1食は召し上がらないと収まらないくらいの蕎麦好きでいらっしゃる渡辺謙さんが
ロケ先などで蕎麦屋さんが見当たらず、仕方なく駆け込まれた駅の立ち食い蕎麦屋さんを
「救急車」と呼んでおられたことが重なりました(笑)
それはともかく、歌舞伎蓙支配人の橋本芳孝さんは…
「昨年の3月公演が、開幕を段階的に延期した末に全公演中止となり
無観客で収録した映像を4月に無料配信しました
前例のない5ヶ月間もの空白の中、劇場からクラスターは出せないという思いで
劇場と松竹の製作が一致団結し、安全に上演できる態勢の検討に追われました
再開場した8月は、初めての1日4部制を導入し、各部とも1時間前後の1演目のみで
出演者とスタッフは、部ごとに入れ替えることとし、その間に客席や楽屋を消毒する
お客様には、場内での会話や食事を控えて頂き
俳優への掛け声『大向こう』も禁止という対策を立てたのですが
1808席の内、823席の販売で再開し、収容率が、一時100%に緩和された昨年秋以降も
904席と50%に留めているため、興行的には厳しいですし
『1本で満足して頂けるのか?』という問題提起もありました
だが、まずは安心して来場できる、演じられることを第一にした判断です
今年から、各部2演目の3部制とし『幕あい』も復活させましたが
緊急事態宣言を受けて、開演時間を繰り上げるなど、元の賑わいが戻るまでには時間がかかる
それでも、私たちには、生の小屋が醸し出す芝居の魅力を提供して行く責任があります
歌舞伎という伝統芸術が継承されて行くためにも
俳優が、お客様の前で舞台に立ち続けられることが重要です」
…と、やはり採算よりも興行を打つことに重点を置かれているようです
ただ、瀬名社長(笑)は「歌舞伎とドラマや映画には
技術的な違いはあるものの、役を演じるという意味では同じ
歌舞伎で学んだ感情表現などが生かせることもあるし、逆もあります
役者は、どれだけ多くの引き出しを持っていられるのか、積み重ねが大事です
コロナ禍で、ドラマを観たり、音楽を聴いたりする時間が増え
エンターテイメントが、どれほどストレスの捌け口や癒しになっているのかを知り
自分たちが活動することで、救われる人もいると感じ
とにかく活動を止めないことが大切だと考えています」…と話されていて
「配信なんか、死んでもヤだね!」と思っていらした某ミュージシャンの方(笑)が
「こんな閉塞した時代だから」と頭を切り替えられたことと通じるものを感じました
ぴあ総研の笹井裕子所長によれば…「有料のオンラインライブは
ほぼゼロから急激に市場が立ち上がり、予想以上に大きな数字になった
その背景には、エンターテイメントへの強い枯渇感と
苦境にあるアーティストなどを応援したいという思いがある」そうで
実際に、公演が中止になっても払い戻しをせず
アーティストを応援なさるファンの方もいらっしゃるみたいです
「実際に会場に足を運ぶリアルイベントと比較すると
アイドルでは、オンラインの参加率がリアルの3倍」…って
リアルだとチケットが入手できないような人気アイドルのファンの方や
地方在住で参加を諦めておられた方々が、こぞって流れ込んだためみたいだけど…
「邦・洋楽のロック・ポップス、お笑い、ダンスなども、リアルの2倍になったものの
2020年のリアルのライブイベント市場は、前年比で5千億円程度消失しており
昨年のオンラインライブの市場規模の448億円では、穴埋め出来ていない
ただ、オンラインライブは、不可逆的な流れとして今後も増えて行く」と予測されるらしい
また、配信に詳しい評論家の榎本幹朗さんは…
「ドーム級のツアーをすると、公演前後の準備と撤去の計2日間も含め、会場代だけで
1日2千万円程度かかり、グッズの在庫も抱えるので、中止になると大変な損害になる
配信だと、最低限スタジオを押さえれば実施できるため、リスクが少ない」
…と、主催者側のメリットに注目なさっていて
更に「視聴経験者の内、約4割がチケット代とは別に
視聴しながら寄付をする、いわゆる『投げ銭』などの有料アイテムを購入しているが
『投げ銭』にあたる仕組みが、数年前から定着していた中国では
チケット代を上回るほどの莫大な利益が生まれるようになっており
今後、日本でも増えて行くのではないか
コロナ収束後も、業界にとって収益の大きな柱に成長して行くだろう」…とおっしゃっているものの
笹井所長は「オンラインライブの市場全体の内、上位10公演が3分の2を占めている
つまり、嵐やサザンオールスターズなど、巨大なファン層を抱える
ビッグネームが多額の収益を生み出す陰で、収益化が難しい公演が多数あるということです」
…と、データだけでは計れない部分を指摘
例えば、地方のライブハウスに、コロナ以前に訪れていた観客の半数近くは
東京からやって来る人気ミュージシャン目当てだったらしく
ツアーや遠征がなくなって、売り上げが激減し、配信に活路を見出だそうとするも
配信で数字が取れるミュージシャンは、東京に集中しているため、地方はどこも厳しい状況で
東京のライブハウスでも、機材や人材を揃えるなど、ある程度の経費を回収するには
200人くらいの視聴者が必要とされるものの
「なかなか、そういうミュージシャンはいない」そうで
「リアルでも配信でも、中間層がない二極化した格差社会になっている」んだとか…(汗)