【本論考は2021/3にオフィス学会へ寄稿した論文です。タフなボリュームなので時間のある時にご覧ください】
はじめに
新型コロナウイルスが人類に「試練」を与え続け ている。この「試練」は私たちに、改めて「命」の大切さ、 人間の「尊厳 」、 そして 、 人類レベルでの持続可能なウェルバラ ンス ・ソサエティ の在り方を考えさせる貴重な時間となっている。
昨年の4 月 7 日に続き、今年1月には2 度目の「緊急事態宣言」 が発出され、首都圏では2ヶ月以上の期間にわたり、外出(出社)制限が課せられ、多くのワーカーが、オンライン・コミュニケーションツールによる、非対面(交流)でのWeb ネットワーク仕事を経験 している。
従来、決められた時間と決められた場所で、人間が集合し交流しながら働く場所を「オフィス概念」とした、英国産業革命時代からの300年の歴史において、オフィスの概念や働き方ワークスタイルは、時代と共に変遷変化し進化を遂げてきた。
パンデミック環境下、人々の交流やMeetup が制限された中で、バーチャル・リモー トワークスタイルが定常的となり、物理的な「オフィス」の役割と必要性が問われている。
本稿では、コロナパンデミックがもたらした働き方のパラダイムシフトを踏まえ、「オフィス」の本来機能と役割を再考・考察しながら、『未来系ヒューマン・コミュニティオフィス』の在り方と意味をスペキユラティブデザイン(問のデザイン)手法により提言してゆく。
1. 「ワーク・トランスフォーメーション」がもたらすオフィス概念のパラダイムシフト
今何が変わりつつあるのか?
日本社会で「仕事」に対する意識と、「働く事」への向き合い方が少しずつ変わり始めた。人命との引き換えに、「働き方改革」の社会気運が高まり、2019年4月1日からは、現代労働事情に即した「労働関連法規」が見直しされつつある。
組織側(雇用者)の責任と義務の範囲が見直され、被雇用者である従業員(社員等)にとっての「働くことの意味と意義」を再考させてゆくきっかけとなりつつある。この変節点の時期に発生したコロナパンデミックは、テレワークやリモートワークに代表される、多様でフレキシブルな仕事スタイルへの変移「ワーク・トランスフォーメーション(WX)」を触発させた。
この結果、「決められた時間と決められた場所で、人間が集合し交流しながら働く場所」としての「オフィス」の在り方や価値評価が変質しつつある。
一部の企業経営者は、WXとデジタル・トランスフォーメーション(DX)を掛け合わせれば、「物理場リアルオフィスなどなくても、在宅ワーク等を組み合わせて仕事はできる」との経営判断をするケースもあるようだ。
企業経営者にとって「オフィスの費用」は、大きな「コスト」との意識を持つ傾向があることから、「コスト削減」に直結するオフィス空間スペースを減床させる「誘惑」に、多くの経営職階の人たちは直面している。
既に、現行オフィススペースの面積を半減させる方針を示している大手企業もあり、日本社会での「オフィスの概念」は正にパラダイムシフトの渦中にあると言える。
果たして、この潮流は、「組織に属して働く人々」や「自立的に活動し働く人々」、そして「企業・公共・団体・学校等各種法人組織」にとって、更には、日本社会や人類にとってウエル・ビーングを醸し出し、「幸福な社会」「幸福な組織」そして「幸福な家庭」、そして「幸福で豊かな人生」を共創してゆくことになるのであろうか。
2.「オフィスの在り方」と「人間の在り方」
→ 「働く事」と「生きる事」 人生における働く意味と価値とは?
「オフィスの在り方」を未来定義するには、「人間の在り方」をベースとした考察と、時代や社会事情に適応させてゆくイノベーティブ思考が必要である。
一例を示そう。
オフィス機能の一つは「働く」場所と仮定義してみよう。そこで「働く」主体は、人間「個」であり、企業等の組織は、人間「個」の集合体としての概念的な「器」であるとともに、人間「個」の相互知的交流を通じ「集合知」を蓄積増幅させて、新価値結合たるイノベーションを沸き起こす「場」である。
「場」に集う人間「個」の「働くこと」の本質は、人間が持つ「付加価値創出力」と「新価値創造力」の創発行為・行動により、脳力や能力を、人類社会へ還元してゆく「人生の行動・行為」でもある。
筆者は、この「行動・行為」をベースとした活動は、人間が人生を「生きる事」そのものとの視座でとらえてみると、仕事で「働くこと」と、日常の暮らしや生活してゆく事、つまり「生きる事」は、人生時間の中では同軸でとらえるべきと考えている。
「仕事時間」と「生活時間」を別軸で認識して、「ワークライフバランス」、つまり、「均衡」とらえる視点もあるが、「仕事時間」と「生活時間」を「人生時間」の一部として位置付けて、「ライフ&ワークハーモナイゼーション」と「調和」の認識をしてゆくアプローチもある。
この視点で、「オフィス概念」を考えてみると、オフィスとは、働く為の空間・時間に限定された「仕事場」だけではなく、人間が充実して豊かな人生を創造してゆく為の「人生の暮らし場」的な視点も忘れてはならない。
そもそも、人間とは、ホモ・サピエンス(英知人)であり、ホモ・ルーデンス(遊戯人)であり、ホモ・ファーベル(工作人)でもあり、そしてホモ・シンボリクス(象徴人)と言われる。オランダの歴史学者ヨハン・ホイジンガは、人間を「ホモ・ルーデンス」(遊ぶひと、遊戯人)と呼び、遊び(ルードゥス)こそが他の動物と人間とを分かつものであり、政治、法律、宗教、学問、スポーツなど、人間の文化はすべて「遊びの精神」から生まれた、あるいは、あらゆる人間文化は遊びのなかにおいて、遊びとして発生し、展開してきたものであると主張する。
『「遊び」は「文化」よりも古い。「ホモ・ファーベル」(作る人)よりも「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)が先にある。』
というのがホイジンガ哲学の大前提であり、
「文化」ついても、そこに遊びの要素を発見できさえすれば、「文化とは何か」ということを解きほぐすことができる。
筆者は「仕事」も「文化」的なものと解釈しており、「仕事=働く」に於ける「遊びの要素」を見つめてみると「仕事とは何か」、また「働く意味とは」といった仕事の本質が見えてくる。
ホイジンガ曰く、『人間は、すべからく「遊者」である! 』。
人間は誰もが、子どもの頃からその原型的な経験を持っておりし、エンタテインメントが生活の潤いとなっている現実を見るに、人間には「遊び」が必要なのである。
仕事を「遊び」ととらえることは、時間を忘れるほど没頭しても、疲れではなく心地良さや満足感を感じるかもしれない。
現代社会において「仕事」は厳格で神聖なものではあり、「遊び」とは正反対の概念である。しかしながら、ホイジンガーの哲学が示唆するごとく、働く人々の意識に「遊び」心を宿らせる「場」を「オフィス」と再定義すれば、働く人一人ひとりの「やる気」や「集中力」が高まり、
3.現代組織社会における「オフィス概念」の思い込み感と「管理・監視マネジメント意識」からの解放
組織社会の常識や通念として、オフィスとは「働く場所」と認識されている。
企業等組織は、常用雇用する所謂「正社員」を始め、期間雇用社員、派遣労働社員、そして業務請負・委託社員などの一部を、企業等組織が定めた「働く場所」に出社または集合させて「仕事」に従事してもらうのが常識的概念である。そして、集う人々の働き方の形態やミッションの違いはあれど、組織に共通している点は、「人間が担う価値創出活動」への期待値であり、組織はその創出された価値に対する「相応の報酬」を支払う資本主義社会の当たり前の構図。この組織意識の背景には、「報酬」の妥当性を評価し、「価値創出活動」が適正になされているか、そしてその行為・行動が、組織価値の向上と発展に資するものでもあるかの「判断」をするために、組織側が、働いている人々を「管理・監視」する意識構造が定着している。
それ故に、働く場所としてのオフィスは「管理・監視」されるのが当然の場所であり、仕事に集中する事が是とされ、就業時間中に暮らし事(いわゆるプライベート)の時間を費やす事は「サボタージュ」ととらえられてしまう組織スティグマがある。
長年継続されてきたこの「常識感」や「思考スタイル」のパラダイムが今変質しつつあり、組織側の経営管理職階層の人々にとって、働く場所としてのオフィス概念への思い込みを再認識してゆくことが必要となりつつある。
未来系オフィスは、必ずしも「固定場所」ではなく、社員等が、組織との合意のもと自律的に選択ができる「働く場」であると共に、「人間の暮らし場」であり、また、人に優しく心地を整える「空間と人の場」としての概念をベースとした「場」としての認識にマインドセットしてゆく事が重要である。
「経営」は、働く人々を「管理監視」統制するだけでは無く、人間の創造力を誘発させる「心知の交流場」として、また、「暗黙知のスクランブル交差点」的な「形式知の創発場」としての「場」つくりが求められる。更に、文化・風土の醸成装置」や「価値創造に向けた実験場」的な「場」としての視点を考慮し、労働者が「遊びの如く働く」、謂わば、労働者をホモルーデンスの集合としてとらえ、「創造性を高める幸福なオフィスの在り方」を探求してゆくことが組織社会にとって重要である。
4.「組織のサイロ化」に迎合した隔離型オフィス空間と、オープンイノベーションを志向した解放型コミュニティオフィス
→ オフィスは組織別単位で使うものか?
次に、オフィスの空間スペースについて考察してみよう。一般的にオフィスの区画は、「共通目的」を持ってスペースを使用する、同一組織や人間集団が、他の組織や外集団とは隔離させて、限定された人々により利用されるのが通常の形である。
「〇〇会社のオフィス」には、関係者以外は立ち入る事が出来ない。それは、オフィス内には、有形・無形の「営業機密」や「秘密事項」が存在しており、関係者以外への機密事項等の漏洩を防止する事が一つの理由である。また、自組織が不利益となる「情報」を社外に流出させない為の防御策、要すれば、物理的なスペースへの「情報セキュリティ管理」が目的である。ネットワーク社会では、物理場より、デジタル場のセキュリティ管理が重要である事は言うまでもないことであるが。 また、同一組織内でも、「関係者以外」に情報を開示しないケースもある。
こうした光景は、当たり前の意識として「疑問」にも思われていないが、組織自体の情報資産管理へのセンシティブな思い込みが、組織の「意識サイロ化」を助長している側面も否定できない。
こうした意識風土は「隔離型オフィス」を志向させる傾向がある。しかしながら、一方ではオープンイノベーションを志向したオープンオフィス概念も併存している社会の中で、オフィス概念を再考してゆく事が必要である。
果たして、働く場所としてのオフィスは、同一組織の関係者だけが集い、空間を占有し、時間を共有することだけで「機能」を果たしていると言えるのだろうか。
筆者は、この問いに対する社会意識の顕れが、組織社会の共創志向やオープンイノベーション期待感を背景として、「コ・ワーキングスペース」型のオフィス提供事業が拡大しているものと考えている。
しかしながら、現時点では組織社会側の「期待価値」を充足させるまでには至っていないように映る。それは、組織社会側が保守的オフィス概念から脱却できていないことも理由の一つかもしれない。
では、どのような道筋を示せば、未来系ニューオフィス概念への進化適応が促進されてゆくのであろうか。次節では、この問いを考えてみよう。
5.「未来系オフィス」の機能と役割が果たすべきソーシャルウェルネス共創の「場」創りを考察
組織社会では「オフィス」を、働く人々にとっての仕事場所たる「物理的な器」としてとらえる見方が一般的である。そこには、人間の気持ちや心など、人間コミュニティにおける「意識の場」の要素は考慮されず、専ら「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(ビル管理法)に遵法した、スペースや環境配慮が優先される傾向がある。
一方、オフィスを人間が新価値創造と付加価値創出をしてゆく「知的活動場所」ととらえた場合は、より人間オリエンテッドな要素たる、感性・情動や、認知心理など、人間の深淵な精神性や尊厳に配慮した「想いの場」としての機能要素を実装してゆくことが必要である。
筆者は、この「想いの場」の概念こそが未来系オフィス概念のキーファクターになると考えている。
「想いの場」の概念オフィスの在り方とは、組織を越境した人々が集い、 お互いの息遣いを感じ、ノンバーバルコミュニケーショ ンができる『気』(活気、熱気、意気、才気、士気)や『オーラ』を交信しながら、安心、安全そして「人間愛」を直接感じられる時空間でのリアルタイム交流により、価値創出の喜びを共感できる「場」といえる。
本稿では、この「想いの場」たるオフィス概念を「コミュニティオフィス」と呼ぶこととする。
6.「コミュニティオフィス」に不可欠な要素「安心・安全・安定・クリエイティブ、そして、わくわくハピネス」コンセプトデザイン思考
筆者は、「コミュニティオフィス」をデザインしてゆくには5つの重要な要素を認識している。
それは、①安心 ②安全 ③安定 ④クリエイティブ ⑤ わくわくハピネスという要素。
個々の要素の意味合いについて敷衍しよう。
まず「安心」とは、集う人々が仕事と暮らしの調和を図りやすい心地良い環境と、ストレスフリーでリラックス感を醸し出す「空気感」を演出すること。謂わば、「心理的安全性」に満ち溢れた時空感の創造である。
「安全」は、コロナパンデミックの中、空間スペースにおける密を回避し、一定のディスタンスを確保できる空間や動線設計の工夫、そして、空間のクリーンエアー・マネジメントの可視化を演出すること。具体的には、高性能HEPAフィルターを実装させた床置き空気清浄機の適正配置や、滅菌照明の導入、什器な器具類の抗菌証明などが挙げられる。もちろん、設備空調の機能を最大活用したうえではあるが。
「安定」とは、安心・安全環境を持続的に継続運用をしてゆくこと。設備や装置を適切に設置した上で、「適正運用」を実践してゆくこと。総務FM部門力が問われる。
「クリエイティブ」とは、設備装置や機器等を利用した安心安全対応に加え、人間の感性を刺激し、人間の潜在意識を誘発または触発させて、人間個の持つ「脳力」や「能力」そして「センス」を顕在化してゆく「場」の演出。具体的には、五感アプローチ手法(後述)やマインドフルネスアプローチ手法などを織り交ぜながら、サイエンス&アートをウェルバランスさせて、心地感とユーフォリア感、そして人間のセレンディピティを誘う「場」の要素と言える。
そして「わくわくハピネス」とは、人間のモティベーションやエンゲージメントレベルを、無意識のうちに向上させ、仕事や暮らしの中での活動を、「楽しさ」や「喜び」あるいは「感動」や「共感」のレベルに感受力を昇華させてゆく演出。この効果は、仕事に対しては、集中力をフロー(ゾーン)状態にトランスフォームさせて、価値創出行動の練度や閃きの頻度を高めるとともに、人生暮らし時間の充実と「多幸感」に浸れる機会創出となる。
7.人間にフォーカスした価値創造空間としての「未来系モデルオフィス」の仮想デザインと実現可能性
筆者が、未来系オフィスの形態の一つとして提唱する、人間にフォーカスした価値創造空間としての「コミュニティオフィス」の在り方と「場」つくりスタイルを具現化、普遍化し、近未来の実社会に実装してゆくためのディレクションと方法論を「未来系モデルオフィス」として実践的デザインコンセプトを示してみたい。
先ず、「コミュニティオフィス」に求められるオフィスの在り方と機能を次のように仮定義する。
「コミュニティオフィス」概念のベースラインにある理念は、
・人間の集い場
・人間の夢中創造の場
・自他の区別無く人生時間を共有する場
・心身健康に配慮されている場
・心理的安全性に満たされた場
・知の創造を促進するSECIモデルオリエンテッドの場
・コーポレートウエルビーンク(組織事業の成功)とエンプロイー・ウェルビーング (働く人々の幸せ)が調和されている「場」
・SDGsコンセプトにコンプライする「人類幸福実現の場」
これら理念は「超理想」として見えるかもしれない。しかしながら、筆者は、オフィス概念を「働き方」のみにフォーカスさせるのではなく、人間一人ひとりの「暮らし方」、つまり「人生の生き方」の観点をも抱合させた「場」としてとらえてみると、斯かる「超理想」は決して絵空事ではなく、人類として真剣に取り組んでゆけば実現可能な挑戦と考えている。
では、どのようにして、この「理想郷の場」を創り上げてゆくのかを考えてみよう。
8. 社会観察✖️Human&Work Techをベースとした「X-Tech」イノベーションによる
コミュニティオフィス=社会「場」の創造
人間の集合である社会の構造や社会意識は複雑であり、「あるべき姿」を描いてみても、その理念を実現してゆくプロセスは簡単ではない。また、社会生活を送る人々は、一人ひとりが人生創造と奮闘をしながら、豊かで幸せな日々の暮らしを希求するものの、その対応手段や解決手法は簡単に見つけられるものではなく、暗中模索しているのが現実社会。
前述したように、「未来系コミュニティオフィス」とは「社会場」であり、その目的は、「幸福な社会創造」に資するウェルネスコミュニティを共創する「場」とも言える。この「社会場」の構造や人々の想い、そして「場」で暮らし、仕事に勤しむ「労働者」の意識感や現実感など、様々な要素を整理しながら「社会観察・洞察」と「人間観察並びに分析」を掛け合わせてゆく事で、「社会現場」(組織、集団、地域等のコミュニティ)の温度感と空気感、そして意識感の一部が可視化出来るようになる。
この可視化手法の一つが、Human Tech やWork Techをベースとした、所謂『X-Tech』と呼ばれるテクノロジーである。
ビッグデータの集積とデータマイニング&アナリシス、AIを活用したセンシングデバイスツールの活用による「擬似的測定」手法である。社会事象の動向や人間行動等の観察、そして、オフィス等「仕事場」における、人間の感情や心理的意識、並びに感性や幸福感がもたらす「モティベーション」や「エンゲージメント」レベルを、擬似的仮説測定することにより、「個力」や「チーム力」、そして「組織力」や「社会力」などを類推し、組織社会での新価値創造や人間の幸福価値創造向けた「社会場」をデザインする手法である。
次に、筆者が取組んでいきた実践事例を紹介しよう。
9. ポジティブ心理学や幸福学をベースとした、人間の幸福意識(わくわく)に溢れた「場」つくりと持続的運営
筆者は、組織総務部長の立場にある時期に、本社オフィスの移転プロジェクトに携わった。自身としても初めての経験であったが、「社員を元気に」をミッションとして、「感性・五感投資マネジメント手法」と”自称”している「場」つくりメソッドを構築し、結果的に「人々の行動変容」と「組織の価値向上」に繋がった経験を持つ。
当時は、「クリエイティブオフィス概念」を再考し、クリエイティブワーカー主体の組織において、働く人々の「モティベーション」と「エンゲージメント」を高め、幸福意識(わくわく)に溢れる人間「場」を構築した。
筆者自身、オフィス学の研究者ではないが、振り返ってみると、実務を通して「オフィス関連学」や「デザイン学」、そして「感性・知性工学」「人間工学」などの領域に加え、「情報関連学」や「脳科学」「大脳生理学」「ポジティブ心理学」といった、「人間科学」領域を統合させた「人と場エンジニアリング」を実践してきた。
特に、こだわりを持った観点と視点が、人間「感性」と「オフィス空間環境」との心的相関性の解明試行、並びに「知性空間」の中での、人間「個」の暗黙知を表出化させてゆく「トランザクティブメモリーシステム*」を「場」に実装する試み、そして、組織の人間関係とコミュニティ間の意識交流とコミュニケーションを、「リアルオフィス」と「バーチャルオフィス」のハイブリッドスタイルで実践試行してみることであった。
* トランザクティブ・メモリーとは「誰が何を知っているかを認識すること」。組織内の情報の共有化で大事なことは、組織の全員が同じことを知っていることではなく、「組織の誰が何を知っているか」を組織の全員が知っている概念
(1) オフィスを「クリエイティブ場」に演出してゆくのに不可欠な人間「感性」とオフィス空間環境の相関性
筆者は、人間の「感性力」の大小が、「知的創造性」や「価値創造性」つまり、仕事の生産性や能率性へ影響を及ぼす要素と考えている。「感性」の定義は様々ではあるが、「感性とは感じることの性質もしくは能力」と哲学的定義も存在し、また生理学的には「瞬間的あるいは直感的に物事を判断する能力」と定義されることもある。そして、心理学的には「包括的、直感的に行なわれる心的活動およびその能力」とも言われる。これらに共通するのは、感性を「心の働きのひとつ、あるいはその能力」として捉えていることにある。そして、瞬間的、包括的な判断能力は「知覚」にも当てはまるものであり「印象評価を伴う知覚」と位置づけられる。
思想家のスーザン・ソンタグは、「知性もまた趣味(感性)の一種、つまり観念についての趣味」と述べており、「知性か感性」か、または「理性か情動」かといった二分法では落ちてしまうものの中に「感性の本質」がある。
感性は「想像力」や「イメージ」といった心の内的な表現にも関わるが、外部からの刺激による「知覚や感覚」で感性の変動を意識することになる。つまり、ここち良さ、快さ、面白さ、美しさ、などの「知感覚」をどのように研ぎ澄ましてゆくかにより、個の仕事力を劇的に向上させてゆく事も可能となる。
これらの感覚には個人差はあるが、「覚醒ポテンシャル理論*」を「場」のデザインに応用適用することで、働く人々のエンゲージメントレベルと幸福意識たる「わくわく感」を醸成し、結果オフィスで働く人々の「感性のエッジ」を研ぎ澄ましてゆくことが期待できる。
*覚醒ポテンシャル理論
心理学者のバーラインが提唱した理論で「人間は単純過ぎるものには快感を感じないが、複雑すぎるものには不快感を感じ、その中間に快感を最大にする」という『ちょうどいい感覚理論』
「感性」を刺激する、ここち良さや快さ、そして面白さや美しさなどの「知感覚」を、「オフィスの空間環境」の設計・デザインに織り込んでゆくことの意味と意義を「人と場エンジニアリング」で仮説検証を進めてきた。
(2) 「知性空間」の中での、人間「個」の暗黙知を表出化させてゆく「トランザクティブメモリーシステム」のトライアル構築と「サイバニクス」並びに「センシングテック」の活用
筆者が考える「知性空間」とは、組織に集い、オフィス等で働く人たち「個々人」の知識・唯識(五感と意識、無意識)、そして「さまざまな想い」が集合・集積した時空間ととらえている。その中に暗黙的に存在する「個知」を「集合知」や「集積知」に昇華させて、イノベーティブな新価値創造活動を刺激してゆく物理的器かつバーチャル意識空間を「オフィス」と解釈し「場」つくりを進めた。
中でも、オフィスに集う「個」の活動価値、暗黙知価値や心身状態を、適切にマネジメントコントロールし、「場」の健康状態や知力コンディションを可視化し、その情報を共通化してゆく手法として「サイバニクス」と「センシングテック」の活用を検討した。
「サイバニクス」とは、ロボットスーツHALで有名な山海嘉之教授が確立した概念であり、脳神経科学・運動生理学・ロボット工学・IT技術・再生医療・行動科学・倫理・安全・心理学・社会科学など、人・ロボット・情報系が融合複合した新学術分野であるが、この技術を用いて開発されているバイタルセンサー(血圧、脈波、心電、体温、血中濃度・糖度等、脳波、体組成...etc) や行動(加速度)センサーそして環境センサーの技術を融合させて、働き方や組織活動が可視化してゆくことが可能となる。
「センシングテック」には、働く人々の仕事力の基礎とも言える「心身健康」をモニタリングできる「バイタルセンサー」を始め、オフィス空間環境をリアルタイムでコントロールしてゆく「空調エアーセンサー」や「光・音・匂いセンサー」、そして「セキュリティセンサー」や などが実用化されており、オフィス空間に実装することにより、組織内における「人と場の活性化及び健全化」をサポートすることが可能となる。
こうしたテクノロジーを基盤とし、知の交流を促す「トランザクティブメモリーシステム」構築のプラットフォームが「パーソナル・インフォマティクスとライフ&バイタルロギングのコンセプトである。
(3) パーソナル・インフォマティクスとライフ&バイタルロギングで働き方改革を仕掛ける意味
パーソナル・インフォマティクス(Personal Informatics) とは、「自己の投影と自己監視を目的とし、個人的に関連がある情報の収集を支援する一つの個人の情報学」である。
このアカデミアの「知」を、実践オフィス空間「場」に適用することの意味は、働く人々が自立的かつ自律的に成長してゆくことを促し、ヒエラルキー組織での課題感でもある「2:6:2の人材能力ポートフォリオ」を改善してゆく「人財の高度化」に資するものである。
背景には、センシングデバイスと情報処理機器の小型化が進み,個々人の「生活体験」、「行動」や「健康状態」などを長期間記録・保存することが可能となってきた。
毎日の仕事や生活シーンは刻々と変化し、その時流の中で私たちは「生きている」を実感しながらも、過ぎた時間の「自分情報」は殆ど記憶に残っていないが、自己を振り返る機会をリマインドすることで「人生時間」や「仕事時間」を見つめ直し、仕事の能率や働く意識をエンカレッジして、簡単かつ便利に自分情報を入手できる手法が「パーソナル・インフォマティクス&ライフ/バイタルログ」の考え方である。アップルウォッチやFitbit、MEME,Muse...といった様々なセンサーデバイスとアプリは、働き暮らす人々の日常生活の膨大なログを自動的に記録してくれる時代となってきた。この機能をワークプレイスに実装してゆくことも、ウェルネスワークプレイスの「場」つくりに繋がる。但し、このサービス利用には必ず守らなくてはならない事がある。それは、組織社会で働く人たちのプライバシーを「監視」したり「管理」に繋がる使い方は厳に慎まねばならない。
斯かる情報は、あくまで働く人々個々人にフィードバックされるべきとの倫理感を組織側は意識することが肝要である。
(4) 組織の人間関係とコミュニティ間の意識交流とコミュニケーションを、「リアルオフィス」と「バーチャルオフィス」のハイブリッドスタイルで実践
当たり前の話ではあるが、組織とは仲良し友達グループではない。その組織が貢献し得る社会価値創造の目的(コーポレートビジョンとも言える)を共有する「人間集団」が組織社会を構成し、その組織に属する人々が、それぞれの立場(経営、社員・職員、補助的社員等)での役割を担いながら、さまざまな価値創造活動をする事が「仕事」。
そして「仕事」を推進してゆく物理空間の「場」がオフィスと考えてみると、オフィスに集う働く人々が共助、協力しながら、それぞれの職務を遂行してゆく仕事スタイルが組織の日常である。そして、その組織ミッションの過程において、働く人々一人ひとりの個性を尊重しながら、良質で良好な「人間関係」を築き、合同的に価値創造を推進してゆく事が求められる。日常的に、働き暮らす人々(役職社員や従業員等)が、組織内外との交流価値やコミュニケーション価値を高めてゆくには、相互かつ集団での円滑な「意識交流」と「コミュニケーション」を実践し得る「場」のデザインや工夫をオフィスに実装してゆく事が重要である。
「場」の設計にあたっては「コミュニケーション」の本質を理解し、「リアル場たる物理オフィス」ともに、ネットワークを介した「デジタル・バーチャル場」での知の交流や情報共有、そして作業効率や処理的業務の創意性を高めてゆく、ハイブリッドスタイルでの共創場構築思考が求められる。
以上が、筆者の体験と経験を通した「職場型クリエイティブオフィス」の事例と在り方を紹介した。
本稿のテーマである「未来型コミュニティオフィス」とは『職場型オフィス』概念の派生系の一つであるが、オフィスの本質的な在り方や機能、そして「場」という考え方においては共通する点も多い。
最後に、「未来型コミュニティオフィス」が紡ぎ出す人類知共創の概念と、全人類視点でのユーフォリア(幸福な社会)実現の世界観と実現への道筋を、SDGsの理念と合わせながら論考して
10.未来型コミュニティオフィスコンセプトが繋ぐ人類知共創の世界とソーシャル・ハピネスの実現
デジタルトランスフォーメーション(DX)やIoT、AI、RPA、ロボティクス、ゲノム解析、iP細胞、FMRI, 自動運転車...
と、社会は、どんどん便利かつ長寿世界となっています。
新技術は人類の英知の賜物ですが、本当に人類にとって幸福をもたらせるものばかりなのでしょうか。
シンギュラリティの議論があります。
AIが人間を支配する社会!
マトリックスやロボコップで描かれたSF社会が、現実となる時代!
機械力が人間力を超える事が「便利」で「幸せ」なのでしょうか?
今「働き方改革」が問われ、人間らしい暮らしができるように、長時間労働の改善が進められていますが、「働き方」の前に「働く」とは、を再定義しておく事が大切です。
私たちは、楽に働けて給料や報酬を沢山貰えれば楽しい人生を送れる!と考えがちです。
経営側の思考は、複雑でややこしくコストのかかる「作業人間」を雇用するよりも、同じ作業を黙って黙々とこなすロボットの方が「便利」で経営効率が高くなる!と考えるかも知れません。
要は、「作業人間」の、「労働」をコストと考えてしまうと、こうした発想になるのも無理のない事。
効率化やコスト削減、業務効率の向上...は、時間給を前提とした、被雇用者たる人間社員労働の時間短縮の議論です。
でも、人間の労働は「機械作業」ではありません。「思考労働」や「価値創造労働」であると共に、「人生価値創造労働」つまり、生き甲斐価値を生み出すものです。
私たちは、毎日が休日だと楽しいでしょうか? 一所懸命に働いているからこそ休日の価値や有り難み、そして生きる暮らす喜ぶを感じる事ができます。
「働く」事は、暮らしを支える経済的基盤を維持・向上してゆくだけではなく、生き甲斐や働き甲斐、そして、自分が社会に認められている実感を得る人生時間です。
技術が進歩して、作業的単純労働や調査労働などがAIやロボットにとって代わり、人間労働は「知識労働」に!と言われ、弁護士や会計士、そして医師までもが機械労働になる社会⁈ 本当に人類にとって幸せなのでしょうか。
さらに、世の中「人生100年戦略時代」を迎えています。
「幸福社会創造」に向けた技術革新を望みたいところです。
「未来型コミュニティオフィス」
「場」創りは、働く人々が「安心」「安全」そして「快適」に仕事に取り組める環境を整備することにあります。
そして「働き甲斐」や「働く意欲」を高める演出や仕掛けの巧拙が「場」の情熱度に影響を及ぼすことになります。
以下に示す10項目は、組織で働く人々にとっての「情熱バロメーター」と言える要素です。
今一度、「場」創りの視点で再認識しておく事が大切です。
1.自分が担う仕事は意味のある仕事か。
2.物理的な環境に恵まれているか。
3.労働の待遇は充実しているか。
4.雇用への不安は無いか。
5.上司は尊敬するに値するか。
6.自分の存在を認められているか。
7.学ぶ機会・力を伸ばす機会はあるか。
8.誇りを持てる組織か。
9.会社チームの一員だと感じられるか。
10.公平な組織といえるか。
サイエンスとアート思考
センシティブオフィス創造
センシブルオフィス
クリエイティブオフィス創造
クリエイティブハピネス
ソーシャルABW
人と場での研究成果
原点回帰
縄文時代に学ぶ10,000年思考と未来
サイエンスオフィス
美観オフィス
ハピネスワーク
コワーケーション
オフィスは夢中創造の場
幸福創造の場
コ・ワーケーションの目的は、
人生棚卸し、人生設計、人生デザイン、人生プログラミング、人生演出、人生挑戦実践、りかれんと、パラレルキャリアメイク、人間力道場