※昨年の双子誕生日にPixivにアップしたSSです。
こちらには掲載していませんでしたので、今年の20日遅れの誕生日代わりに掲載します。
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同行すると言うロゼの好意の言葉を敢えて断って一人で来た。
この星に戻って来てから幾度か訪れたこの場所へ。
花はロゼが選んでくれた。
こういう時にどんな花が相応しいか分らなかったから。
星都の郊外、人家もほとんどないくさはらの終わり、崖の近くに彼は一人でやってきた。
そこには粗末な石の碑が一本建っているだけだ。
だが、その碑が彼の家族の全てだった。
「この日に来るの、初めてで…、何て言えばいいんだろう。」
小さな花の束を手にしたまま彼は碑に向かって話し始めた。
「ギシン星の暮らしには慣れたよ。ロゼとルイのおかげでね。
ロゼには職務の方で、ルイには生活面で色々と助けて貰って頭が上がらないよ」
口元に青年らしい柔らかな微笑みが小さく浮かんだ。
「地球の皆も元気にしてる。
俺が居なくなった分、コスモの点検当番が早く回ってくるから面倒くさいって言われるぐらいだよ(苦笑)
あの頃が嘘のように平和だって言ってるよ。」
爽やかな風が吹き抜けていく。
「今度、母さん…地球で俺を育ててくれた母さんをギシン星に呼ぼうと思っているんだ。
地球の父さんと母さんが居なかったら、俺を育ててくれなかったら、今頃は地球が無くなってて、
ギシン星もズールの圧制が続いたままだったろうね。
そして、俺は…。」
そこで、一つ呼吸を忘れた。
「俺はズールの皇子として、次の器にされるところだった…。
俺自身の意思も自我も持たず、知らないまま、ズールの操り人形として。」
少し俯いて頭(かぶり)を振った。
「地球の母さんがどんな人なのか、会って欲しいっていう俺の我儘なんだ。
ギシン星と地球の行き来も少しずつだけど便利になってきたから丁度良いかな。って。
そして地球の母さんには俺が産まれた星を見て欲しいんだ。
この星に暮らす人は地球人と変わらないんだって事を。」
屈んで碑の前に花を置いて、そのまま片膝の上で両手を組んだ。
「父さん、母さん、兄さん、そして地球の父さんと母さん。
どちらも俺には大切な家族なんだ。
どちらの家族が居なくても、俺は今、此処にこうして居る事は出来なかったからね。」
彼の周りの空気が微かに揺れた。
「だから。
父さん、母さん。
俺と兄さんを産んでくれてありがとう。
兄さん、誕生日、おめでとう。
俺と兄さんはずっと一緒に歳を重ねていこう。
ほら、今だって俺の心の内で兄さんが語り掛けてきてる。
兄さんと俺は、一つの命を二人で分けて産まれてきたのだから。
思ったより早くに、一つに戻ってしまったけどね。」
そう語る瞳に悲しさは無い。
落ち着いた、柔らかな光を宿した眼差しが遠くを見つめている。
膝についた草や土を払い立ち上がる。
「此処に来ると本当に気持ちが安らぐんだ。
家族が揃うからかな?」
ちょっと悪戯っ子のような表情を浮かべる。
「また来るよ。」
彼が歩き出す方向へと、風と草がなびいて道を作っていった。
こちらには掲載していませんでしたので、今年の20日遅れの誕生日代わりに掲載します。
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同行すると言うロゼの好意の言葉を敢えて断って一人で来た。
この星に戻って来てから幾度か訪れたこの場所へ。
花はロゼが選んでくれた。
こういう時にどんな花が相応しいか分らなかったから。
星都の郊外、人家もほとんどないくさはらの終わり、崖の近くに彼は一人でやってきた。
そこには粗末な石の碑が一本建っているだけだ。
だが、その碑が彼の家族の全てだった。
「この日に来るの、初めてで…、何て言えばいいんだろう。」
小さな花の束を手にしたまま彼は碑に向かって話し始めた。
「ギシン星の暮らしには慣れたよ。ロゼとルイのおかげでね。
ロゼには職務の方で、ルイには生活面で色々と助けて貰って頭が上がらないよ」
口元に青年らしい柔らかな微笑みが小さく浮かんだ。
「地球の皆も元気にしてる。
俺が居なくなった分、コスモの点検当番が早く回ってくるから面倒くさいって言われるぐらいだよ(苦笑)
あの頃が嘘のように平和だって言ってるよ。」
爽やかな風が吹き抜けていく。
「今度、母さん…地球で俺を育ててくれた母さんをギシン星に呼ぼうと思っているんだ。
地球の父さんと母さんが居なかったら、俺を育ててくれなかったら、今頃は地球が無くなってて、
ギシン星もズールの圧制が続いたままだったろうね。
そして、俺は…。」
そこで、一つ呼吸を忘れた。
「俺はズールの皇子として、次の器にされるところだった…。
俺自身の意思も自我も持たず、知らないまま、ズールの操り人形として。」
少し俯いて頭(かぶり)を振った。
「地球の母さんがどんな人なのか、会って欲しいっていう俺の我儘なんだ。
ギシン星と地球の行き来も少しずつだけど便利になってきたから丁度良いかな。って。
そして地球の母さんには俺が産まれた星を見て欲しいんだ。
この星に暮らす人は地球人と変わらないんだって事を。」
屈んで碑の前に花を置いて、そのまま片膝の上で両手を組んだ。
「父さん、母さん、兄さん、そして地球の父さんと母さん。
どちらも俺には大切な家族なんだ。
どちらの家族が居なくても、俺は今、此処にこうして居る事は出来なかったからね。」
彼の周りの空気が微かに揺れた。
「だから。
父さん、母さん。
俺と兄さんを産んでくれてありがとう。
兄さん、誕生日、おめでとう。
俺と兄さんはずっと一緒に歳を重ねていこう。
ほら、今だって俺の心の内で兄さんが語り掛けてきてる。
兄さんと俺は、一つの命を二人で分けて産まれてきたのだから。
思ったより早くに、一つに戻ってしまったけどね。」
そう語る瞳に悲しさは無い。
落ち着いた、柔らかな光を宿した眼差しが遠くを見つめている。
膝についた草や土を払い立ち上がる。
「此処に来ると本当に気持ちが安らぐんだ。
家族が揃うからかな?」
ちょっと悪戯っ子のような表情を浮かべる。
「また来るよ。」
彼が歩き出す方向へと、風と草がなびいて道を作っていった。