久しぶりにヤマトのお話を掲載します。
復活篇がないヤマト世界の、完結編後のお話です。
オリジナルキャラ(古代くんとユキの子供)も出ます。
2010/02/21掲載の「tricolore」以前のお話。
まだ3話目の途中までしか書き上がって無いうえに、何話まで続くのか不明という…
そんなつたないお話ではありますが、よろしければお付き合いくださいませ。
***************************************************
ヤマトを呑みこんだアクエリアスの海が遠ざかる。
それでも、冬月に収容されたヤマトの乗組員達は敬礼を解こうとはしなかった。
静かに身じろぎもせず。
「冬月、大気圏へ突入」
冬月艦長の水谷の声が展望室のヤマト乗組員達の耳にも届いたその時、
「古代くんっ!!」
「古代!」
ユキと真田の叫びが同時に上がった。
ハッとした皆が声の方を振り向いた時、真田の腕の中に蒼白な顔をした進が崩れ落ちていた。
額に脂汗を滲ませ両手は胸を鷲掴みにしている。
すでに意識は無く、痙攣するように小さく弱々しい呼吸をするだけだった。
「イカン!」
側にいた佐渡が慌てて進に駆け寄る。
進を抱きとめた真田が、静かに進の身体を床に横たえる。
佐渡はテキパキと進の診察を始めた。
「南部!水谷艦長に連絡、至急医務班を呼べ!ストレッチャーもだ!」
「ユキ!ぼさっと突っ立っとらんで手伝わんかい!」
真田が南部に指示を出し、佐渡も急なことで呆然としているユキを怒鳴るように呼びつける。
にわかに冬月の展望室は騒然となった。
「先生…」
処置を施され、静かな寝息を立てている進を見ながら、真田が佐渡に声をかけた。
「古代は、やはり…」
「ああ。宇宙放射線病だ。本当なら冥王星会戦の後、下艦させて治療せなアカンかったんじゃ。じゃが…」
佐渡は器具を片付けながら、真田の顔も見ずに答えた。
その肩が小さく震えている。
医師として進にしっかりとした治療を受けさせたかった。だが、状況がそれを許さなかったのだ。
進が戦列を離れることが戦況に大きな影響を与えるに違いない。
佐渡は軍医として判断せざるを得なかった。
『古代、お前の身体はお前が思っているよりも良くはないぞ。
今も左肩の傷のせいで貧血気味じゃ。
ハイパー放射ミサイルでやられた造血機能がまだ回復しておらん。』
佐渡は向かいに座っている進の顔を見ず、カルテに視線を落としたまま話している。
『次に大きな怪我をしたら、それこそ取り返しがつかんことになるぞ。
そうなったら、お前さんの命はワシにも保証ができん』
進の視線を避けていた佐渡が、ようやく進と目を合わせた。
『…それに…』
佐渡が何かを言い澱んだ時、
『佐渡先生、僕は大丈夫です。』
進が小さな、しかしきっぱりとした声で言った。
『僕は大丈夫です。ゼロで出ることができなくても、戦闘指揮はできます。
だから…だから、傷病者として送還しないで下さい。』
そういう進の瞳は、哀願や懇願の色を帯びているわけでなく、静かで穏やかな光を湛えている。
現在の戦況、自分の身体のこと、それら全てを理解した上で自分にできることが何なのかを冷静に判断しての進の言葉だった。
佐渡はそんな穏やかな進の表情に一瞬戸惑った。
以前ならば必死の様相で「僕は戦えます!」と訴えていた進だった。
『(艦長職を経験したからこその落ち着きぶりなのか?
それとも、何もかも判っているからこそなのか?)』
佐渡は進の静かな瞳を見つめ返した。
まだ20代半ばの若者だというのに、その年齢にそぐわない程の落ち着いた深い色の瞳。
一瞬、佐渡の目が滲む。が、次の瞬間に佐渡は進に言った。
『よし。怪我しようが何しようがワシが何とでもしてやる。
お前の思う通りにしろ、古代』
『先生!ありがとうございます!!』
「真田君も知っとるじゃろうが、古代は子供の頃にも宇宙放射線病を患っておった」
「ええ、守から聞いていました。でも、それは完全寛解しているしイスカンダルにも行ったではありませんか」
佐渡の話を真田は訝しんだ。
進の兄・守は、進のことを「被曝の為に宇宙放射線病を患っていたが1年で寛解し、その後も何の問題も無い」と言っていた筈だ。
だからこそ、イスカンダルへの航海時に戦闘班長として乗り組むこともできた。
「確かに子供の頃のは完全寛解はしておった。
じゃがな、この前の被曝をきっかけに再発してしまったんじゃよ。」
佐渡の言葉に真田は言葉を飲んだ。
銀河系中心部の調査の帰路に受けたあのミサイル攻撃で、宇宙服の着用が間に合わなかった進は仮死状態に陥っていた。
辛うじてヤマトが帰還した後、進は大手術を受けてその命を取り留めた。
その手術こそ、ハイパー放射ミサイルで発病した宇宙放射線病の手術だと真田は思っていたのだ。
寛解後10年以上経っての再発とは思いもよらないことだった。
「じゃあ、あの手術は…」
「あれは蘇生がメインでな。
古代は確かに被曝していたが、冒された細胞が少なかったので宇宙放射線病は問題ないだろうとワシらは安心していたんじゃが…
宇宙放射線病だけで言えば、子供の時の方がよほど酷かったんじゃよ。」
話しながら後片付けを終えた佐渡は、古代のベッド横にドカッと座り杯を煽った。
重い沈黙が佐渡と真田を包む。
宇宙放射線病のことは、医師の佐渡だけでなく真田もおおよその知識は持っていた。
だからこそ、完全寛解から10数年を経た今の再発の意味も。
「じゃあ、これから古代は…」
真田がようやくと言った感じで重い口を開いた。
「…治療にはしばらくかかる。
完全寛解を目指すのなら尚のことじゃ。1年やそこらじゃ済まんだろうて。
それに今はココもかなり参っておるから余計に大変じゃ」
そう言って佐渡は自分の胸を指さした。
この戦いで、進は心のバランスを崩しかけていた。
ガルマン・ガミラスの帰路、水没するディンギル星で乗組員を失い、ハイパー放射ミサイルで大勢の乗組員が犠牲になった。
進の目の前で父親に撃たれて幼い命を散らしたディンギルの少年。
そして、ヤマトの両輪とも言われた島大介を亡くし、軍の上官として尊敬し父とも慕った沖田をも。
真田も佐渡も判っていた。進の心が優しすぎることを。
仲間の死に耐え、ヤマトの戦闘班長として艦長として敵と戦ってきたのは、ただ、地球を守りたかったから。
それだけだった。
『たくさんの命を奪うのは、手を血で汚すのは俺だけでいい。』
いつだったか、進が真田にそう呟いたことがあった。
二人で酒を酌み交わした時だったろうか。
ガミラス、白色彗星、暗黒星団帝国…地球を守ることは相手の星を滅ぼすことに他ならなかった。
いったいどれだけの人を宇宙に葬ったのか。
戦うごとに、進はその重さに押し潰されそうになっていった。
「…若すぎたんじゃよ。仕方が無かったこととは言え…」
杯の中身を飲み干した佐渡が呟く。
その言葉に真田は奥歯を噛み締めた。
まだ20代半ばの青年が背負った物の重さを今更ながら思い知らされた。
「長官には、暫く……そうさのお、宇宙放射線病が落ち着くまでは古代を休職させるように連絡したぞ。
無論、長官にも異存はないとのことじゃ。ユキも介護休暇をとらせてもらえるそうだしのう。
戦いも何もないところでゆっくり休ませてやろう」
「ええ、古代の…傷が…癒えるまで休ませてやりましょう」
地球に戻った進は再度大きな手術を受け、その後はユキと二人で自然が回復しつつある小さな町で静かに療養に専念し始めた。
そして、ヤマトのクルーとの音信が途絶えた。
復活篇がないヤマト世界の、完結編後のお話です。
オリジナルキャラ(古代くんとユキの子供)も出ます。
2010/02/21掲載の「tricolore」以前のお話。
まだ3話目の途中までしか書き上がって無いうえに、何話まで続くのか不明という…
そんなつたないお話ではありますが、よろしければお付き合いくださいませ。
***************************************************
ヤマトを呑みこんだアクエリアスの海が遠ざかる。
それでも、冬月に収容されたヤマトの乗組員達は敬礼を解こうとはしなかった。
静かに身じろぎもせず。
「冬月、大気圏へ突入」
冬月艦長の水谷の声が展望室のヤマト乗組員達の耳にも届いたその時、
「古代くんっ!!」
「古代!」
ユキと真田の叫びが同時に上がった。
ハッとした皆が声の方を振り向いた時、真田の腕の中に蒼白な顔をした進が崩れ落ちていた。
額に脂汗を滲ませ両手は胸を鷲掴みにしている。
すでに意識は無く、痙攣するように小さく弱々しい呼吸をするだけだった。
「イカン!」
側にいた佐渡が慌てて進に駆け寄る。
進を抱きとめた真田が、静かに進の身体を床に横たえる。
佐渡はテキパキと進の診察を始めた。
「南部!水谷艦長に連絡、至急医務班を呼べ!ストレッチャーもだ!」
「ユキ!ぼさっと突っ立っとらんで手伝わんかい!」
真田が南部に指示を出し、佐渡も急なことで呆然としているユキを怒鳴るように呼びつける。
にわかに冬月の展望室は騒然となった。
「先生…」
処置を施され、静かな寝息を立てている進を見ながら、真田が佐渡に声をかけた。
「古代は、やはり…」
「ああ。宇宙放射線病だ。本当なら冥王星会戦の後、下艦させて治療せなアカンかったんじゃ。じゃが…」
佐渡は器具を片付けながら、真田の顔も見ずに答えた。
その肩が小さく震えている。
医師として進にしっかりとした治療を受けさせたかった。だが、状況がそれを許さなかったのだ。
進が戦列を離れることが戦況に大きな影響を与えるに違いない。
佐渡は軍医として判断せざるを得なかった。
『古代、お前の身体はお前が思っているよりも良くはないぞ。
今も左肩の傷のせいで貧血気味じゃ。
ハイパー放射ミサイルでやられた造血機能がまだ回復しておらん。』
佐渡は向かいに座っている進の顔を見ず、カルテに視線を落としたまま話している。
『次に大きな怪我をしたら、それこそ取り返しがつかんことになるぞ。
そうなったら、お前さんの命はワシにも保証ができん』
進の視線を避けていた佐渡が、ようやく進と目を合わせた。
『…それに…』
佐渡が何かを言い澱んだ時、
『佐渡先生、僕は大丈夫です。』
進が小さな、しかしきっぱりとした声で言った。
『僕は大丈夫です。ゼロで出ることができなくても、戦闘指揮はできます。
だから…だから、傷病者として送還しないで下さい。』
そういう進の瞳は、哀願や懇願の色を帯びているわけでなく、静かで穏やかな光を湛えている。
現在の戦況、自分の身体のこと、それら全てを理解した上で自分にできることが何なのかを冷静に判断しての進の言葉だった。
佐渡はそんな穏やかな進の表情に一瞬戸惑った。
以前ならば必死の様相で「僕は戦えます!」と訴えていた進だった。
『(艦長職を経験したからこその落ち着きぶりなのか?
それとも、何もかも判っているからこそなのか?)』
佐渡は進の静かな瞳を見つめ返した。
まだ20代半ばの若者だというのに、その年齢にそぐわない程の落ち着いた深い色の瞳。
一瞬、佐渡の目が滲む。が、次の瞬間に佐渡は進に言った。
『よし。怪我しようが何しようがワシが何とでもしてやる。
お前の思う通りにしろ、古代』
『先生!ありがとうございます!!』
「真田君も知っとるじゃろうが、古代は子供の頃にも宇宙放射線病を患っておった」
「ええ、守から聞いていました。でも、それは完全寛解しているしイスカンダルにも行ったではありませんか」
佐渡の話を真田は訝しんだ。
進の兄・守は、進のことを「被曝の為に宇宙放射線病を患っていたが1年で寛解し、その後も何の問題も無い」と言っていた筈だ。
だからこそ、イスカンダルへの航海時に戦闘班長として乗り組むこともできた。
「確かに子供の頃のは完全寛解はしておった。
じゃがな、この前の被曝をきっかけに再発してしまったんじゃよ。」
佐渡の言葉に真田は言葉を飲んだ。
銀河系中心部の調査の帰路に受けたあのミサイル攻撃で、宇宙服の着用が間に合わなかった進は仮死状態に陥っていた。
辛うじてヤマトが帰還した後、進は大手術を受けてその命を取り留めた。
その手術こそ、ハイパー放射ミサイルで発病した宇宙放射線病の手術だと真田は思っていたのだ。
寛解後10年以上経っての再発とは思いもよらないことだった。
「じゃあ、あの手術は…」
「あれは蘇生がメインでな。
古代は確かに被曝していたが、冒された細胞が少なかったので宇宙放射線病は問題ないだろうとワシらは安心していたんじゃが…
宇宙放射線病だけで言えば、子供の時の方がよほど酷かったんじゃよ。」
話しながら後片付けを終えた佐渡は、古代のベッド横にドカッと座り杯を煽った。
重い沈黙が佐渡と真田を包む。
宇宙放射線病のことは、医師の佐渡だけでなく真田もおおよその知識は持っていた。
だからこそ、完全寛解から10数年を経た今の再発の意味も。
「じゃあ、これから古代は…」
真田がようやくと言った感じで重い口を開いた。
「…治療にはしばらくかかる。
完全寛解を目指すのなら尚のことじゃ。1年やそこらじゃ済まんだろうて。
それに今はココもかなり参っておるから余計に大変じゃ」
そう言って佐渡は自分の胸を指さした。
この戦いで、進は心のバランスを崩しかけていた。
ガルマン・ガミラスの帰路、水没するディンギル星で乗組員を失い、ハイパー放射ミサイルで大勢の乗組員が犠牲になった。
進の目の前で父親に撃たれて幼い命を散らしたディンギルの少年。
そして、ヤマトの両輪とも言われた島大介を亡くし、軍の上官として尊敬し父とも慕った沖田をも。
真田も佐渡も判っていた。進の心が優しすぎることを。
仲間の死に耐え、ヤマトの戦闘班長として艦長として敵と戦ってきたのは、ただ、地球を守りたかったから。
それだけだった。
『たくさんの命を奪うのは、手を血で汚すのは俺だけでいい。』
いつだったか、進が真田にそう呟いたことがあった。
二人で酒を酌み交わした時だったろうか。
ガミラス、白色彗星、暗黒星団帝国…地球を守ることは相手の星を滅ぼすことに他ならなかった。
いったいどれだけの人を宇宙に葬ったのか。
戦うごとに、進はその重さに押し潰されそうになっていった。
「…若すぎたんじゃよ。仕方が無かったこととは言え…」
杯の中身を飲み干した佐渡が呟く。
その言葉に真田は奥歯を噛み締めた。
まだ20代半ばの青年が背負った物の重さを今更ながら思い知らされた。
「長官には、暫く……そうさのお、宇宙放射線病が落ち着くまでは古代を休職させるように連絡したぞ。
無論、長官にも異存はないとのことじゃ。ユキも介護休暇をとらせてもらえるそうだしのう。
戦いも何もないところでゆっくり休ませてやろう」
「ええ、古代の…傷が…癒えるまで休ませてやりましょう」
地球に戻った進は再度大きな手術を受け、その後はユキと二人で自然が回復しつつある小さな町で静かに療養に専念し始めた。
そして、ヤマトのクルーとの音信が途絶えた。