尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

創世記

2005年10月25日 22時27分29秒 | 自選詩集
人生をはじめた君は
ある日思い知らされるだろう

たとえば当て逃げ事故のような
訳のわからない失恋なんかして
たとえば詰め将棋のような
計られた友の裏切りにあったりして

あたりを見回すと
祭りの後の舞台のように
仲間はみんな消えている


そのとき君だけが
この世の舞台で
たった一人の人間だ

世界史の教科書には
省かれているが
人間であるということは
いつもそういうことだたった

人類の最後尾に
たった一人の人間がいる
彼はイブを捜しに出かけるだろう
最初のアダムのように

何度でも言うよ
そのとき君だけが
この地球で
ほんとうの人間だ



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語り得ぬもの

2005年10月25日 22時07分26秒 | 詩の習作
語り得ぬものについては
沈黙しなければならない
と、ウィトゲンシュタインが
我々に忠告しなければならなかったのは
しばしば
語り得ぬものに取り囲まれている
我々の不安から
語り得ぬものについて
饒舌になるからだ

かように

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恐るべき事

2005年10月25日 21時26分05秒 | 詩の習作

言葉は人間の側にあって
事物を言葉によって
引き寄せたり
利用可能にしている
と考えているだろうが
実は事物が言葉として
人間の方へ
現れてやっているのだ
と誰も考えたことはない

人間がいなくても
世界があるように
人間がいなくても
そっくり言葉はあるのだ

恐るべき事は
言葉は人の能力ではなくて
事物の能力ということだ

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どうどう

2005年10月25日 20時49分33秒 | 自選詩集
私はテレビや友達が
決して言わないだろう
ほんとうのことを
あなたの心の黒板に
スケッチします

夢は大切です
しかしもっと大切なことを
つまり、夢などなくても
どうどう
生きていくのですよ
希望など必要ありません
愛など映画でたくさん
目の前に現われた人と
恋などとふざけているだけで
楽しいじゃありませんか

私たちは
お猿だった大昔から
ほんの少し前まで
愛など恋など希望など
どこにもなくて
食べていたのは
夢ではなくて
野ねずみや芋を食って
生きてきたのです

けっこう 
仲良く笑っていましたのに
おれの愛だの
お前の夢だの
やかましく言いだすようになって
ご覧なさい、人と人とが陰険に
共食いを始めている
じゃあないですか

夢など失っても
恥ずかしくはありません
自分より弱い人を
食うほうが恥ずかしいです

芋だけ食って
屁をこいて
みんなを笑わせて
元気にお暮らしください
そんなあなたは
とても優しいですから
愛とか夢とか希望とか
どうどう
生きている
ほんのおまけです



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マリオネット

2005年10月25日 20時28分39秒 | 自選詩集
これはもうお芝居じゃない!
子供たちは一斉に悲鳴をあげる
惨劇は舞台で起きた

いいえ、これはお芝居です!
引率の女先生は子供たちと
自分にこう言って慰めようとする

人間との恋に疲れたマリオは
頭上でハサミを振り回し
つなぐ糸をことごとく切った

恋人は操り棒を握ったまま
天井の方で放心だ
よくできた人形のように

最後に残った一本の糸が
ハサミをくるくる宙づりにて
刃先は壊れたマリオを指している

タン タン タン
座長らしき初老の男が
ゆっくり幕を降ろさせながら
よく響く拍手をした

美しい先生のおっしゃるとおり
狂った人形使いが 人形の
糸を切ったというお芝居です

男は吐き気をもよおした先生を
楽屋に運び背中をさすってやった

先生は鏡の中の男に尋ねた
あれはやっぱりあなたの筋書き通りですの?

そうですとも、全く筋書通りですとも!
彼女の耳を後ろから噛ようにして
<神の> と付け加えた

ありました、これだ
男は白いうなじにほくろを見つけ
<壊れるのはいつも人間です>
見えない糸を引っ張る手つきすると
先生はびくんとのけぞり
黄色い液体を気持ちよさそうに吐いた



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なぞなぞ

2005年10月25日 09時45分57秒 | 少年詩集
なぞなぞ
あなたはだあれ?

あなたの足音は
誰よりも静か
でもあなたの足跡は
どこにもない

針の先のような
足先の
銀の窪みから
優しい音楽が
輪になって
宇宙に響くよ

音符は
澄んだ
水でできているよ

この世で一番小さな
水の妖精
あなたはだあれ?

そう、あなたは
みずすまし


 

   <みずすましさんへ 尾崎まこと。 2004.3/5>


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寺町

2005年10月25日 08時52分27秒 | アバンギャルド集
流れてゆく米のとき汁に
母のようなものを尋ね
寺町の路地に迷い込むと
それぞれの曲がり角には
浅黄色の幟がはためいて

ひび割れたガラス窓に
丸い絆創膏のはってある煙草屋が
紙の芝居小屋のようにぬっと立って
僕の後ろの方で
拍手もパラパラ聞こえるもんだから
下手なセリフで
 ハイライト、一つ下さい
店の奥からお婆さんが
 この坂を登ると赤いお宮で そこが
 いわゆる 気が狂う 入り口だ
とかなんとか
磯の岩に張り付く富士壺の底から
つぶれた片目が僕を覗く

折り返せ
お前の親切はほんとうは
こころの病だ
つまりお前は
大切にされたかったような
赤ん坊
だあ、とさあ

 おまはんは飢えている
と、奥の間に案内され
出てきたひ孫の巫女さんが
 こんなの見たさに生まれてきたのに違いない
余興の逆立ちで
ちょきのように出したのは
あんまりな美しい神殿の
二本のエンタシス
真白な脛とふくらはぎ
僕は笑うところを泣いてしまった
いつものことさ

苦いハイライトをくゆらせて
たなびく紫の向こう
たとえ狂ったとしても
これだけは永遠覚えておこうと
ふーふー息をきらしている
清らかな智恵遅れの娘の逆さの
赤く染まってゆく顔を
米のとき汁に指でなぞる

ここは折り返し
昭和の寺町の路地裏



 (2004.4/3)
  ふくろうの詩の泉2より

                

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2005年10月25日 00時20分02秒 | 短詩集
光りのほうへ
手をうつわにすれば
たちまち
そそがれます
すきとおった季節




    (2003)

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