今度ばかりは死にたくなったよ
と言うと
すかさず、じゃあ
死んだつもりでがんばれよ
テレビドラマじゃあるまいし
よく言うものだ
酒がまわってきたのか
眠いので
お前のいうとおり
死んだつもりになってみようか
せやけどなあ
死人に
何する気も
おこるわけあれへんやろ
どこの世界に
死人ががんばるかい
とにかく
小学生の時から
ずるそうな顔のつくりの
僕の友達が
今にも泣きそうな作り顔して
頼むさかいに、と
何度もそう言うもんで
最後の煙草を一本
味わいながら
だんだん
ぷかぷか ぷかぷか
死んだ気持ちになってくる
薄紫の煙が
水平になびいて
雲のようだ
死んでしまうとな
欲がなくなるから
このように平静になれるのだな
雲の上からは
世間が嘘で流れていることが
よくわかる
へへ 目の前のお前だって
この場を適当に
やりすごして早く帰りたい
だけじゃないか
青白い蛍光灯の下
畳が黄色く輝き出してきて
手を延ばせば
触れる距離の友達の
テカテカ脂ぎったやらしい顔が
もうなつかしくて
涙まで出そうになってきた
アチチッ
煙草をもみ消しながら
仮死より息を吹き返した俺は
うん ありがとう そうだね
死んだつもりでがんばるよ
と、嘘をついて時間を
次に流した
ありがとうだけは
少しのほんとうだ
友達は
僕の背中をポンとたたいて
なつかしい
世間の闇に帰っていった
ふと鬼の顔したりして
しかし
闇の向こうには
妻と子がまっているはずだ
死んだつもりでがんばれないが
どうせよう死なん
ごまかしたろ