尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

コオロギ

2009年09月15日 23時46分11秒 | 詩の習作
帰り道だった

舗道の向こう側
むかし葡萄畑であったところから
今年はじめて
暗闇を刻みながら
昇ってゆく水玉の
秋虫の声を聞いた

ラジオから流れてくる
人間の未来の言葉のように聞いた

草と草のあいだの見えないコオロギに
人間の未来の鉄仮面の顔を見た


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真珠貝の唄

2009年09月15日 08時14分40秒 | 「新詩集準備α」
真珠貝の唄
尾崎まこと


わたしは
片方の耳の形で 
深い海の底に ひとつ
小石のように
置かれています

それは閉ざされた瞼の形
でもありますから
自分の吐き出す砂粒でさえ
見ることはないでしょう

シュルラ シュルラ リルリルリルリル

遠い遠い
母の呼吸のような 
繰り返される潮騒の音に
耳を澄ませています
果てしない昼と
果てしない夜と
果てしない夢と

果てしなく
広がってゆく
気持ちのその真んなかで
たった一つ
痛みとともに結晶していく 
小さな星があるのです

シュルラ シュルラ リルリルリルリル

地球は
こんな形じゃないかしら
あなたは
こんな形じゃないかしら

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暗い顔、熱い言葉

2009年09月15日 00時09分21秒 | 詩の習作
生きている人が
どんなに暗い顔して
死んだ言葉をしゃべり続けていることだろう
死んだ人だけが
生きている人を使って
生きている熱い言葉をしゃべるのは
なぜなのだろう

亀山君の口元を見ながら
唾を飛ばして
しゃべり続けているのは
亀山博士だと確信した

ちょうどラジオでは
美空ひばりが
リンゴノハナニオウ
と歌った

その歌声の遥かに遠いこと…
私たちが共に失なわねばならなかった
抒情ということ
それから私たちはみな生きてはいないという観念が
夕立ちのように私たちの間を過ぎ去って
鳥肌を立てた

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