尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

詩「あちらがわ」

2012年09月10日 22時23分28秒 | 新詩集
「あちらがわ」


誰にもも
川が流れているだろう
人が生まれると
そのつど川が流れる宿命だ

あちらがわ、と
こちらがわ
である
といっても
ふたつの川ではない

あちらがわ、と
こちらがわ、の
あいだに一本の
川が流れている

見ているのは
いつもこちらがわだ
見えているのは
いつもあちらがわだ

こちらがわは
誰にも見えない
見るだけだ
見てあこがれるだけだ

生きている限り
ぼくらはあちらがわを見ている
ぼくらがあちらがわから来た
としても
生きているあいだに
あちらがわには行けない

死んだらはじめて
あちらがわ、だ
けれど
いそぐことはない

こちらがわの岸辺から
あちらがわの岸辺を
ゆっくり見ておこう

こちらがわは
誰にも見えない
見るだけだ
見てあこがれるだけだ

夕べには
川辺の波が
うちつけるだろう

さびしいのは
こちらがわだと
むなしいのは
こちらがわだと


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする