入学式

　○十年前、小学校の入学式。
母は当然のことながら自分が出席すると思って
はりきって着物を選んで準備していました。
しかし、何を思ったか、ご丁寧に仕事まで休み
娘の手を引いたのはこともあろうか父。
母の落胆は言うまでもありません不憫。
　
時折、こどもの教育に極めてやる気を起こした父は
それはおそらくは教育ではなくイベントであったろうと
今は思うのですけどね

　まぁ何はともあれ、愛娘の手を引いて張りきった父の
その様子は目に浮かびますが、当の本人・・・私はというと
嫌なわけです、人が多い場所が。しかも知らないひと！
一言で言って情けないこどもでした。人見知り、臆病、
そういう形容詞はおよそすべてあてはまるこどもで・・。
　
　父の手を力いっぱい握ったまま離そうとしない。壁に
張り付いたまま固まる。男の子の大きな声がすると涙ぐむ。
話を聞くだけで溜息です。どう考えても自分とは思えませんが
どうも紛れのない事実のようで・・・。情けない・・・
　
　帰ってきた父は母にひとこと。
「これどうするとや、明日からひとりでいっきいとや」
前途有望、楽しいはずのはじめてのわが子の小学校入学。
我が家では前途多難。そしてその予感は残念ながら大当たり。

　学校から帰るとランドセルを背負ったまま、無言で玄関に
座り込むこと３０分。おやつにしようかと母が誘うまで。
一週間ほどたったころ「あとどのくらいいったらいいと？」
母のショックはなかったろうと。「そうね、もうちょっと」
６年なんてね、いえようはずもなく。
　
　でもとりあえず、そんなだったにもかかわらず、今は、
まがりなりにも生きてるわけで・・・こどものころの不安なんて
たいしたことじゃない！・・・と、うちの母はよく申しております。

　前途有望なこどもたち、たくさんおともだちを作って
たくさん遊んでね。
　入学おめでとう！