混声合唱組曲『光る砂漠』-曲:萩原英彦 詩:矢沢宰
毎年夏になると、必ずと言っていいほど
この曲が懐かしくなる。
私はこの曲を大学1年の時に初めて歌った。
夏になると思い出がよみがえってくるのは、
きっと、大学に入って初めての夏合宿で
死ぬほど練習したからだろう。
そしてその時、
萩原英彦の作った音楽はもちろんだが、
矢沢宰という、腎臓結核という病気のために
21歳の若さでこの世を去った人の
信じられないような美しい言葉や表現、
そしてそのみずみずしい響きが
若かりし頃の私に強烈な印象を残した。
第一曲「再会」
誰もいない
校庭をめぐって
松の下にきたら
秋がひっそりと立っていた
私は黙って手をのばし
秋も黙って手をのばし
まばたきもせずに見つめ合った
第九曲「ふるさと」
(一)
ふるさとは
ただ静かにその懐に
わたしを連れ込んだ
雲でもなく幻でもなく
生きた眼と心を持って
わたしははいっていった
青いにおいにむせかえって
ことばもなく
遠い日の記憶がよみがえった
(二)
水は白い壁と天井と共に
命のなかにあり
ふるさとの山にあった
苔むした岩肌をたたき
その響きは命の中にも流れていた
手をさし入れて
静寂の中で二つの水が混ざったとき
まぶしい輝きを覚え
「山に水を返した」と思った
(詩:矢沢宰)