トカゲやマリノスの事ばかり書いててもなんだから、超久しぶりに医薬のことを書いてみる。
コロナの薬の新しい経口治療薬「ゾコーバ」の緊急承認が見送られて、継続審議になった。
なお、儂は現時点ではデータを見てない(探せない)。あくまでも ↑ の記事に書いてある程度の情報しか持ち合わせていない状況で書いているので、悪しからず。
まず、テレビでコメンテーターなる人達がこの判断を批判してるのを見たけど、「素人が何言ってんの?」と思ったw。「専門家でも批判してる人がいる」とも言ってたけど、「その専門家はデータを見ていないのでは?」と思うんだけどね。
「政治的に判断」だの「政治が責任をもって」なんて言ってたけど、薬の有効性や安全性を政治的に判断しちゃだめでしょwww。
そして、リンクの記事を読んで「その通り」だと思ったのはこれ。
「呼吸器症状をピックアップしてちょっと有意差があったと言うが、後からエンドポイントをいじるのはご法度。有意差が認められるところをピックアップするというのは、臨床試験としてあってはいけないこと」 (医薬品第二部会委員:山梨大学学長 島田眞路氏)
ちょっと専門的過ぎるせいか、ほとんどのマスコミでは報道されてないけど、これはかなり重要だと思う。
このやり方って“後追い解析”とか言われて、儂がメーカーにいた頃はわりと普通にやられてたし、儂もやってた。比較試験で差が出なかった時に、得られたデータを見て、良さげなところだけを引っ張り出して解析すると、差が出て来ることがあるんだよね。まあ後追い解析自体は、例えばデータの傾向を見たりするために今でもやってると思う。でも、それで有意差を出して申請に利用するなんていうことは、てっきりもうやられてないと思ってたので、ちょっとビックリ。
それから、今回の「ゾコーバ」は
緊急承認制度というのを利用して承認申請してる。この制度って、簡単に言うと、
A.緊急性に関わる要件
- 国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病の まん延その他の健康被害の拡大を防止するため緊急に使用されることが必要な医薬品である。
- 当該医薬品の使用以外に適当な方法がない。
B.代替性に係る要件
- 申請に係る効能又は効果を有すると推定される。
- 申請に係る効能又は効果に比して著しく有害な作用を有することにより医薬品として使用価値がないと推定されるものでない医薬品。
を満たせば、緊急的に条件付きで承認するということだと思う。何しろ新しい法律なので昔人間の儂にはよくわからないw。
であれば、今回は、まずA-2に合致しないんじゃないのかなと思うわけ。すでに経口のコロナ治療薬として、少なくとも「ラゲブリオ(一般名:モルヌピラビル)」と「パキロビッドパック(一般名:ニルマトレルビル、リトナビル)」の2つが出てる。しかもどちらも軽症~中等症対応かな。使用制限が厳しくて使いにくいということがあるのかもしれないけど、じゃあ「ゾコーバ」だったら使いやすいのかっていうことが今一つハッキリしない。前出の記事を読む限りは、これらの薬と同じように
催奇形性や
薬物相互作用があるように読める。ただ、儂には、今のところはその程度の差がわからないので、そこはなんとも言えない。
そして、Bの要件についてこの記事には、「主要評価項目(プライマリエンドポイント)のひとつとした12症状合計スコアの推移は
プラセボ群と概ね同様」なので「申請効能・効果に対する有効性が推定できるものとは判断できず 」とある。つまり、現段階ではB-1はわからないということになる。
と言う訳で、要件AもBも満たしているとは言えないんじゃないのかなと思う。
緊急承認制度の趣旨の通り、他に治療法がない、薬がないというのならば仕方がない。「はっきりしないけど使ってみよう」っていうのも全然有りだと思う。でも、少なくとも現状他に薬や治療法があるわけだし、効能効果だって、禁じ手の後追い解析が必要な程の怪しさなわけだから、儂は、今回の継続審議の判断は妥当だと思った。
コロナ流行の最初の頃、マスコミはしきりに「ある程度効果が見込めるならアビガンを許可しろ」って言ってたけど、多分、許可しなくて良かったと思う。
結局、コロナに対しては効果がハッキリしないまま。試験も中止されたのかな?
「ちょっとでも可能性があるものは国民のために許可すべき」というのは、いくらなんでも暴論じゃないかと思う。そもそも、その費用はどうするの? コロナの場合、患者の懐は痛まないかもしれないけど、メーカが無償提供してるわけじゃないんだから、結局、国民全員で払うことになる。しかも、この類の薬はだいたい高価だから、後から「やっぱり効きませんでした~」なんていうことは許されないと思うけどね。
まあ、効果がなかったらお金返してくれるっていうんだったらいいけどさw。
また、国産の薬が欲しいというのもあるのかな。この気持ちは儂もとってもとってもよくわかる。でも、それがなかなか叶わないのはなんでだろうね。国産メーカーは開発力がないから? その通りなんだけどw、じゃあそれはなんでだろうね。そこをよくよく考えないとダメじゃね? と思うわけ。
あと、「ゾコーバ」や他のコロナの薬のことは
このサイトがわかりやすいので、もう少し詳しく知りたい方は読んでみて下さい。
と、ここまではちょっと真面目に書いてみた。でも、今回継続審議になったのにはまた別の理由があるかのかも~、なんて、陰謀論が好きな方からは、そんな話も出て来そう。なにしろ、この業界は伏魔殿みたいなもんだからねえwww。
ちなみに、儂は陰謀論にはまったく興味ない。(キッパリ
写真が全然ないのも寂しいので、去年の今日のぼあちゃんをどうぞ。
「パパ、難しい話は似合わないわよ」w。
ぼあちゃんに「難しい話は似合わない」と言われたんだけど、2022/7/22 21:08 にちょっと追記。
今日の某大手新聞の社説にこのことが書いてあった。正直、「個人ならともかく、社説なんていうもので、素人が何を言ってるのか」と思った。
これを書いた人は、「緊急承認制度」をちゃんと読んでいないのか、あるいは読んだけど理解できていないのかのどちらかじゃないのかな?
正しく理解できるまでよ~く読むか、あるいは、わからないんだったらわかるまで専門家に聞いてほしい。まあ本人がわかったつもりになってるんだったら、どうしようもないわけだけど。
『コロナの被害を防ぐためには限られたデータから有効性を「推定」すればいいはずではなかったか。』とか書いてるんだけど、今回の結果からは、その「推定」が出来ないんじゃないのかな? なぜなら、主要評価項目でゾコーバ投与群とプラセボ投与群との間に有意差がなかったんだから。
そしてまったくあきれたのが、『判断がつかないのなら「継続審議」という結論じゃなくて「承認せず」にすべきだった。』と書いてること。
今回はPhase2bのデータまでしか出てないんじゃないの? Phase3のデータはこれから出て来るんじゃないの? そしてその結果も踏まえて、もう一度審査しようということでしょ。そのための継続審議でしょ。
この社説の件、さっき、某外資系製薬メーカーの開発にいる知り合いのマリサポ(まだ現役)とちょっと話したんだけど、やっぱり儂と同じようなことを言ってた。
また、Twitterで某Dr.が「製薬メーカーの提灯持ちか」って切り捨ててたw。
儂の現状の情報源は、あくまでも先にリンクした記事がメインだし、大新聞社の社説を書くような方だから、もっと詳しい情報を持ってるのかもしれないけど、少なくともこの社説からはそれは読み取れない。
医薬品のことは専門的なことが多いので、一般にはよくわからない人が多いと思う。そういう人達に向けて、こういう不正確(と儂には思える)な意見を大新聞が発信するというのはいかがなものか、と、医薬品の開発や臨床試験に関わってきた者として強く思う。
あの新聞、サッカーのことはわりといいこと書いてることが多いのに、残念w。