plainriver music: yuichi hirakawa, drummer in new york city

ニューヨークで暮らすドラマー、Yuichi Hirakawaのブログ

ニューヨークの今と昔#2

2006年02月16日 | ニューヨークあれこれ
観測史上、最大降雪量を記録した先日のブリザードの残雪が殆ど溶けたほど、今日は暖かく晴れ上がった。あまり水はけの良くないニューヨーク中の排水溝付近には許容量を超えた大量の水が流れ出し、交差点付近は走行中の車からの泥水攻撃の場に。歩道にも至る所の庇から水が滴り、皆それを避けるために端に寄りそうように歩いていた。

そんな一日の夕方、足下と頭上の泥水に気をつけながらフト目に留まったのがこの風景。少し分かりづらいかもしれないが、画面最右のビルはICP、インターナショナルセンターオブフォトグラフィー。1974年に建設された。その他のビルの名前は知らないが、殆どはここ20年以内に建てられたと思われる。

その高層ビルに囲まれているのが、画面中央の2つのビル。これはかなり古そうだ。そのうちの一つの側面に、「WOODSTOCK」と書いてある。さらに画面左の手前にはこれからまた新しいビルが建てられる予定だ。何か数十年の、この大都市が経て来た時の流れの一部が凝縮されているような風景でした。

2006年NY吹雪第一弾

2006年02月13日 | ニューヨークあれこれ
今年のNY市の冬、年が明けてからでさえ、零下になった日は殆ど無かった。このまま春にはやはりならず、昨晩から今朝に至るまで、まるで今シーズンの暖かさを打ち消すかのような、猛烈な吹雪である。昨夜夜半少し前から横殴りに降り出し、朝10時半現在も威力を落とす事無く、黙々と雪を至る所に積もらせている。

夜中にふと目がさめた時には、雷が鳴っていた。雨が降っている時とは異なり、まるで音が形になってみえるかのようにはっきりと、そしていつもより長く鳴り響いていた。閉め切った窓越しだと、雪の降る音は殆ど聴こえないので、乾いた雷の音だけが聴こえた。

まるで冬の神様NY担当が、「今年の冬は全っ然冬らしく無くて、申~し訳なかった!今からしっかり冬にするけん、堪忍してつかーさい!」てな感じで鼻息荒くしてテンパっているかのような吹雪である。去年は数回吹雪あったわけだが、僕にとって一番の思い出は、やはりギグ当日夜に降り出し、ギグを思いっきりキャンセルにしてくれたやつだ。

ここまで書いたからには…そう、今年のこの吹雪第一弾の夜、僕はギグに行く筈でした。勿論キャンセルです。このギグは去年と全く同じギグです。2年連続で同じ気象条件で、同じ労働条件のもと、プチ失業しました。(泣)失業手当は、自宅での休養です。今日のギグはキャンセルになりませんように…。

効率と仕事のでき具合

2006年02月12日 | ニューヨークあれこれ
いつも乗っている地下鉄に、地上波で見られるテレビ局の広告が数種類貼っている。ある日このうちの一枚のポスターに「ん?」と気が付いた。グラフィック上のエラーなのだが、かなり堂々としたものだ。

画像はコメディーアニメで有名なキャラクターの、お腹から足元を写している。著作権侵害だなんて後で揉めたくないのでポスターの絵全部は載せていないが(こういう態度、世界中のストリートで海賊版DVDを売っている人達には到底理解してもらえないだろう)、おじさんが横になってスナックを食べながらテレビを見ている。でその足下に置かれたスナックの箱には、灰色の猫だか犬だかが描かれているようだ。ここでいきなり曖昧な描写になるのは、ポスターのこのスナックの容器から唐突に灰色が放出されているからだ。

形は異なる幅を持った2つの楕円。まるでPCで絵を描くソフトで、灰色の楕円を引き伸ばして上から落書きしたようだ。構図的に明らかにおかしい。そう思ってこれに気付いた日からしばらくの間、地下鉄に乗る度に同じポスターのこの部分をチェックしたが全てに同じものがあった。

こんなにまですごいエラーを堂々と何百枚もNYの公衆に晒しているのは、有名なメディア会社。自社が配給した映画の終わりを、「パンパカパ~ン!」というファンファーレとサーチライトに照らされた20の文字を写して締めくくる、あの会社。
おそらくポスターが全て刷り上がってから、このエラーは会社上層部に報告された筈だ。そこで敢えてこのまま地下鉄に貼ってしまったのは、予算がもったいないからか、それとも大量のゴミを出すのは環境上良ろしくないからか?それとも上層部は未だにこのことを知らなかったりして…。

アメリカ国民性

2006年02月06日 | 音楽
先日のギグは、タイムズスクエアにある、B.B.King Blues Clubにて。

金曜日の夜なので、夜遅くまで客は入って来る。当然演奏時間も夜半過ぎまで続く。でも今は2月。1年で最もパッとしないというか、みんなおとなしくしている時期。全米からタイムズスクエアに集まって来る観光客のパワーも、それ程長続きはしない。この晩も夜中の1時を過ぎた頃には、バンドを含めた従業員の数が客数を凌駕していた。

ガラ~ンとしたフロアに向かってドラムを叩きながらふと目に止まったのは、一組の中年カップルがチークを踊っている姿。他の誰も踊っていない、吹き抜けの天井の広いフロアで、派手でないが、ゆっくりと身体を揺らしながら、その時その場所に二人でいるのをとても楽しんでいるかのように。

ステージへの逆光でしか見ていない僕にも、何だか彼らの嬉しさが伝わってくるようだった。かと言って目を背けたくなるようにイチャイチャしているわけでもない。アメリカって良い国だな、と思う一つのシーンだった。

久しぶり、だらけ

2006年02月05日 | 音楽
このブログをアップするのが随分久しぶりになってしまいました。だからという訳ではないけれど、先日のギグは何だか「久しぶり」なことが多かった。

まず場所。もうかれこれ3年はギグをしていなかったイーストビレッジ。共演したのは、2年3ヶ月振りになるジャズギタリスト/ピアニスト/作曲家のベレードさん。彼とは知り合ってから2年に一度の割合で演奏している。そして共演したベーシストは、なんと二十歳!年齢が自分より上のミュージシャンだったら、干支で一回りどころか二廻り半くらいの方と共演した事はあったけど、自分より一回り以上若いミュージシャンと一緒に演奏したのは、数年前まで講師をしていたナショナルギターワークショップでの生徒のキッズとくらいなものだった。いや、仕事で一緒になったミュージシャンとしては一番若いかもしれない。

まぁとにもかくにも、無事ギグは楽しく終わり、二週間後にまた同じ場所でやることになりました。こちらがベレードさんのお知らせページです。バンドはラテンジャズ、あるいはジャズロックという感じで、殆ど貸し切り状態で落ち着いて楽しんで頂けることでしょう。当然料理も美味しいです。賄いでご馳走になった僕が言うのですから間違いありません。

2月16日の木曜日は、その前々日のバレンタインデーにあまり気合いを入れず、二日にわけて楽しむようなつもりで御出で下さい。

Beledo Trio

ここからは少し話が変わります。

ニューヨークに越して来て直ぐの1995年から数年は、よくイーストビレッジでジャズライブをしていた。実は今も大したギャラを貰う仕事というのは、ニューヨークのローカルなギグでは滅多にないけど、イーストビレッジのライブジャズのギグは、本当にギャラが少なかった。賄いと酒とチップでもらった10ドル、なんてのはしょっちゅう。そんなギグのために、わざわざブルックリンからドラムセット引きずり出し、夜中の地下鉄を往復していたのである。

たとえ他の人のバンドで、ローギャラでもやっちゃう時もあります。ただそれは、今後またそのバンドで演奏できるという見込みがある時だけにしている。ノーギャラのギグは、友情出演とか、チャリティのためとかくらいかな。

「レギュラーのドラマーができないから、今回のギグだけ頼むよ。」という感じで引き受けたギグで演奏するうちに、いつしか自分がそのバンドのレギュラードラマーになってしまった、という経験もあるから、全ての「一回切りのトラのギグ」に正当なギャラを請求するのは、余り良くないかもしれない。「器が小さい。」と誰かに言われるかもね。(ちなみにトラ、というのは「エキストラ」から来ている。これは日本での業界語で、東海岸ではこういう代役のことは、サブと呼ぶ。これは "substitute"から来ている。)

でも、その一回こっきりのギグのために、他人の感性で作られた曲を憶えたり、数回リハーサルをするのに費やす時間と労力は、無視出来ない。そして、ワンステージをきっちりこなせる程に憶えた曲というのは、そう簡単に忘れられるもんでは無い。否応無しにしばらくは頭から離れない。こうなったら、やはり数回に渡って演奏したくなる。でも一回限りとして約束したら、再びその曲をやれる保証はまるで無い。

今までは、自分がバンドに入るという形の、サイドマンとしてのギグばかりしていた。そして近頃、細々ながらも自分がリーダーのバンドをやるようになってきて、今まで分からなかったことが少しずつ分かるようになってきた。何のことか?バンドメンバーの選び方についてである。バンドリーダーとしては音楽的に一番自分との演奏がかみ合って、再び一緒に演奏したい!とギグが終わる毎に思わせるくらい上手いプレイヤーをメンバーにしたい。また、自分のバンドをもっと世間に知らしめようとするなら、ネームバリューのあるメンバーをゲットするというのも大切だ。

ただこれは僕個人の場合にしか当てはまらないかもしれないが、どんなに凄いプレイヤーでも、一回演奏しただけでは、そのプレイそのものも、人柄も分からなすぎる。今の僕がリーダーのバンドには、まず「平川雄一というドラマーは今はそんな有名ではないし、ギャラを沢山くれる訳でも無いけれど、今日のギグは面白かったから、また今度一緒にやろう!」と思ってくれる人が必要なのだ。

そうでなければ、別にその場限りの「セッション」ということで、どんなステージになるかはその時になってからのお楽しみ!というギグにすれば良い。それはそれで楽しい。特にジャズは即興音楽だから。しかし、即興演奏を充分に繰り広げるには、実は沢山の音楽的約束事をクリアしていないと成り立たないことが多い。一番分かり易いところだと…。例えばピアノトリオでスタンダードを演奏するギグだったとする。もしピアニストとベーシストが共通の曲を知っていないと、このギグは成り立たない。

バンドリーダーとして一番「もう勘弁してくれい!」というタイプの人は二種類。まずこれは、もう演奏以前のそのまた前の基本的マナーのレベルなのだが、ギグを依頼した連絡に何の返事もしない奴。そういう輩の電話番号を、最近はなるべく素早く電話帳から削除するようにしている。もう一つは、「この曲、知っている?メロディー演奏出来る?」と訊いて「うん、知ってる、メロディーも弾けるよ。」と答えておきながら、本番で、ヨレヨレなことになり、メロディーを弾いてないドラマーの僕でさえ恥ずかしくなるような事態にしてくれる人。このタイプの電話番号も電話帳から消える日は近い。