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伊豆大島渡航記 セーリング 平成三年十一月(1991)その9

2022-02-04 12:27:59 | 写真 海

                十一月二十四日(日)

 06:00
 起床。少々寒いが幸いなことに雨は降っていなかった。
 「いつ雨が降ってくるかわからないから、すぐに出航しましょう。飯は走りながら喰いましょう」とS。
 岸壁に上がり防波堤の向こうを眺める。荒れている様子は無さそうだ。
 漁船の影も視える。
 Sの提案を受け入れた。公衆電話に走りY田に電話を入れた。
 「消防の訓練が終わり次第に家を出る。鴨川辺りまで行く」
 「そこまで来なくてもいい」
 「では、小湊まで?」
 「いや、マリーナから呼んでみてくれ。たぶん昼前には入港できるだろうから」

 エンジン始動。問題は無いようだ。素早く擬装。直ちに離岸。
 『お**ん』はまだ眠っているようだ。

 06:30
 出港。エンジン回転数は千五百。定置網を交わすためにまっすぐ沖へと向かう。
 Sが餅を焼き汁粉を作った。T海とKに先に摂らした。
 「セール揚げないのですか?」Sがキャビンの中から訊く。
 「二人が済んでからにしよう」
 港を出て二百メートルほど走ると二人が喰い終わった。
 艇を風に立てた。
 「メイン揚げ!。ワンポイント」
 「リーフするんですか?」
 「フルメインには簡単にできる。暫く様子を視よう」
 T海がマストについた。リーフクルリングをフックに掛ける。
 Kがハリヤードを引く。ワンポイント完了。
 続いてジェノア展開。フルジェノア。艇は機帆走に移った。

 ヘルムスをT海と代わり朝食。


 甘いものは普段は殆ど摂らないがたまに喰う汁粉もいいものだ。
 まして艇の上だとなおのことだ。
 Kがビデオカメラを構えた。

 三日間は殆どランニング気味の走りだったが最終日の今日はもろクローズだ。
 ニ十五海里をタック、タックの連続で切り上がって行かなければならない。
 しかし今日はエンジンが快調に回っている。
 昼間にはマリーナへ到着するだろう。

 懸念していた風が出て来た。ワンポイントにしておいたのは正解だった。
 艇は二十度のヒールを保ったまま順調に走っていた。


 次第に北の風が強くなってきた。ブローが吹くと三十度以上にヒールする。
 ジブをファーリングする。
 波が岸の方から押し寄せ始め、次第にその高さを増してきた。
 風のパワーが想像つくだろう。
 「もっと岸寄りを走りましょう。山の陰に入って、その方が風が弱いでしょう」Sが提案した。

 タック。コンパスがNWを示す。KDDタワーが正面に視えた。
 このまま行けば千倉に戻ってしまう。
 一呼吸おいてタック。沖へと向かう。艇速は結構出ているのだがファーラー艇の宿命で上り角度が弱い。
 普段はほぼ固定のトラベラーを調節する。
 メインセールを最高に迄引き込んだ。

 風速はすでに十ノットをコンスタントに超えていた。
 ツーポイントリーフをT海にやらせてみようかと一瞬思った。
 が、もしものことを考えた。パパになったばかりだし・・・。
 ティラーをSに託した。コクピットからデッキに乗り出した。
 毎度ことながら荒天時のときのデッキ作業は 辛いものがある。
 しかし昨日の今日だ。苦労は無かった。
 T海も今日は失敗しなかった。
 素早くリーフを完了してコクピットに戻った。


 千倉港から出た時には微かに見えていた勝浦の岬が視界から全く消えていた。
 そればかりか鴨川の周辺も霞んでいた。
 波も風もいっこうにその勢力を失わない。
 ブロー。ついに最大ヒールがコンパスに付属しているヒール計のメモリを振り切った。


 推定六十度オーバー。キャビンの内で凄まじい音がした。※ ↑ は入港後、ここまで傾いたとSが指をさしている。



 コンパニオンウェイから覗き込むと圧力鍋が転がり、その他、諸々が床の上に散乱していた。
 最初はざっと片付けたが二度目からは諦めた。

 アマ無線でY田を呼んだ。応答無し。まだ勝浦に到着していないようだ。

 相変わらず距離が稼げない。昼前入港が怪しくなってきた。


 ヘルムスはT海だった。よく頑張っていた。不安は無かった。
 逃げ場のないこの一航海がT海の技量をビギナーからステップアップさせたに違いない。
 仁右衛門島をやっと交わして鴨川沖に達した。本日の航行予定の半分を漸く消化した。

 慣れとは、恐ろしいもので荒天時でも不安感が薄れて行く。
 三十度を超えるヒール、ブロー、絶え間ないスプレー、そんな中で居眠りが出る。
 客は風下側の座席に突っ張り。手はライフラインに廻っていた。
 それでも睡魔が襲ってくるのを禁じ得ない。
 「とにかく落水だけはするなよ。落ちたら救助できる保証は無いからな」時々念を押した。

 小湊沖に達すると漸く勝浦の稜線が見えて来た。



 行川を迂回。鵜原沖合。海中公園が潮に煙っていた。

 勝浦湾にホテル三日月とN岡のマンションが重なって見えた。もう少しだった。


 「ここまで来たら半分終わったと言っていいですかね?」Sが昨夜の話を思いだし笑いながら言った。
 T海、Kの顔にも笑みがこぼれていた。



 波が小々落ちて来た。艇はハーンーバーリミットを越えるまで僅かのところまで来ていた。
 ビデオカメラを取り出した。感激の顔と声を録る。

 「JM1***、こちらはJL1***。いまどこにいますか?」Y田から入電。
 「勝浦湾のすぐそばまで来ている」
 「さっきから双眼鏡で探しているけど視えない」
 「近くに漁船もいるぞ。よく視てみろ」


 「・・・・・・アッー!。判った。すぐ近くじゃない」
 「そう言っただろう」 
 数分、本日の航海の様子を話す。
 「セールを降ろすから切るぞ」
 「分かった、マリーナで待ってます」

 ジェノアをファーリング。メインダウン。朱鳥居が懐かしい。
 「フェンダー降ろせ」
 Y田の姿を岸壁に見つけた。手を振っていた。こちらも手を振ってそれに応えた。


 
 「写真を撮るから全員こっちを向いて」とY田。F4を構えている。
 歓声を上げながら三人が手を振る。
 「アメリカスカップの凱旋のようだな」と苦笑しながら私が言った。


 入港直前
 「サークリングするぞ」と言いながら私はティラーを右いっぱいに切った。
 艇は静かに左旋回をした。

 11:15
 勝浦マリンハーバー。入港。



 乾杯。私も普段は飲まないビールを干した。

 

 次期計画
 日時  今回よりも、もう少し暖かい時期に五日から七日間で。
 目的地 新島を主とした離島
 費用  一日につき二千円もあれば足りるだろう。(酒代・土産代別)
 募集人員 三から四名 会員優先

 

 

   後のために  ダイビング編目次 へLINKを貼ることにいたします。



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