四月十日
六時半起床。ポットをセットして、まずシャワー。
テーブルと椅子をテラスに出した。その作業音で辰也が目を覚ました。
「何をしてるんですか?」
「撮影の準備」
珈琲、アンパン。疲労が出て来たのか甘いものが美味く感じる。
交代で記念撮影。辰也の結果は期待すまい。
※パラオホテルの裏側にあった カテオケ 屋
お隣さんがお目覚めだ。パジャマ姿のフィジーがテラスに現れた。
珈琲・ポット・カップをお貸しした。
八時二十分。ニコノスを持ってホテルを出た。小雨。バスはまだ来ない。
「ねえ、このカメラちょっと診てくれる」突然声を掛けられた。
突き当りの117号室。トシエを閉め出した張本人だった。
水商売風。私よりもだいぶ歳上のようだ。
「どうしました?」
「シャッターが、落ちないのよね」
カメラを受け取った。私の物とは異なるオレンジボディのニコノスだった。
35mmレンズにS&Sの16mmコンバージョンレンズが装着されていた。
ファインダーを覗いてシャッター釦に触れてみた。ファインダー情報が皆無。バッテリー切れだ。
「電池が切れてますね。予備は?」
「無い。あなた持ってない?」
「分かりました。お譲りいたしましょう」部屋まで急いで往復。
バスが到着していた。乗り込んだ。水商売風オバサンに電池を渡した。
「換えて」
『なんなんだ、このオバサンは・・・?。人使いの荒い』「コインありますか?」
ダイムを手渡された。ニコノスの底にある電池室の蓋を開き手早く交換。
ファインダーを覗きシャッター釦、半押し。OK。
マリーナに到着。
今日は乗船前にウェットスーツに着替えさせられた。
艇に乗り込んだ。メンバーは昨日と同様にSASとピンク。それにもう一人小柄な女。話によるとピグモンの友人。顔色が悪い。『大丈夫か?』
昨日と同様にマラカルセントラルに寄港。オバサン五人組とホストが乗り込んで来た。
離岸。艇速が上った。
ブラックスコール。頬を打つ雨滴が痛い。全員フードを被り無言だ。
『!。コースが違う』昨日はまではまず西を目指して南下。
だが今日は南下する地点を通り越した。まったく離れたポイントに行くのか?。
五本目 ブルーコーナー
ハルが帰国したので今日のガイドは新顔だった。
歳の頃は二十歳とちょっとか?。線が細い。髪が金色に変色していた。小生意気な顔つきをしている。
エントリー。ドロップオフを少々降りて壁伝いに進んだ。
いやでもガイドの尻を拝まさせられる。破れている。『亀!では無いよなぁ』
ジャージがネオプレーンから剥離して漂う海藻のごときだ。
弊衣破帽が粋の時代は遥か昔だ。?・・・ダメージジーンズ!最近もそうか。
このポイントも眼下にホワイトチップが不気味に蠢いている。
銀色の群れはカスミアジ?はたまたギンガメアジか?。距離があるのではっきりしない。
ウメイロモドキ・クマザサハナムロも群れをなしている。
シュノーケルが纏わりついてどうも泳ぎにくい。外した。BCのポケットに収納。
二十分ほどで水深十メートルのテラスに出た。周囲を見廻すと何組ものパーティ。
いったいどれくらいのダイバーが犇めいているのか?。
ガイドが残圧チェック。まだ半分以上残っていた。
アカモンガラが特異な姿を見せた。だがどうしても黒にしか見えない。
蟹や蝦のように熱を加えると赤く変色するのか?。撮影。
ここでオバサン軍団とはお別れだ。ホストとジャイアンがそれに付き添った。
魚の写真ばかりでは物足りないので人物を少々。
まずは辰也を。
それにSAS。
ピンクの安定した水中姿勢。
辰也にニコノスを渡した。構えさせて目測式なので自ら距離を取る。
ハンドサインでカメラ角度を支持。妹ならばこれで撮れるのだが・・・?。
結果は ↑ 地上でも、そうそう写真を撮ることのないビギナーズダイバー故にこんなところだろう。
ナポレオン出現。昨日のものより一回り大きい。
だが額のコブは未発達だ。まだまだ大きくなりそうだ。
目が合った。なかなか表情も豊かである。充分に餌付けされているのだろう。全く人を恐れない。
数枚を連続して撮影。ピンクも固定焦点のカメラで撮影している。
多くを望まなければ非常に楽でいいカメラなのだが。
ガイドが移動の合図をした。そのまま沖に向かって泳ぎだした。
女性三名がその後に続いた。私もゆっくり後を追った。後ろを振り返った。辰也の姿が視えない。左右・・・上下・・・『いない・・・何処にもいない』
つ づ く