六本目 クエフ北
さて、ラストダイブである。ブリーフィング。
「巨大なウミウチワがあります。ガラスハゼがいますのでライトで照らしますから視てください。ぽーさんは・・・マクロ?」
「そうです」
「じゃあ撮れますね」
エントリー。すぐに海底へ。
珊瑚が見事に群生している。
写真派の私にはいままでの慶良間よりもこちらの方が個人的には好きである。
水中移動。いくつかの珊瑚の小山を経て目的のウミウチワ(※見出し画像)に到着。
シマがライトを点灯。ガラスハゼを捜す。見つかったようだ。
手招きをされた。素早く撮影。すぐに場を譲った。
※ガラスハゼ 背の部分が透けている。
しばしフリータイム。獲物を捜した。
コブシメ。
※コブシメ コウイカ目コウイカ科に属するイカ 体色が様々に変化するので見飽きません。
名前の由来は、沖縄では古くから「甲羅をかじるもの」として「クブシミ」と呼ばれていました。
それが転じて「コブシメ」と呼ばれるようになりました。
つい、昆布締めを想像してしまうのがご愛敬。
まずは撮影。周囲を見廻すとシマも気づいたようだ。
『センセイ』に記している。コブシメはテーブル珊瑚の下に身を隠した。手招きで皆を呼んだ。
帰路は流れに逆らっての水中移動。かなりキツイ。ネクサスを持っていなければ苦労は無いのだが。
途中、休息を取ってエントリー地点へ。見上げると船底にルックⅢの文字!。これはいい。
T 村が気になった。残圧計を盗み視た。『もう少し大丈夫だろう』
残りのフィルムを消化するために被写体を探した。マイクロレンズの特性を活かす為には微小なものがよい。
だが艇の下の浅瀬には興味をそそるものは見当たらない。
・・・T 村が浮上して行った。
五分後。エアもフィルムも残して浮上。
十五名も講習を終えて、セントの上は賑やかである。
ウェットスーツを脱ぎ捨てて身軽になった者が泳ぎだした。
T 村がそれに刺激されて飛び込んだ。
及び腰でブルワークに昇り飛び込む者も出てきた。但し脚からの身投げスタイルだ。『芸能人水泳大会の松本〇〇じゃないんだ』
「どうせならフライブリッジから飛び込め」セントに向かって怒鳴った。
「そんなに言うならぽーさんが飛び込めばいいじゃないですか」丸ポチャが喧嘩腰とまでは言えないがキツイ口調で言った。
「しからば」立ち上がった。ルックⅢは少々乾舷が低いのが物足りない。
乾舷を蹴った。頭からのダイビング。そのまま潜行を続けた。二十メートルほどで浮上。疲労が蓄積されていると言え情けない。昔の半分にも満たない。
一泳ぎして帰還。まだみんな海の中で燥いでいる。
それに向かって大声をあげた。
「T 大の諸君はそのまま泳いで港に向かう」笑い声があがった。
「大丈夫だ。九月の御宿を思い出せ。あれより少し距離があるだけだ」(実は10kmを越える)
「明日の集合は十一時二十分。それに間に合えばいいぞ」
※ シャコ貝 この辺の画が見つからないで賑やかしに
泊港に到着。ルックⅢは小型艇故に接岸も簡単である。セントは港口で間合いをはかっている。
シマの『センセイ』が目に入った。
『不合格者 N山大介』と記した。
「これを持ってセントの着くところに立っていろよ。俺が持っていても誰も本気にしないからな」傍にいた架純に言った。
「エッー!やだな、そんなこと」と言いながらも『センセイ』を持って立ち上がった。
『センセイ』で顔を隠してセントが接岸するのを待っている。勿論スクリーンは海に向けている。
セントがスターンから接岸した。誰かが『センセイ』に気づいた。N山にそれを告げている。
N山の顔から血の気が退いた。
・・・・・・・
「ぽーさん!。シャレになりませんよ」
「驚いただろう。誰にしようか迷ったんだがイントラ志望のお前が適当だと思ってな」
「ぽーさんが持っていたら最初から冗談だと思ったのですが・・・」
「もう一回やるか?」N山が頷いた。
艇を眺めた。『バウに居て今の出来事に気づかなかった者は・・・?』
女の子は泣き出すと面倒なので止めにした。
私の冗談に多少は免疫のある三年生に的を絞った。
『W辺 N村 追試』ビットに立てかけておいた。KOがそれを視て笑いを堪えている。
素知らぬふりでルックⅢの前に戻った。待つことしばし。S口がそれに気づいた。
「おーい。W辺、N村」とS口が二人を呼んだ。バウから二人がスターンへ。
反応は推して知るべし。
ホテルに戻って暫くすると雨が降って来た。TVの天気予報は明日の雨を告げていた。海も荒れる模様だ。
「ついてましたね」
「そうだな。なんだかんだと言っても三日間もったからな。今日なんか最高のコンディションだったし、
やつらも海洋実習が明日でなくて助かったよな」フィルムを捲き戻しながら答えた。
「で、スピードプリントに出してくるか?」ニコノスも捲き戻した。
「何処に行けばいいですか?」
「去年アイスクリーム屋に入っただろう、あのすぐ近くだ」
T 村はネガフィルムを二本持って部屋を出て行った。
その間に入浴。雨が激しさを増してきた」
うちあげ
十五名が申請手続きを終えてホテルに帰って来た。すでに八時を廻っていた。
「急げ、時間に余裕が無い」だが悠長に構えている。時間にルーズなのが今どきの子供達?。
雨はいっこうにその勢力を衰えさせることは無かった。タクシーに分散して店に向かった。
混みあっていた。奥にS氏をはじめスタッフが揃っていた。
「八時半に予約を入れておいたのですが店の人が勘違いをして九時半になっていまして」
「・・・・・・」
「でも、もう少しで席が空きますから」
「全員揃うのは後三十分くらいかかるでしょうから丁度いいかもしれませんね」
泡盛の一升瓶と水が運ばれてきた。シマがそれを視て銘柄に注文をつけている。
生ビールのジョッキが行き渡った。私は例によって烏龍茶だ。
「では、ぽーさん。乾杯の音頭を取ってください」
スカートと挨拶は短い方が好ましい。本当に短く「乾杯!」
それからが賑やかだった。両隣はS氏とシマ。向かいの席には・・・?。顔には記憶があるのだがこの男、誰だか思い出せない。
「連中のサポートをしてくれた方?」
「違うよ。ファンダイブで今日一緒だったじゃない」架純が非難するような口調で言った。
「・・・ ・・・!。あっ!MX-10を持っていた」顔は記憶して無くてもカメラはしっかり憶えているのが私だった。
黙って視ているとこの男は女二人に御執心だ。
まあ、二人のどちらとも色恋沙汰は無いのだから構わないと言えば構わないのだが。
その隣はN山・O竹の一年生凸凹コンビ。
「インストラクターになるにはどれくらい掛かりますか?」とN山がS氏に訊ねた。
「そうだね。三四年かな。だけどその後の修業が大変だよ」
「修行ですか?」
「そう、海を読んで、風を読んで、それからお客さんの扱いを覚えて・・・技術以外のそっちの方が大変だよ」
「N山、NAUIのイントラの試験の最後に『最愛の娘を託せるか』と言うのがある。どういう事か解るか?」
「・・・・・・?」
「いきなり、向かいに座っている女子大生を口説いているような奴は駄目だってことだよ」
「・・・・・・!」
「その前にオープーンウォーターⅡ(現在はアドバンスト改称)を取って・・・ダイブマスターになることだ」
「ぽーさんは今なんなんですか?}
「俺か、俺はオープンウォーターだよ」
「どうしてですか?ランクを上げないんですか?」
「オープンウォーターのままの方が楽じゃないか。でも下手な奴がいるとついつい手伝ちゃうけれどな」
「私も他所へ行ったときはオープンウォーターのカードしか見せませんよ。でも分かっちゃうけどね」とS氏。
「お前たちと同じくらいの年齢ならば考えるかもしれないが、俺はイントラよりも偉そうなオープンウォーターを目指ざしているんだ。
ここでは駄目だが他所へ行って黙って座っていればイントラと間違えられることはしばしばある」
「オープンウォーターⅡは簡単ですか?」
「ここへ五回通って不安ダイブがファンダイブになればくれるよ」
「えっ!。そうなんですか?」
「ま五回と言うのは冗談だけどな。Ⅱは学科試験は無いんだ。要するに技量がそこに達していればいいんだ。
一緒に潜ったイントラがその能力があると判断すればOKなんだそうだ」
「それで申請すれば・・・じゃあ、ぽーさんがⅡを申請してくれと言ったらOKなんですか?」
「いつでも構いませんよ」S氏が答えた。
「ふーん」N山のイントラへの道は険しく遠い。 ※その後イントラになったと言う報告は無い。
席はテーブルを繋げて一列に造ってあった。そのうえ大人数である。立ち上がって酒を注ぎに来る者もいない。と、言うよりもできないと言った方が適切である。
遠い席に座っている者たちの会話は聴こえない。だが誰もが興奮冷め遣らぬ表情で盛り上がっていた。
雨は小降りになっていた。ホテルを目指して十九名が連れだって歩きだした。
ボーリング場。昨年ビリヤードで一戦交えたところだ。入館。
丸ポチャと架純は不参加。先にホテルへと向かった。
四レーン。組み合わせは学科試験の成績順位。
ブームの頃アベレージ170を超えていた私も十年のブランクと疲労(単に年齢によるものかもしれないが)により散々なスコアであった。
結果発表。私とKS女子大のY中が同点首位。ハイゲームはS谷。
他の者は?・・・楽しんだからそれでよいではないか。
零時を廻っていた。ホテルのロビーで水中で撮影した写真を一人ずつに配った。
魚の写真も再プリントすればよいので一枚ずつお土産代わりに進呈。
空港集合の際の諸注意を再確認させお開き。
だが」長い夜がそれから延々と続いたのである。
※1993 10月30日 那覇空港
※掲載順位がランダムなのでダイビング記事の目次を作りました。
年代順となってます。
ダイビング編目次