行ってみませんか... こんな 素敵な世界へ

好奇心旺盛な長年の体験で、行って、見て、食べて、泊まった素敵な世界を、皆んなにちょっぴりお裾分け...

パリで美術三昧 <レオナルド・ダ・ヴィンチ> を "没500年記念特別展 ルーヴル美術館2019年秋" で偲ぶ 2

2021-02-05 00:22:06 | 素晴らしき世界/パリ/美術
『世界の救世主』 ダ・ヴィンチ または アトリエ制作 1505〜15


<続き>


数々のダ・ヴィンチならではの特徴の
もう一つ
聖母を含む女性たちの存在

ダ・ヴィンチにとって
生涯追い求めた母のイメージとも言われる
玄妙なる女性の表現



『ジネヴラ・ドゥ・ベンチの肖像』 未完 1475〜76
赤外線写真 ロンドン ナショナル・ギャラリー提供


『聖母子像 果実を持つ聖母 のための習作』ペン画 1478〜80
完成作は個人所蔵 所有者がこのペン画をルーブルで委託展示

鉛の小片で線をつけペンでなぞってインクをかぶせたもの



『聖母子像 組紐を持つマドンナ』 1476〜78
赤外線写真 バイエルン ドゥエルナー・インスティテュート提供


よく見えないが
マリアがイエスに渡そうとしている「組紐」は
(イエスの手足を十字架に固定する)『釘』を暗示しているそうだ

ダヴィンチ以前の聖母子像を理解するために
一点展示があった

『聖母子像』アレッソ・ヴァルドヴィネッティ 1464 ルーヴル所蔵

聖母はそれなりに美しいが
神の母としての気高さや清らかさは感じるが
それとて至高のものではなく
それなのに母の無限の愛は感じ取れない気がする



『聖母子像 ベネディクトのマドンナ』1480〜82
サンクト・ペテルブルク エルミタージュ美術館所蔵

そしてこの聖母子像ときたら
ダ・ヴィンチ特有の性別すら超越したような幽玄なる表情ではなく
なんとも「コケティッシュ」なお母ちゃん
その母親が持つスミレの花に興味を惹かれて触れようとする幼子
二人の間の愛の日常性を感じさせる
ダヴィンチの唯一毛色の違った「聖母子像」だと思う

それ以外の作品での女性の表情は
気高く 高貴で
優しく 美しい
それでいて
触れたくとも永遠に手のとどかない様な
非現実的な
深い悲しみとも取れる「何か」が溢れ出てくるようになる



『女性の頭部』1480〜85 
グレーの台紙に銀の小片で線刻し白の顔料を上塗り ルーヴル所蔵




『セシリア・ガレラーニの肖像 貂を抱く女』1485〜90
赤外線写真のデジタル展示 クラコフ国立美術研究所



『岩窟の聖母の天使のデッサン 習作』1490〜94
トリノ 旧王室図書館所蔵




『ミラノ宮廷の貴婦人肖像 (美しき鉄細工師)』1490〜97 ルーヴル所蔵

上に示した『貂を抱く女』の連作とも言われる女性像
長らく「Belle Ferronière 美しき鉄細工師」と誤って呼ばれてきたが
実はそれは別の作品で
これは高貴な女性の肖像画であったことが最近の研究で判明している




『聖母子像 糸巻きの聖母』1501〜1510? Vers.1 アトリエ制作 個人所蔵



『聖母子像 糸巻きの聖母』1501〜1510? Vers.2
アトリエ制作 エディンバラ ドラムランリング城所蔵

当時の売れっ子絵師は
琳派や狩野派あるいは売れっ子浮世絵師のように
弟子たち多くと分業で仕上げるのが当時のやり方だが
本人が重要な部分を手がけ
周囲を弟子が埋めてゆく

アトリエ制作とは本人が主となって制作にあたるわけではなく
中心部(主人公)を本人が担当しないことも多い

上の二作は
どれもマリアの表情が完璧なダ・ヴィンチとは言い難い
ともに弟子の手で完成されているが
特に後の作品は前のものに比べて聖母自体の深みに欠け
背景の「スフマトー 空気遠近法」の山々も
後者はかなり稚拙だ



『レダ(白鳥の化身)』 1505〜1510 アトリエ制作
フィレンツェ オフィチーナ美術館所蔵



人体研究のみならず
森羅万象にあらゆる事象の研究に励み
植物学を確立し
天体研究は現代の高性能望遠鏡がなければ把握できない
地球の惑星の大きさや
太陽との距離や惑星間の距離をほぼ正確にメモに残している


極め付けが

比例配分上理想的人体構造の数値化をなし図式化した


ペン画 『ウィトリウィウス的比例配分の人体』 1489〜90 
ヴェネティア アカデミア美術館所蔵


実は
このあまりにも名高いペン画は
この特別展のための長い下交渉で貸与が決まっていたものの
開催前になって「脆く長旅に適さない」という貸し出し反対運動が起こり
パリに届かなくなった

特別展の開始3日前に届いたという曰く付きの宝物

ダ・ヴィンチは
古代ローマの作品の分析から「黄金係数」の再発見をなした

自然界に存在するもので
皆が皆
見て美しいと感じるものには自然界の方程式があった
それを会得した上で
古代ギリシア人の天才たちは建築や彫刻を生み出していた
1∶ √2
そこから導き出される比例配分


そして
1480年代になると彼は円熟の域に達していく




『岩窟の聖母』1483〜86 ルーヴル所蔵

この作品は
『ラ・ジョコンド(モナリザ)』(ルーヴル蔵)
『聖アンナと聖母子』(ルーヴル蔵)
『受胎告知』(ウィフィッチ蔵)
と並んでダ・ヴィンチの最高傑作の一枚であり
もう一枚ロンドンにあるのだが
ダヴィンチの指示で弟子が最終的に色付けをやっているので
このヴァージョンとは比べ物にならない

それぞれの登場人物の表現は他の幾つかの作品に流用されている


『女性の頭部 ほつれ髪の女』1500〜1510 パルマ イタリア国立美術館所蔵




『聖アンナと聖母子 または 聖アンナ』 1502〜03 ルーヴル所蔵



『(聖アンナと聖母子の)聖アンナの顔の習作』
英国女王エリザベス二世陛下特別貸与




『聖アンナ 聖母子と洗礼者聖ヨハネ』1500頃
ロンドン ナショナル・ギャラリー所蔵


彼は「遠近感」の再現にも研究に没頭した

一箇所の視点から広がる線上に奥行きを作る
あるいは
奥行きのどこかに消滅点を置くという
旧来の遠近法だけでは飽き足らず
画家の目の位置と描かれる対象物の
中間点のどこかに焦点を結ぶ描き方とか

あるいは光源が示されない環境での「光と闇」の対立的使用


『Saint-Jean Baptoste 洗礼者聖ヨハネ』1508〜19 ルーヴル所蔵

画面には対象人物のみ
背景に前後を感じさせるものは一切なく
ただ闇があるだけ
それで「ヨハネ(あるいはバッカス)」が浮き上がってくる

あるいは
緑豊かな山並みを見るとき
一番手前の山の緑が一番濃く
その後
薄緑 青 薄青 白
と変化する色の見え方を
単なる濃淡だけではなく
それを空気感で表現できれば
消滅点が無くとも奥行きを感じさせてくれる
『スフマトー 空気遠近法』
などなど

上の『聖アンナ』などでそれを確認できる

『解剖学的人間描写』『黄金分割』『空気遠近法』
ダ・ヴィンチの功績は語り尽くせない

しかし残念なことに彼は研究熱心すぎて
水彩絵の具を油で溶いたり
油絵の具を水で溶かしたり
植物性と鉱物性と動物性の絵の具の混在を避け
同一の種類の絵の具だけで書こうとしてみたり
そのため彼の絵は汚れて変色しやすかった
加えて
彼の絵の具の使い方は独特で
非常に塗膜が薄い
他の画家の半分以下の厚みしか無いので
これまでの技術では洗えず
変色しくすんでしまったものばかりだった

従って
レオナルド・ダ・ヴィンチの絵は原色がわからない
書かれた当時の色合いがわからなかった
最近になって
やっと最新技術で汚れを落とし
書かれた当時の色合いが見て取れるようになって来ている


最後に
「真贋論争」について

巻頭の『世界の救世主』だが
これは幾つかのヴァージョンがあるが
いずれもアトリエ細作
あるいは贋作扱いをされてきた

それで
このヴァージョン

『Salvatore Mundi 救世主』1505〜15

2017年のサザビーズのオークションで
なんと1億4千5百万ドルで落札された
美術史上最高額の売買となった
おおよそ180億円ですね

このオークションに先んじる事2年
どこかの権威ある団体が「本物のダ・ヴィンチ」という鑑定結果を出した事で
この値段がついたのだと思われます

購入者は身元を公表していないが
サウジの皇太子か
クエートの太守(エミラ)
またはスイス人ではないかと噂されており
現在スイス地方都市の小さな美術館が保管している

しかし
ルーヴル美術館による赤外線写真分析では
線が継続せず短い線を連続させるやり方は「ダ・ヴィンチのアトリエ制作」
でよく見られる現象としており
解剖学を極めた彼にしては右手の指の交差が不自然
晩年の彼の描く主人公は性別を超える感覚があるがこの救世主はあまりに男性すぎる
等々
ダ・ヴィンチ本人の真筆と断定するには懐疑的な意見が多い

真筆との鑑定は
オークションの売買成立のためではないか
との噂も

 ※

もう一つ
これは今回の特別展ではなく
それに先立つこと半年ほど前に
パリ近郊シャンティイ城の特別展『もう一つのモナリザ展』の主題
『裸のモナリザ』
と呼ばれてきた作品

『裸婦像 裸のジョコンド』インクとクレヨン シャンティイ城所蔵

パリ北方25kmのシャンティイに
ルイ14世の筆頭親族ブルボン=コンデ家の建てた
『シャンティイ城』
の最後の城主「オーマル公爵」が購入した
この裸婦像のための下書きはダ・ヴィンチのアトリエで制作されたもの
だろうと思われてきたようだ

しかしこの作品の完成画を
サンクト・ペテルブルクのエルミタージュが所有しており

エリミタージ所蔵の「裸婦像」の転写銅版画

銅版画の複製権を取得した出版者がフランスで銅版画を販売し
それを手に入れたオーマル公爵が真贋を確かめたいと努力したらしい
その後多くのコピーが製作され
またこの絵から構想を得た作品も多い

『ヴィーナス 裸のジョコンド』1515〜25頃 エルミタージュ所蔵

ダヴィンチの弟子の「サライ」の作であろうと言われている。
この弟子の作品はほとんど知られていない。

『ヴィーナス 美しきガブリエル』16世紀 制作年代不詳

『美しきガブリエル』という愛称で呼ばれてきた作品
ガブリエルとは
国王アンリ4世の側室の『ガブリエル・デストレ』のことと思われる


『ヴィーナス 裸のジョコンド』1515〜25頃 個人所蔵

ダヴィンチのアトリエ制作か
近い弟子の一人の作品と言われている
最新の研究でこの複製はシャンティイ城にある下絵から
作成されたことがわかった


『裸婦 フローラ?』カルロ・アントニオ・プロランチーニ 1620〜30
イタリア ベルガモ カラーラ・アカデミア・フォンダティオーネ所蔵


『浴室の婦人』フランソワ・クルゥエ 1571
ワシントン ナショナル・がラリー・オブ・アート所蔵


『ガブリエル・デストレと妹セザール・デストレ』作者不詳 16世紀フランス ルーヴル所蔵


『サビーナ・ポッパエア像』作者不詳 16世紀フランス
ジュネーヴ レゴ・ジャン・ジャッケ美術・歴史ミュージアム所蔵


キリがないので
この辺りで締めることにしよう

当然最後は真打にご登場願うことになる
そう
『ラ・ジョコンド または モナ・リザ』

『La Joconde   Mona Lisa』

長らく中断したままだったらしい「エリザベート・デッラ・ジョコンダ」夫人の肖像画
とおぼしきこの絵を
彼がなくなる3年前の1516年に
フランス国王フランソワ1世に招かれてフランスに来る際
『聖アンナと聖母子』『洗礼者聖ヨハネ』とともにフランスに持参し
ロワーロ河畔のアンボワーズに落ち着いて3年暮らしたのち
1519年に当地で没した
そのアンボワーズ滞在中に最終的に仕上げたと思われる

その他
『ミラノ宮廷の貴婦人像』『岩窟の聖母』の二点は
先にフランス国王が購入していたので
完成画は20数点しかないと言われるダヴィンチの真筆の
5点をフランスが所有している
その他
滞在中に弟子との共作をもう1点残した

『bacchus バッカス』

これは
かつては「洗礼者ヨハネ またはバッカス」と呼ばれていたが
最近になって(酒神)バッカスに統一
ほぼ焦げ茶色に汚れていたが500年祭を期に修復され
綺麗になりすぎて賛否かしましい状態になってしまった

これと『ラ・ジョコンド』とは特別展ではなく
常設の展示だった

とにかく
ダヴィンチにつては作品数は非常に少なく
語るべき事柄は多すぎる。
この特別展のためにフランス政府はイタリア政府と長年にわたって
交渉を続け
「理想の人体図」を含む7点を借り出し
イタリアで行われるラファエロ特別展のために7点を貸し出している
=  =  =  =  =  =  =  =  =  =  =  =  =


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« パリで美術三昧 <レオナル... | トップ | パリで美術三昧 キュービス... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

素晴らしき世界/パリ/美術」カテゴリの最新記事