記憶のスクラップ・アンド・ビルド

当然ながら、その間にタイムラグがあり、
それを無視できなくなることこそ残念です。

世界は細菌にあふれ・・・その2

2017年11月17日 13時57分18秒 | Weblog
面白くて為になる話が満載、そのひとつ:
人間の母乳の3大成分は多い順から乳糖、脂肪、オリゴ糖。
しかし、赤ちゃんはオリゴ糖を消化できない。
なぜ母親は多大なエネルギーを費やして赤ちゃんのためでないものを生成し飲ませるのか。
オリゴ糖は胃と小腸を無傷で通過し、細菌の大部分の生息地である大腸に到達。そこの微生物のための食べ物だった。
母乳によって微生物をコントロールしているということ。

哺乳ビンから人工栄養のミルクを飲んでいる乳児の糞便よりも、母乳を飲んでいる乳児の糞便の方が、ビフィズス菌が多く含まれていることは20世紀初頭から知られていた。
ビフィズス菌の栄養になっていたのがオリゴ糖だと解明されたのは1954年。
ヒトミルクオリゴ糖は100種類を超えることが知られているが、その特徴については最近までほとんど分かっていなかった。

ビフィドバクテリウム・ロンガム・インファンティス(Bインファンティスと略)という亜種はヒトミルクオリゴ糖を与えている限り他の腸内細菌を打ち負かしてしまう。近い亜種でヒトミルクオリゴ糖を与えると逆に虚弱になるものもある。
Bインファンティスはヒトミルクオリゴ糖を消化すると短鎖脂肪酸を放出し乳児の腸細胞に食物を与え、また腸細胞にじかに触れて免疫系を調整する抗炎症性分子を作るよう腸細胞にうながす。

Bインファンティスが放出する化学物質の一つにシアル酸がある。
人間の脳は誕生から1年の間に急速に成長する。
この成長速度にシアル酸が寄与している。

われわれの腸に病原菌が感染すると、まず腸細胞の表面にあるグリカン(糖鎖:各種の糖が長くなったり枝分かれしたりしている)を掴むことから始める。ヒトミルクオリゴ糖はグリカンによく似ているので、おとりのように働き、病原菌は赤ちゃん自身の細胞から離れたところで攻撃を受ける。

これらの機能は、すべて織り合わさって巨大なシステムを作り上げ、われわれと微生物の関係を安定させている。授乳期の母親は単に赤ちゃんに食物を与えるだけでなく、一つの世界を丸ごと打ち立てている。

離乳してしまえば、自分の微生物に栄養を与えるのは自分の責任になる。
一部は食べ物を通してグリカンを送り込むが、自分でもグリカンを作り出し、腸内微生物が食べるための「牧草地」をもたらし、われわれに有益そうな細菌を育み、危険をもたらす細菌を排除する。

ホストが病気になり食欲がなく、エネルギーを食糧獲得から体調回復へ回すと、腸内細菌には一時的な飢饉が起きる。それでもホストが自分の微生物を養うという原則は非常に強く、非常食として単糖を放出する。

グリカンは非常に多様で、すべてのグリカンを食べるのに適したツールを持つ細菌の種はひとつもない。微生物たちは協定を結んで、互いに異なる食べ物を消化し、パートナーが使える廃棄化合物を作り出す。
何百もの種が競争していると、食糧を誰かが独占することが無いように、牽制し合うことができて、病原菌が入りにくい安定したコミュニティが形成される。
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著者は謝辞のところで「私が書きたいと思っていたことは、たんに人間と健康、食事に注目するのでなく、動物界全体に及ぶマイクロバイオームの物語だ」と言っている。同じような視点から書かれたものとして「ドードーの歌――美しい島々からの警鐘」(デェイヴィット・クオメン著、鈴木主税訳、河出書房新社)、「オはオオタカのオ」(ヘレン・マクドナルド著、山川純子訳、白水社)、「ミクロの森――1㎡の原生林が語る生命・進化・地球」(デヴィット・ジョージ・ハスケル著、三木直子訳、築地書館)、「まちがっている――エラーの心理学、誤りのパラドックス」(キャスリン・シュルツ著、松浦俊輔訳、青土社)を上げている。



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