記憶のスクラップ・アンド・ビルド

当然ながら、その間にタイムラグがあり、
それを無視できなくなることこそ残念です。

因果関係のモデル

2010年06月19日 15時31分14秒 | Weblog
親が有って、子が有る。
親子関係は因果関係として捉えられる最も身近な例である。
因果関係は連鎖を形成し、系譜を作る。
神経細胞の間の情報伝達の過程も因果関係の例である。
神経系における因果の連鎖はニューラルネットワークとしてモデル化され、システムとして研究されている。
敢えて言えば、恒星と惑星の間の作用・反作用という力学的関係も因果関係の例になる。

因果関係では原因が先に有って結果は後に続くと考えるのが一般的である。
しかし事象として後先の時間的順序を問えないし問わない場合も少なくない。
より一般のために原因と結果を変数と考え、因果関係を力学的に捉えることは当を得ている。
ピアソンは大勢の父と子のペアについて身長を測定し、その対応をグラフにして相関係数あるいは回帰係数の概念を得ている。
相関は因果より広い概念だとして評価する向きもあったが、その当否は別として、その統計的アプローチが今日の科学のひとつの基礎であることは否定しようもない。


ある記事に典型的な因果関係の例としてビリヤード・ボードにおける玉の運動が挙げられていた。
飛んで来た玉Aが静止している玉Bに衝突し、Aはその場に止まりBが動き出すとき、Aによる衝突が原因でBの始動が結果だ、と。
衝突と始動とは同時であって、時間の後先はない、とも。

事例を仔細に観察し分析したら、何が原因で何が結果かを判断するのは、そんなに易しくない。
原因は沢山あり、結果も複数あるのが普通であろう。
ビリヤードの例では衝突する以前のAの運動こそ原因であり、始動してからのBの運動が結果だとすべきかも知れない。
原因と結果とは接触一瞬の出来事ではなく、それぞれに時間的スパンを持った現象だと観るべきではなかろうか。


哲学者は事象が原因と結果の関係にあることが認められるための条件を定めようと試みたりしている。
ヒュームの「接近の要因」とか「類同の要因」とかはその例である。
事象の間にそうした特徴が認められれば、人はそこに因果関係が有ると知覚するということであって、「要因」はそれを追認しているに過ぎない。

哲学的規定の意義は歴史上のものであって、後に条件反射あるいは条件付けなどの生理学的あるいは心理学的学習理論の形成に寄与し、ゲシタルトの法則として知覚心理学などの中で変貌したこととしては評価できる。


一般に原因や結果は点あるいはノードで表現され、原因から結果へ有向線分あるいは双方向線分で結んだグラフによって因果関係が表現されたとする。
ノードはラベルを付けるために円あるいは矩形で描き、中に文字や記号が書き込まれる。

因果はそれぞれ何らかの特徴を持っており、それが計量化されることを考慮すれば、広がりのある図形として表現されるのは自然である。

また、因果関係も、単に有無ではなく、その連関の強さが相関係数などの統計量で現わされる。
ノード間の結合の強さは原因と結果とがそれぞれに持つ計量の間の関係として定式化されたりする。

一つのノードが多数のノードの原因となったり結果となったりするから、こうしたグラフィカルな表現では有向線分はしばしば互いに交差して描かれる。
実際には因果関係は情報や物質の流れであったり、作用・反作用の方向であったりするから、グラフの交差は描画の便宜でしかない。
平面のグラフとしてではなく、高次元のグラフと考えれば線分は交差していない。

有向線分は幾つかのノードを経て循環する回路feedback loopを作ることがあり得る。
しかし分析が難しくなるためにそのような回路はモデルとして認められない場合が多い。


ノードから出入りする線分が複数あっても、因果関係は基本的には2項関係とされる。
実際には1つが他の2つの関係を増強させたり抑制させたりする3項関係の場合も少なくない。

ノードの指すものが何かの概念である場合、同じラベルによって人が違ったものを意味している場合もあり得る。

こうして色々な事例を考慮すると、因果のシステムは点と線で結ぶトポロジー的表現よりも力学的な時空で表現した方がよい場合が少なくないように思われる。
ノードは次元数が0の点でなく、可変だが大きさを持った図形として理解し、ノード間を結ぶ線分も可変の太さと長さなどの計量的特徴を持っていると考えたい。
それは最近の宇宙の時空構造の理解に近い。


問題は、その計量あるいは計算がどのように可能か、である。
従来、多変量データの統計的解析法として、因子分析、多次元尺度、クラスター分析、構造方程式などが用いられてきた。
比較的新しい方法としては、遺伝子アルゴリズム、自己組織化、ニューラルネット、決定木、ベイジアンネットワークなどの名前が挙げられている。
これらは互いに重なりあったり、包含関係にあったりし、整理して使用し易くしなければならない。

実際のデータを分析するためのソフトウエアとしてSPSS社のAmos、SAS社のJMPなどが最近の定番になっている。
ユーザーはグラフィックスを利用した簡便なツールでモデルをディスプレイの画面に描いてデータと対応付ければ、後はコンピュータが自動的に分析結果を出力してくれる。
定番とは言え、頻繁に改訂されるのがユーザーにとって悩みの種である。
改訂は強ち営業のためばかりではない。
方法そのものの見直しが常に欠かせないからだと考えれば、ユーザーはむしろ自分だけの改訂が行えることが望ましい。

グラフィックスのツールが簡便であっても、ユーザーは問題ごとに多少なりと自分でモデルを作り、自分でプログラミングしなければならない部分がある。
ユーザーが利用するデータ解析のプログラミング言語も変遷が激しい。
因果関係のモデル構成とモデルに適したデータ解析法の開発が端境期にあるためかも知れない。

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