当時の勢いと、その人のほど⑰・・・水雲問答
雲 およそ国家のことは、まず時務というものと、それに処する人物の出来具合を考えて、
いたずらに高望みすることなく、具体性・実現性のあることを考えなければなりませ
ん。出来ない人間に大きなことや無理な注文をしても仕方のないことです。時務とは
事務と違って、その時代に処をして、どうしなければならないかという活きた問題で
す。単なるビジセネスではない。その時勢・時節にぴったりの大事なしごとを言いま
す。
水 まことに適切な、思いやりのあるお考えであります。人物相応の、柄相応のことは
考えなければなりません。
雲 田舎書生は何かというと、何派、何流、と門戸を争い、いわゆる派閥を作りますが、
考えてみますと、田舎者ばかりでなく王侯大人でも、政治を行うにあたっては派閥と
いうものがよくあるように思います。忍耐とか寛容とかを主にする人はきびしくする
ことを忘れ、また反対に厳しい人は寛と猛とがうまく調和して、初めてつり合いがと
れるものである。ところがどちらかにかたよると派閥に成ります。何事によらず型に
捉えられるのが俗人の実情い゛あって、そういうことでは大経営・大政治はできませ
ん。それゆえに、大任を引き受けようとする人は、一切のことをわが胸中に引き受け、
才のある者には才を、徳のある者には徳を、また勇気のある者にはその勇気をうまく
引き立てて、適材適所、その能力・特技を十分に発揮させるようにしなければならな
い。それでなければ自分独りの力では一方のことはできても、とうてい八方のことは
出来ません。世の中には一方のことのできる人、いわゆるエキスパ-トは沢山います
が、八方に当っては仕事のできる人材はまずおりません。
水 このご意見は国を治めるための深い意味を尽くされておりましてまことに結構です。
ちょうど音楽や味付けのようなもので、八音すなわち金・石・糸・竹・苞・土・革・
木がうまく調和してよい音楽が奏でられ、五味すなわち甘・辛・苦・酸・カンがうま
くあってよい味つけができるのであります。何事も・一律にかたづけるつまらなぬも
のはありません。
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