柳家小さんの噺、「長屋の花見」によると。
家賃も払えない様な貧乏店子を連れて、上野の山に大家が酒肴付きで花見に連れて行くという。
みんなは大喜びで付いて行くというので、大家が酒肴の説明をすると、
大家
「ラベルが違うが1升瓶の中身は皆同じで、”煮出した番茶”で水で割ったがいい色をしているだろう」
店子 「えぇ?! みんなどうする。おちゃけだそ ~だよ」
店子 「肴を聞いて本物なら・・」
大家 「肴が本物なら酒に回すよ」
店子 「ところで、卵焼きにかまぼこは?」
大家
「ご覧の通り、”たくあん”は黄色いところで卵焼き、
”大根のこうこ”は月形に切ってあるところからかまぼこ、だな」
店子 「しょうがないから行くか」。
大家 「月番は幹事になって働いてもらうよ」
店子 「幹事は胸に何か付ける物はないのですか」
大家 「サイダーの口金が有るがどうだ」
店子 「子供でも有るまいし」
大家 「出かけるから、そこの毛氈を持っておくれ」
店子 「毛氈って、もしかしてこの”むしろ”」
店子 「これじゃ~、ともらいだ」
大家 「さ~、出かけるぞ。私の音頭で景気良く『さ~、花見だ、花見だ!』」
店子 「夜逃げだ、夜逃げだ!」。
ワイワイ、ガヤガヤ言いながらすり鉢山に着いた。
大家 「枝振りの良い下に毛氈を広げて、陣を取ろう・・」
店子 「この枝はイイ。丈夫で5人ぐらいいっぺんに首をくくっても平気ですよ」
大家 「山の上の方が見晴らしがいいのに、何で山の下なのだ」
店子
「上で宴会をやっている連中が何かを落とすと、転がって来るので拾いやすい」
大家 「何で毛氈を細長くひくのだ」
店子 「みんなで頭を下げれば”乞食”が出来る」
大家 「今日はご馳走になったと思うと気が詰まるだろうから、無礼講でやれ」
店子 「・・・」
店子
「しょうがないから注いでくれ。ちょっとで良いから。おいおい、
そんなに押さえつけて注ぐやつがあるか、うっ! おぼえてろ」
店子 「次はおまえだ」
店子
「そっくりな色をしているのだがな~、お茶からアルコール成分が取れる訳はないよな。(まずくて)ブッ~」
店子
「大家さん、みんなで飲まなくてはいけないんですよね。予防注射みたいに。」
大家 「変な言い方はおやめ。ところで、おまえは飲んでいないな。」
店子 「はい、私は下戸ですから」
大家 「だったら、何かお摘み」
店子
「その白いかまぼこ。私はこれが好きで毎朝おつけの身にしています。千六本に刻んでいいですよ。また、胃の悪い時はかまぼこおろしにして・・。最近は練馬のかまぼこ畑も少なくなって、どちらかというと葉のほうが好きなんですよ」
店子 「俺もかまぼこ食うぞ!・・・うっ、(すっぱい)付けすぎだ」
店子 「(大声で)大家さん、卵焼き取ってください」
大家 「回りの者がこっちを向いたぞ」
店子 「う~ん、しっぽで無いところ」
大家 「ところで、誰も酔わないな。おまえ、酔いな」
店子 「恩返しのつもりで、(台詞調で)酔った」
店子 「それじゃだめだよ。『さ~酔った!』」
大家 「ずいぶん早いな」
店子 「酔うのも早いが、醒めるのも早い」
大家 「嬉しいな、おまえだけが酔ってくれた。吟味した灘の生一本だぞ」
店子 「宇治かと思った」
店子
「こぼしても惜しくはない。 ・・ん!大家さん近々長屋に良い事がありますよ」
大家 「どうして?」
店子 「酒柱が立っている !」。
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