五代目古今亭志ん生の噺、「火焔太鼓」(かえんだいこ)によると
「何だいじゃないでしょ。
お客さんは買う気で入ってきたのに、『この箪笥は6年もあるんですから』。
それじゃぁ、6年も売れ残っていると言うもんじゃないか。
アンタは商売が下手なんだから、
食べる物も内輪に食べているから、
だんだんお腹がへこんで、背中からお臍が出てきちゃうよ。
たまには儲けられるような物を仕入てきな」、
「そんなこと言ったって、買おうと思っても先に買われちゃうんだ。
今日はこれを買ってきた。太鼓」、
「それはイケナイね。太鼓は際物だ。風呂敷を解いて見せてごらん。
汚い太鼓だね、まるで煤の固まりみたいだよ」、
「古いんだよ」、
「古い物で儲けたことがあるかい。
こないだは清盛のしびんを買ってきて損しただろ。
それに岩見重太郎のワラジだ。
売らなくてはイケナイ物を売らずに、
売ってはイケナイ物を売っちゃうんだから。
向かいの旦那が遊びに来て奥の火鉢を見て『甚兵衛さん、
この火鉢は面白い火鉢だな』と言われたので売っちゃったら、
冬の寒い時はあたりに行くので
『甚兵衛さんと火鉢の両方買っちゃったみたいだ』と言ってたよ」。
小僧に太鼓のホコリをはたかせたが、気持ちよく音が出た。
そこを通りかかった殿様が、その音を聞きつけて家来に言いつけ、その太鼓を屋敷に持参するように申しつけた。
奥様は半信半疑で「『こんなむさいものを持参して』と屋敷で取り押さえられちゃうよ。
それがなければ、1分で仕入れたので、口銭だけで結構ですと売っちゃうんだよ」。
甚兵衛さん、太鼓を担いで屋敷にやってきた。
「道具屋か、通れ」。
太鼓を見せたら、
「かなり時代が付いているな」、
「そうなんです。時代を取ったら太鼓が無くなっちゃいます」、
「お上に見せる間、そこに控えておれ」、
「見せないで、アンタが買ってください」。
お叱りを受けたら太鼓を放り出し逃げる算段でいた。
「お上は大変気に入っておる。幾らで手放すな」、
「『手放すな』と言うことは幾らでしょう」、
「お上は気に入っておる、遠慮無しに手一杯に申してみよ。
お上の意に反するが、商売は損もすることがあるが、
儲けることがあったら儲けておけ」、
では、と言うので、両手を一杯に広げて見せた。
「十万両です」、
「それは高い」、
「値切ってください。私の方で、どんどん負けますから」、
「私の方から値を切り出す。あの太鼓三百金ではどうかな」、
「三百金ではどうかと言うと、どんな金ですか」、
「三百両ではどうか」、
「三百両って何なんです」、
「1両小判300枚でどうか。手放すか」、
「う~~れ~~」、
「泣くな。では受け取りを書け」、
「そんな物いりません」、
「こちらでいるんだ」、
「これでよろしいでしょうか。判は無いので貴方の判を押してください」、
「爪印で良いんですか」それではと言うので何ヶ所も押した。
「五十両ずつ渡すからよく見ておけ。これは50両だ」、
「へい」、
「100両だ。150両だ。なぜその方は泣くのだ。200両だ。250両だ。どうした」、
「水を一杯下さい」、
「300両。持って参れ」、
「私どもは、いったん売った物は引き取らないことになっていますが、
どうしてあの太鼓を300両でお買い求め下さるのですか」、
「その方解らないのか。
拙者にも解らないが、
あれは火焔太鼓と言って、
世に二つという名器である。
国宝に近いものであるという。
その方は何処で掘り出したな」、
「では、私は儲かったのですね」、
「そうだ、風呂敷を持って帰れ」、
「貴方の上げます」、
「いらん、持って帰れ。気をつけて帰れ。金子を落とすでないぞ」、
「落としません。
私を落としてもお金は落としません。
どうも有り難うございました」。
「門番さん有り難う」、
「商いは出来たか。どの位儲かったか」、
「大きなお世話だ」。
「今帰ってきた」、
「あんな太鼓持って行って、追いかけられたのだろう。ざまぁ見ろ。天井裏に隠れちゃいな」、
「何言ってんだ。あわわ・は・わわわ」、
「どうしたんだい」、
「あの太鼓300両で売れたんだ」、
奥様舞い上がって「持ってきた?」、
「持ってきたよ」、「早くお見せ」、
「気を落ち着けろ。
俺だってフラフラッとしたんだ。
これを見て、座りション便してバカになったら承知しないからな。
50両ずつ小判を見せるからな。
ほら、これが50両だ」、
「あらっ」、
「なんだよ。100両だ」、
「あら~ぁ~」、
「後ろの柱につかまれ。いいか。150両」、
「あ~あ~」、
「もう少しだ我慢しろ。200両だ」、
「お前さん水を一杯おくれ」、
「俺も水を飲んだが50両早い。250両」、
「お前は商売が上手だ」、
「何言ってるんだ。300両だ」、
「あ~、儲かったね。嬉しいね。これからは音の出る物に限るね」、
「そうだ。今度は半鐘を買ってきて叩くんだ」、
「半鐘はイケナイよ。おじゃんになるから」。
人気ブログランキングへ↑↑↑↑↑↑↑↑