「ワニガメ」か「カミツキガメ」か…判断分かれた“珍事” 「保護」が一転「殺処分」
捕獲したカメは「ワニガメ」か「カミツキガメ」か-。5月下旬、大阪府摂津市で発見されたカメをめぐって、法律で飼育に許可が必要な「特定動物」のワニガメとした府と、法律で飼育が禁じられた「特定外来生物」のカミツキガメとした環境省との判断が分かれる“珍事”があった。最終的にはカミツキガメと断定、殺処分されたが、種の判定をめぐるすったもんだの背景に何があったのか。
(中村雅和)
■府が判定したものの…
カメは5月25日、摂津市内の民家ガレージで発見された。市では捕獲後、大阪府北部農と緑の総合事務所に種の判定を依頼した。同事務所では市から送付されたカメの画像などをもとに、府の研究機関にも問い合わせた上で特定動物の「ワニガメ」と判断。市では「市内でワニガメを発見」と発表した。しかしその後、専門家や愛好家などから「ワニガメではなく、カミツキガメではないか」との指摘が多数、市に寄せられた。
これらの指摘を受け、特定外来生物を管轄する環境省近畿地方環境事務所(大阪市)でカメを調べたところ、ワニガメではなくカミツキガメだったことが判明したという。
■異なる生態
ワニガメとカミツキガメは米国原産で、同じカミツキガメ科に属するものの、生態が大きく異なる。
水深の深い場所や、汽水域などに棲(せい)息(そく)するワニガメは甲羅の縁が大きくとがり、盛り上がっているのが特徴。雑食性で人間の指を食いちぎるほどあごの力が強いが、攻撃性は低い。動物愛護管理法で指定された「特定動物」で、条件付きで飼育が認められている。
一方、カミツキガメは淡水域に棲息し、柔軟な長い首が特徴で、甲羅の隆起はあまり見られない。あごの力はそれほど強くはないが、攻撃性は非常に高いという。このため、生態系や人に危害を加える恐れがある危険な動物として、外来生物法で「特定外来生物」に指定。一部の例外を除いて飼育が禁止されており、駆除の対象となる。
このため、これらのカメが発見された場合は、特定動物のワニガメは「拾得物」として預かり、飼い主を捜す一方、カミツキガメは原則として特定外来生物を管轄する環境省の出先機関などに送られ、殺処分されるという。
■すったもんだの末に
ワニガメやカミツキガメに詳しい「NPO法人ワニガメ生態研究所」(岡山市)の荻野要所長によると、ワニガメの口内には、餌を引き寄せる「ミミズ」のような形状の部分があるが、摂津市で見つかったカメの写真では見あたらなかった。またワニガメには甲羅の縁に突起があるが、これもなかったという。荻野所長は「専門家にとっては人間とゴリラを見分ける程度の簡単な話。なぜ『ワニガメ』という判断をしたのか分からない」と疑問を示す。
■求められる正確な判断
当初、ワニガメと判定した府北部農と緑の総合事務所の担当者は「現物を確認したわけではなく、あくまで画像と市職員からの聞き取りに頼るしかなかったため、間違いが起きたのかもしれない」と釈明。「事務所にはカメの種別を判別できる専門家は常駐していなかったが、いずれにせよ危険なカメである可能性が高く、早く情報を公開し、注意を呼びかける必要があった」と話すが、摂津市の担当者は「府がカミツキガメは管轄していないめ、現物を見たところで分からなかったんじゃないか」と疑いの目を向ける。
今回、カメの種の判断が府と国で分かれたことについて、荻野所長は「同様の“誤認”は全国でも多く発生している可能性がある」と指摘した上で、「厳格な法規制を行っている以上、自治体にはしっかりと正しく見分ける能力を持ってもらいたい」と苦言を呈した。
また、環境省の担当者も「写真や口頭での説明だけに頼った種の判定には限界がある」としつつ、「個体の現物を確認することなど今後の教訓となったのではないか」と前を向いた。
愛玩動物から“生態系を乱す外来動物”として忌むべき存在となってしまった外来種のカメ。せめて正確な種の判断を下すことが求められているのではないだろうか。
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