古今亭志ん生の噺、「駒長」(こまちょう。お駒長兵衛)によると。
夫婦は縁がなければ一緒になれない。その夫婦だが、良いのもいればタチの悪いのもいる。
貧乏していて、借金取りが来ても払えないから、払えないのはしょうがないと、ノホホンとしている亭主・長兵衛。女房はヤキモキしているが亭主は他人事のようにうわの空。深川から来る丈八さんには断り切れない。
それは損料ものを借りておいて、その足で質屋に持っていったのでは、弁解のしようがないから、もういやだと亭主に通告。
亭主は亭主で、丈八が来たら、損料ものを奪って、懐の銭を取って、損料を踏み倒して逃げてしまおう、と言う。
お前に丈八はぞっこんだから、恋焦がれている丈八様と恋文を書いて、それを落とす。
それを拾った事にして、丈八が来たら脅して、仲に入った親分の所に行って来ると家を飛び出す。
お前は、貴方が好きだったから恋文書いたが、拾われスイマセン、とか何とか言ってるところに戻ってきて、台所から出刃包丁を取りだし、畳に突き刺し「どうするんだぁ~」と脅しておいて、金を取って逃げちゃう。
どうだ。
練習して丈八が来るのを待った。
そこに丈八が現れて、ポカリと一発殴った。
「何を殴るのです」、
「お前は俺の女房を取った間男だ!この決着をどうしてくれる」、
「証拠でも・・・」、
「この手紙だ。だから仲に入った親分の所に行って来る。帰ってきたら四つに切ってやるからそのつもりでいろ」、
と啖呵を切って飛び出した。
ビックリした丈八に女房お駒は
「ごめんなさい。貴方への手紙を亭主に拾われこの騒動になったの」、
「殴られるのはイイが、亭主は悪い。お駒さんにぞうきん屋の看板みたいなものを着せて。わてだったら、お駒さんが女房なら大事にするのに」、
「ホントに出来るものならそうしたいが・・・」、
「それなら上方に逃げて一緒になろう」と、形勢がおかしくなってきた。
ここに損料ものの着物があるからと、柔らかものの襦袢からお召しまで着替え帯を締めて羽織を着ると見違えるほどの美女に。
行くのもイイが夫婦だったからと書き置きを書いて火鉢の隅に置いて、二人は逃げて行った。
そのことは知らない長兵衛は仲間の家で金が入る事があるからと、飲み始めた。
空が白々と明けてきたので、長兵衛を起こすと、寝過ぎたのを悔やんだが出刃包丁を借りてすっ飛んで帰ってきた。
裏から入って、啖呵を切ったが誰もいない。
どうした事かと部屋を物色すると、置き手紙を発見。
『長兵衛様まいる 一筆書き残し候 あなた様と兼ねての御約束は嘘から出た真事と相成り 丈八様を真に愛しい方と思い候 それに引き替えお前の悪性 お前と一緒にそうならば明ければ米の一升買い、暮れれば油の一合買い つぎはぎだらけの着物着て朝から晩まで窯の前 つくづく嫌になりました ああ嫌な長兵衛ずら・・・ 丈八様と夫婦になって・・・』。
こんチキショウ目と出刃包丁を振り上げ表に出ると、前の屋根に止まっているカラスが長兵衛の顔を見て、
「アホウ、アホー」。