南海電気鉄道が、訪日外国人の取り込みを加速させる。本拠地の大阪・難波で平成30年9月に完成を目指す高層複合ビル「新南海会館ビル(仮称)」にはオフィスなどに加え、訪日客が医療ツーリズムや日本文化体験に利用できる施設を目玉にする予定。関西国際空港から直通のアクセスの良さを生かし、コテコテの大阪らしさ漂う「ミナミ」の魅力発信の拠点にする考えだ。(橋本亮)
活性化へ“刺激”を
「街は絶えず動いていないと活性化はできない。新しい材料を提供し、刺激を与えて魅力を高めたい」
南海電鉄の山中諄(まこと)会長は難波を中心とするミナミの活性化に並々ならぬ意欲を燃やしている。念頭にあるのは、JR大阪駅北側の複合ビル群「グランフロント大阪」(大阪市北区)や日本一の超高層ビル「あべのハルカス」(同市阿倍野区)の開業による集客効果。そして、新しい材料とは、新南海会館ビルだ。南海会館にあった本社を近くに移転、全面的に建て替えて南海難波駅直結の地上30階、地下2階の高層複合ビルにする計画で、事業費は約400億円にのぼる。
南海は、南海難波駅と関西空港駅を結ぶ空港線を運行。南海難波駅はミナミを代表するターミナル駅であるだけでななく、関空から入国した訪日客の多くがまず立ち寄るという「大阪の玄関口」の役割を担う。
関空では円安などを追い風に、格安航空会社(LCC)の新規就航や増便が相次ぐ。26年度には関空から入国した訪日客は過去最高を更新、南海の空港線の利用者も高い伸びを続けている。
アジアの新興国の経済成長で今後も訪日客の増加が見込まれるなか、新南海会館ビルが持つ潜在能力は、グランフロント大阪やハルカスと並ぶ集客力が期待されている。
おもてなし戦略で
そして新南海会館ビルに訪日客向けの施設を置き、ミナミの集客力を高める仕掛けとして活用する。訪日客が最先端設備で人間ドックなどを受けられる医療施設は、注目が高まる医療ツーリズムに対応。先進医療への中継機能と健康診断機能を組み合わせたメディカルセンターにする。茶道といった日本の伝統文化を実際に体験できる施設も入居する予定で、訪日客の関心を集める戦略を描く。
もともと、難波を中心としたミナミエリアは日本人の観光客にも、訪日客にも人気が高い。多くの飲食店が集まり、「くいだおれのまち」である大阪を堪能できる心斎橋周辺は訪日客でにぎわう。南海難波駅付近は大阪らしい気軽に立ち寄れる個性的な飲食店が立ち並ぶ「ウラなんば」として若者が集う。
「ミナミこそ大阪文化が根強い街」。山中会長は新南海会館ビルという刺激を通じたミナミの集客力の向上に自信をのぞかせる。
大阪活性化に南海も奮起
山中会長は、大阪府と市が誘致を目指していたカジノを含む統合型リゾート(IR)事業への参画について「関空へのアクセスを担う鉄道会社として決して傍観者ではいられない。積極的に事業参画したい」と意欲的だった。グループのバス会社を通じた路線整備や施設運営などを視野に入れていた。
「大阪の一段の地盤沈下はIRで食い止めるしかない」(山中会長)との危機感もあったためだ。2020(平成32)年の東京五輪を経て、東京への一極集中がさらに強まることが予想される。
カジノを中心に国際会議場やホテル、家族連れも楽しめるレジャー施設などをそろえたIRを大阪に誘致できれば、国内外から大阪や関西を訪れる観光客が増え、ミナミにとどまらず、大阪や関西の活性化につながるとみていた。
ところが大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長が「経済活性化の起爆剤」と位置付けてきた大阪へのIRの誘致に向けた調査費は市議会で大幅に減額修正されたうえ、府は取り下げを決定した。IRの誘致は暗礁に乗り上げた格好だ。
ただ、IR誘致が厳しい情勢になったからこそ、訪日客誘致を起爆剤とした大阪や関西の活性化に対する南海電鉄の奮起が欠かせない。