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日鉄、「大地の子」の半世紀に幕 中国縮小し米印シフト

2024-07-23 22:09:26 | エレクトロニクス・自動車・通信・半導体・電子部品・素材産業


日鉄の君津市の製鉄所を訪問した鄧小平氏

 

 

日本製鉄が半世紀に及ぶ中国・宝山鋼鉄との協力関係に区切りをつける。戦後、日鉄は日中経済協力の一環で宝山に高炉技術を供与し、山崎豊子氏の小説「大地の子」のモデルになった。

2004年の合弁設立でともに実利を得ながら、21年から特許侵害訴訟で争う悲喜こもごもの間柄でもある。米中分断や自動車産業の構造転換を背景に、合弁を解消し中国事業に大なたを振るう。

 

 

鄧小平氏の発言が源流

「これと同じ製鉄所が欲しい」。1978年、後に中国最高指導者となる鄧小平副総理が千葉県君津市の製鉄所を視察し、こう述べたのが日鉄の中国事業の源流にある。

77年から中国政府の要請を受けて製鉄所建設のプロジェクトに参画し、君津をモデルに建設したのが中国初の近代製鉄所となる上海市の宝山製鉄所だ。

 


工事は一筋縄ではなかった。支払い条件変更や契約キャンセルなどのトラブルで両社は何度も折衝した。技術指導などで日本側はのべ1万人が訪中した。製鉄所の生みの苦しみは小説「大地の子」でも描かれた。

 

ようやく高炉の火入れを迎えたのは85年。粗鋼生産能力がわずか年約2500万トンだった中国で300万トンの生産能力を担い経済成長を支えた。のちの拡張工事にも日鉄が関わった。

 

 

00年代に中国が自動車の巨大市場に急成長したのを受け、日鉄と宝山鋼鉄は合弁会社の設立を決め、ルクセンブルクのアルセロール(現アルセロール・ミタル)を加えた3社で宝鋼日鉄自動車鋼板(BNA)を04年に設立した。

日系自動車メーカーも相次ぎ中国市場に参入するなかで自動車のボディーに使う薄板鋼材の加工を担った。

 

BNAは工場稼働から2年で累積損失を一掃し、さらに亜鉛めっき鋼板製造のため250億円の追加投資を決めた。

11年に日鉄はミタルの保有株式を取得し、出資比率を50%に引き上げ関与を深めた。13年にもBNAに追加の設備投資を決めた。

 

 

電磁鋼板巡る訴訟で蜜月が一変

蜜月関係が転機を迎えた一因が特許権侵害を巡る21年の訴訟だ。

電気自動車(EV)などのモーターに使う鉄鋼製品「無方向性電磁鋼板」で特許権を侵害されたとして、日鉄は宝山鋼鉄を提訴した。

 

提訴は一時、鋼板の流通に関わったトヨタ自動車と三井物産にも及んだ。

電磁鋼板は成長市場の電動車に供給する日鉄の先端技術だったためだ。顧客をも訴えた日鉄の姿勢は関係者に驚きを与えた。

 

特許侵害の背景には中国勢の成長がある。日鉄幹部は「BNA設立時の宝山は技術を盗むノウハウすらなかった」と振り返る。

それが今では自国の広大な市場で競い合った中国の鉄鋼メーカーは粗鋼生産能力で世界の上位10社のうち6社を占める。

 

規模拡大とともに最新設備の導入で技術力を上げた。中国勢もBNAのように自動車鋼板を手掛けるようになった。

もう一つの転機は中国自動車産業の構造変化だ。今や中国はEVなど新エネルギー車で世界を先導する。

 

24年5月には新車販売台数に占める新エネ車は39.5%まで伸びた。その半面でBNAの重要顧客の日系自動車メーカーはシェアを落としている。

自動車市場の変化だけでなく、中国の鋼材市況も低迷している。不動産不況の長期化で世界の半分の粗鋼生産能力を持つ中国の鉄鋼大手の汎用品鋼材は行き場を失っている。

 

顧客向けに個別仕様で作る車向け鋼材は汎用品とは異なる価格で取引されるものの中国勢の低価格攻勢は広くアジアの鉄鋼業に影響を与えている。

 

 

「中国事業自体がリスク」

日鉄は中国から全面撤退するわけではない。宝山鋼鉄と同じ親会社傘下の武漢鋼鉄とも食品缶などに使うブリキ製造の合弁事業を展開している。

ただ日鉄社内からは「中国での事業自体がリスクだ」との声も漏れる。

 

日鉄は人口減が続く日本国内では守りの構造改革を進めつつ、伸びる海外市場を攻めるが注力するのは米国とインドだ。

「1億トン、1兆円」。日鉄は世界で存在感を持つために高い目標を掲げる。

 

それぞれ粗鋼生産能力と事業利益で現状は約6600万トン、約9000億円にとどまる。

特に新日本製鉄時代には粗鋼生産能力で世界首位の時もあったものの、現在は中国宝武鋼鉄集団とミタル、中国鞍山鋼鉄集団の後の4位に後退している。

 

 

USスチール買収成立で世界3位に

「新たな時代のグローバルネットワークを完成させ、日本の成長力も取り戻す」。橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)は米鉄鋼大手USスチールの買収の狙いをこう話す。

約2兆円の巨額投資に踏み切る理由は、日本とは対極の魅力的な市場にある。

 

米国は先進国の中でも人口増が続き、自動車向け高級鋼のハイテン(高張力鋼板)や電磁鋼板の需要が強い。

そのうえ米政府は鉄鋼業界に関して伝統的に保護主義で、安価な海外鋼材の輸入が少なく、鋼材の値崩れが起きにくい。

 

USスチールは高炉と電炉をあわせて約2000万トン規模の粗鋼生産能力をもち、買収が成立すれば世界3位に躍り出る。

日鉄はUSスチール買収の声明で、「米国産業の強靱(きょうじん)化を果たし、中国の脅威に対抗し重要な日本との関係を強化する」と表明した。

 

地政学的なリスクを共有する米国と、一層関係を深める考えで、対米外国投資委員会(CFIUS)と司法当局の審査を待つ。

インドでも投資を進める。中国が低迷するなか、経済成長著しいインドは年率8%で鉄鋼需要が増える。同国西部では日鉄とミタルとの合弁企業が高炉2基の新設を進めている。

 

25年以降の稼働を見据えており一連の投資額は1兆円を上回る規模になる。

日鉄とミタルの合弁企業はインド東部でも別の製鉄所の新設を計画している。

 

世界最大の鉄鋼市場である中国の事業をあえて縮小し、米国とインドに軸足を移す日鉄。その決断は米中デカップリング(分断)のはざまで揺れる日本企業の一つの解になる。

(大平祐嗣)

 

 

 

 

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