イオンが13日、最後の空白地である福井県でショッピングセンター(SC)を開業し全国出店を達成した。
自力出店に加え積極的なM&A(合併・買収)が制覇の原動力だが、福井は実は21年ぶりの再出店だ。
地元との対立が尾を引いた因縁の地でもある。
出店余地は限られる中で競合が増え、今後の成長には王者ゆえの課題も見える。
13日早朝、福井市の新型SC「そよら福井開発」には開店前から地元住民ら760人が正面入り口に詰めかけた。
親子で訪れた福井市の会社員女性(41)は「福井だけイオンがないのはさみしいと思っていた。自宅の目の前にできてうれしい」と話した。
イオンの総合スーパー(GMS)運営子会社、イオンリテールの浜口好博専務執行役員は開店にあたって「ようやく福井へ新店を開業できた。
大型ではないが当社最新のSCを福井の人に『いいな』と感じてもらいたい」と語った。
現地で開業時の取材に応じるイオン傘下のイオンリテールの浜口好博専務執行役員(13日、福井市)
そよらはJR福井駅から約2キロメートル離れた場所にある地元運送会社の本社跡地に開業した。地上2階建てでGMS「イオンスタイル福井開発」が中心店舗として入る。
売り場面積は約5200平方メートルと、隣県石川のイオン最新SCに比べて14分の1の広さ。専門店テナントも11店舗と少なめ。大型SCの「イオンモール」とは異なり、駅に近い都市型で小さい商圏を対象とした戦略店だ。
広めの通路が混雑するほど多くの客が押し寄せた(13日、福井市のそよら福井開発)
福井はイオンにとって因縁の地だった。イオン前身のジャスコと地元の商業組合が1977年から福井市でSCを運営していたが、競争激化で2003年に閉店へ追い込まれた。
跡地利用を巡って両者が対立し、07年には訴訟にまで発展。2年後に和解したが、しこりが残った福井でイオン出店は困難になった。
その後、21年にグループの食品スーパー「マックスバリュ」が福井市で初出店した。
23年にはイオンの首都圏近郊のGMSで福井物産展を開くなどのイベントを開き、地元との融和ムードを盛り上げながら、本丸であるイオンのSC開業にこぎ着けたわけだ。
全国出店達成後のイオンの成長戦略には難題が待ち受ける。
人口減はイオンが主力とする地方で顕著となり、出店余地は一段と限られる。北陸だけを見てもイオングループのSCはすでに複数ある。ユニーの「アピタ」や平和堂、米コストコホールセール、全国制覇でイオンを追いかける「ドン・キホーテ」などライバルは多い。
建設業界の人手不足や資材高騰のあおりも受ける。大型SCのイオンモールは24年度に国内の新規開業を26年ぶりにゼロとする計画だ。
イオンのGMSの収益力も現状ではなお気がかりだ。改革中で一定の成果も出ているが、売上高が10年平均で3兆円なのに対し営業利益は78億円。利益率で0.3%と低い。24年3〜5月期は34億円の赤字(前年同期は11億円の黒字)と3年ぶりに赤字となった。収益の安定化が依然大きな課題だ。
企業戦略に詳しい米コンサルティング大手アリックスパートナーズの木村哲哉氏は「大型SC市場は飽和しつつある」と指摘。
一方で「高齢化でヘルスケアや医療の需要は高い。小型SCで生活密着型のサービスを付加し来店回数を増やすべきだ」とイオンなどの小売業が目指す方向性を示した。
イオンの歴史を振り返るとSC開発と切っても切り離せない。
1969年に源流の岡田屋とフタギとシロが合併しジャスコが設立された。翌70年に開業したダイヤモンドシティ(現イオンモール)の「東住吉ショッピングセンター」(大阪市)がイオンSCの1号店だ。
イオンのSC1号店は大阪市にあったダイヤモンドシティの東住吉ショッピングセンターだ(開業時の様子)
地方スーパーやドラッグストアなどM&Aを繰り返し、今や連結子会社約300社を抱える。
GMSやドラッグストアなど国内店舗数は約1万6000店と、スーパーやドラッグ店では最大手となった。プライベートブランド(PB)の「トップバリュ」はこれらのグループ各社が扱う。
「どこに行ってもイオン」――。消費者からは一部でこうした声も漏れる。全国に広がるゆえの「同質化」というジレンマを抱える。店づくりやテナント、商品戦略は今後より高度化しなければ、新鮮さを求める消費者に飽きられかねない。
イオンの出店を巡っては全国各地で商店街の地盤沈下などを懸念する地元関係者らによる反対運動が起こった過去もある。実際に顧客がSCに流れ商店の運営が厳しくなった地域もあった。
ジャスコ誕生から50年以上が経過し、国内では少子高齢化が進展した。福井出店が象徴するように今や見方は変わり、地域活性化や雇用の創出役として行政や企業など地元経済からのイオンへの期待は大きい。
SC開発は対話の歴史でもあった。成長のためには地域との関係をより深める対話力が一段と重要になる。
(津兼大輝、浅山亮)
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日経記事2024.07.13より引用