記者会見する石破首相(1日、首相官邸)
石破茂内閣が1日夜に発足した。
経済政策は岸田文雄前政権の基本方針を踏襲し、物価上昇を上回る賃上げの定着や個人消費の回復をめざす。
10月27日投開票の衆院選をにらんだ物価高対策や成長戦略策定の中核を担う閣僚は安定重視の布陣となった。
「岸田政権で進めてきた成長戦略を着実に引き継いでいく」「資産運用立国の政策を発展させる」――。首相は1日の記者会見で、前政権の経済政策を継承する考えを表明した。
岸田氏がやり残した課題の一つは賃上げだ。円安やエネルギー相場の高騰で物価は上がったが、賃金の上昇が追いついていなかった。物価変動の影響を除いた実質賃金は6月におよそ2年ぶりのプラスに転じたばかりで、これが持続するか見極める局面を迎えている。
首相は「賃金が上がり消費が増え、人手不足対策を含む設備投資の拡大により更なる賃金上昇につながる好循環をつくる」と訴えた。
国内総生産(GDP)の半分を占める個人消費の回復を重視するとも唱えた。4〜6月期の個人消費の実額は297兆円(実質の年率換算)で、新型コロナウイルス流行前の19年平均の300兆円に届いていない。
消費を後押しするため食料品やエネルギー価格の上昇に対応する経済対策を打つ。
物価高の影響を受けやすい低所得者に給付金を支給すると表明した。国民の将来不安を緩和するために医療、年金、社会保障の見直しに着手するとも語った。
首相は「経済あっての財政との考えに立つ」と明言したが、これまで財政規律を重んじる発言もしてきた。
防衛力強化や少子化対策、グリーントランスフォーメーション(GX)といった重要政策に必要な財源確保に向き合う必要もある。
市場では経済対策に関し、ガソリン補助のようなバラマキ批判が強い政策を修正するかに関心が集まっている。
衆院選を控え、党内の歳出圧力は高まりやすい。党内基盤が弱い状況で、どう対応するかは新政権の経済政策を占う試金石との見方がある。
持続的な消費回復や賃上げの実現には成長戦略が欠かせない。
みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介氏は潜在成長率が0.6%と主要7カ国(G7)で最低水準であることを踏まえ「国が成長する姿を見せ、持続的な賃上げにつなげなければ個人消費は上向かない」と話す。
首相は「従来のコストカット型経済から高付加価値創出型経済へ転換し、投資大国日本を実現していく」と打ち出した。
自動車や半導体、農業などを挙げて「輸出企業が外から稼ぎ、生産性を向上させるための投資を促進していく」と訴えた。
地方創生が「日本経済の起爆剤」だとも掲げた。
最低賃金を現行目標の30年代半ばから20年代に前倒しして平均1500円へ引き上げる方針も提示した。総裁選での政策集には成長分野への労働移転を促すためのリスキリング(学び直し)も入っている。
エネルギー政策を巡っては政府が24年度中に中長期戦略となる次期エネルギー基本計画を策定する。
前政権は生成AI(人工知能)やデータセンターでの電力需要の増加をにらみ、安全性が確認できた原発を最大限活用する方針を示した。
首相は総裁選中、原発を「ゼロに近づけていく努力を最大限する」と唱えつつ、「必要な原発の稼働は進めていかねばならない」との考えも示した。産業・エネルギー政策を担う経済産業相には武藤容治氏が就いた。
自民党の経産部会長や総合エネルギー戦略調査会の事務局長、経産副大臣といったポストを経験してきた。経産省内には「前政権のエネルギー政策に理解がある」との評価がある。
首相は総裁選初期に唱えた金融所得課税の強化に関しては、すでに「個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)や新NISA(少額投資非課税制度)の税を強化することは毛頭考えていない」などと軌道修正済みだ。
1日の記者会見でも「貯蓄から投資への流れがさらに確実になるよう努力していく」と言明した。
日経平均株価は9月30日に1910円(4.8%)安の3万7919円と、党総裁選後の初日の取引としては1990年以降、最大の下落率となった。
市場では金融緩和的な政策と「アベノミクス」の継承を掲げる高市早苗氏の勝利を織り込んでいた株価が反動で下がったとの見方が多い。
野村総合研究所の木内登英氏は「混乱は一時的なもので早晩落ち着きを取り戻す」と予測する。翌1日は732円(1.9%)高の3万8651円と反発した。
経済政策を担う布陣をみると、マクロ経済政策の司令塔である経済財政・再生相に政策通の側近、赤沢亮正氏を充てた。
財務相には旧大蔵省(現財務省)OBで、官房長官や厚生労働相などを歴任した加藤勝信氏が就いた。首相は1日、加藤氏に「メリハリのある財政運営」を指示した。
内閣の要となる官房長官は林芳正氏が留任し、労働政策を担当する厚労相には党の厚労部会長などを務めた福岡資麿氏が就任した。
財務省幹部は「経済・財政に関わる分野は経験豊富な閣僚が目立つ」と話し、現実的な政策を進めるだろうとみる。
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株式市場や為替市場の値動きをみるかぎり、新政権は「金融市場にやさしい」経済・財政運営に「転換した」との受け止めかもしれません。
しかし、衆院選の時期に関してもそうでしたが、政治理念や政策方針がブレると、国内の官僚や他国の政策担当者にとっては「与しやすい相手」とみなされ、いつのまにか手玉に取られる、といったことにはならないのでしょうか。
こうした点は、新政権にとっての踏ん張りどころであり、われわれにとっての注視すべき点であると感じます。
何はともあれ、これまで多くの人たちが地道に議論を積み上げできた果実である「資産運用立国」の推進を継承されるということでひと安心です。
勤労所得と資産所得それぞれを増やすことによって家計の不確実性を減らす重要性は 、石破さんの考え方とも極めて整合的だと思います。
にもかかわらず 、(1億円の壁に関わる担税率への問題意識もわからなくもないですが)中途半端な形で金融所得課税を言及されたことで、マーケットのイベントトレードのおもちゃにされた感があります。
自民党の石破茂総裁が10月1日、衆参両院の本会議での首相指名選挙で第102代首相に選出されました。石破新政権に関する最新のニュースをまとめています。
日経記事2024.10.02より引用