リンムーの眼 rinmu's eye

リンムーの眼、私の視点。

カベ新聞的野球クロニクル

2007-08-16 | book
石川哲也著『歴史ポケットスポーツ新聞 野球』(大空ポケット新書)読む。
雑学本は数多あるが、本書は一年ごとの印象に残る野球トピックを、見開き2ページの新聞形式で構成したユニークな一冊。
見出しや四コマ漫画、広告欄なども再現している。
私が最初に連想したのは、カベ新聞である。

1872~99年(明治5~32年)から記述は始まっており、野球が日本の“近代化“の歩みとともに発展してきたことを感じさせる。
「さらば永遠のエース 沢村栄治戦死」
「デビュー戦でプロの洗礼 長島4連続三振」
「日本中が祝福!!「世界の王」だ 王世界新756号」
など、野球の歴史としては知っていても、リアルタイムで体験していない記事は、イマイチ楽しめない。
自分の記憶とつながる1985年の「日本列島にトラフィーバー!! 阪神日本一に」くらいになってくると、記事に引き込まれる。
そのころの記憶が、いろいろとよみがえってくる。
野球を通時的に覚えているわけではないので、自分の中での生活の記憶とその年の出来事にズレがあったりする。そういう記憶のズレを修正するために、さらに記憶が引き出されてくることになる。
・・・だいたいこのことから町内のソフトボール始めたよな~横浜スタジアムに同級生と試合観に行ったなあ~このころは野球ニュースっていうと「ズームイン朝」を見てたんだった・・・
思い出を数珠つなぎに喚起する装置として本書は機能する。
無味乾燥にも思えるプレーンな記事が、オモイデ色に染め上げられる。
本書の楽しみ方は、多分、ここにあるだろう。

私の場合、こういう楽しみ方ができるのは、85年~95年くらいの十年間だった。
高校生のころまでは、日本シリーズと中間テストの時期がかぶってたりして、昼に帰ってきてから生中継を見ていた気がする。
大学に入ってから、野球をあまり見なくなった。
ニュース・トピックとして聞いていたり、年に一試合は球場に観に行ってたはずだが、野球と生活の記憶が重ならない。
地元の球団・横浜ベイスターズが優勝した98年も、私は自分とは関係ねえやと思って冷ややかなものだった。

ここ数年は、生の野球観戦に魅力を感じている。
ペナントレースの行方や選手名などは全くといっていいほど頭に入っていないが、球場の開放感を味わいに足を運んでいる。
130分の1の、テレビニュースでも数十秒で要約されてしまうような、なんでもない試合を、ビールを飲みながら眺めているのが楽しい。

石川氏とは旧知の仲である。共に野球観戦にもしばしば行く。
中学生のころから、オリンピックなどの話題からスポーツ文化論に展開していく会話は刺激的だった。
これからもその野球観、スポーツ観を深めていってほしいと思う。

本書は、読み手の年代や贔屓チームの違いなどによって、楽しみ方が異なるだろう。
モノクロのカベ新聞を、あなたの野球から導かれるメモリーで、カラーに色付けしてみてはいかがだろうか。