「もうひとつの美術館」をご存知でしょうか? 明治大正期の面影を残す日本で4番目に古い小学校校舎を再利用した美術館です。2001年に開館し、主にハンディキャップを持つ人達の作品を展示しています。
私が訪ねた時は、「みちのくの恵み」と題して、東北の作家たちの力作が並んでいました。展示室に一歩足を踏み入れて驚いたのは、色使いの鮮やかさです。大きな作品も小さな作品もハッとするほど輝いています。絵画ばかりではありません。圧巻だったのは、幅3.6メートル、高さ5.4メートルの不織布数枚に墨で書かれた詩。この作品は先の震災を詠った白石かずこさんの「海・陸・影」という詩を、沢村澄子さんがこの大きな不織布いっぱいに書き写したもので、詩の内容とダブって何とも言えない雰囲気です。重たい内容の詩が、半透明な不織布いっぱいに広がって、天井からふわりと下りてきます。
この小学校は、つい10年ほど前までは現役の学校でした。校庭には、今ではもう見かけなくなったあの二宮金次郎の銅像も立っていて、蝉しぐれを聞きながら、薪を背負ったまま本を読んでいます。
当時、放送室だったというところはカフェの一角に作りかえられ、夏の日差しをいっぱいに浴びています。広い教室は、机や椅子が並べ替えられ、素敵な小物たちのミュージアムショップに変身です。
なんだか懐かしいような木の香りを漂わせて、この美術館は栃木県那須郡那珂川町の里山に静かに立っています。
「もうひとつの美術館」の館長は高校時代の友人です。出産時のトラブルで二男が自閉症だとわかり、様々な苦難と向き合う中で、東京からこの地に移住し美術館を立ち上げました。二ヶ月ほど前に開かれた同窓会でこのことを知り、是非一度行ってみたいと思っていました。宇都宮から車で1時間ほどの立地はアクセスが良いとはいえませんが、近くには馬頭温泉郷もあり、ゆっくり訪れて山里歩きなどをするには良い所です。皆さんも、那須岳、那須高原、あるいは、奥日光、白根山などを訪れた折に是非立ち寄ってみてください。とても元気のいい館長が喜んで迎えてくれると思います。
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