数十年前、土曜日の昼間だったか、山田邦子がMCを勤める番組でダイエット企画をやっていて、毎週MCがダイエットに励んだ成果を発表するのだがなかなか体重が落ちない。ところが、ある週がたっと落ちた。風邪をひいたのだという。それまでの苦労は何だったのかって話だった。
反対に、それまでの苦労が元の木阿弥になったって話が私の血圧。いっとき言えないほど高くて、そこで、血圧を下げるためによいということをなんでもやった。歩くのがいいというから23区の崖の上と下を歩き回った。塩分がそのままでもカリウムをたくさんとると減塩効果が見込まれるというので、カリウムをたくさん含む鶏の胸肉をパサパサなのを我慢して摂り続けた。毎朝のラーメンにスープを入れるのを止めて、代わりに血圧を下げる効果があるというお酢を入れた。W効果。しかも、味は十分だった。こうしたちまちました努力が実を結び、血圧は、健康診断で異常なしと言われるまでに下がった。
そうやって喜んだのも束の間、ストレスのかかる出来事があった。計る前から予感はしたが血圧を計ってみた。血圧計は、いったん数字が上がった後に下がっていって最後に結果が出るのだが、なかなか下りにターンしない。案の定、結果は高かった頃の数値に逆戻り。ちりがつもってできた山が崩れるのは一瞬だった。
と共に、私の高血圧の原因がストレスであることがこれで判明した。漱石は、「草枕」に「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」と書いたが、住みにくいだけではなく「血圧が上がりやすい」も加えてほしい。漱石は「住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる」と続けるが、これは「血圧が高じると、安くなる所へ引き越したくなる」に変えてほしい。漱石はさらに「どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る」と書いているが、それは漱石のような芸術家の話で、凡人は、どこへ越しても住みにくいと思ったらやけ酒を飲んでくだをまくだけである。そして、いっそう血圧が上がるのである。因みに、私が「草枕」の冒頭の一節を知っているのは文学の素養があるからではない。子供の頃、なんかのCMで使われていたからである。
なお、血圧に何がいいという情報の多くは「トリセツショー」で得た情報である。この番組、見かけは変えてるけど、使うアナログチックな模型は以前の「試してガッテン」(後に「ガッテン」)で見たようなものばかりである。