さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

阪森郁代歌集『歳月の気化』

2016年12月11日 | 現代短歌 文学 文化
 帯に「社会の大きな出来事も、身辺の小さな出来事も、まるで気化していくように忘れられていく時代。それだけに、歌に託しておきたいという思いは以前にもまして強くなった。」とある。

 たしかにそうだ。事件も人も、あっという間に忘れ去られる。一人一人の人生の時間も、そういう大きなうねりに押し流されているのにちがいない。タイトルから少し挑発的な印象を抱いたのだが、作品そのものは穏やかなものが多い。

けふの日をそよぐことなきアガパンサスすうつと力を抜いてもいいのに
隠るるも隠さるるにもよきところ山紫陽花のうす暗がりは

ことごとしく何かを言い立てるのでもない。日常の機微を言い表すために、言葉の意味の影の部分を働かせるのだ。

影もたぬままに白々いつまでも露地につめたく何を為す花
どの向きに並び立つとも姥目樫たやすく風の流れに乗らぬ

こういう歌がいいと思えるのは、私自身の心境と交差するものが、ここにあったからだ。そのことが単純にうれしい。


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