さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

南輝子の父への挽歌  『モンキートレインに乗って72 昭和十九年の会アンソロジー』より

2016年05月05日 | 現代短歌 文学 文化

  はちぐわつの帽子かぶればいつせいに遠き呻きが駆けよつてくる

  あの時もきつと青空はちぐわつのジャワ・ジャカルタの父の青空

 今村均の本について書いたあと、手に取ったら目に飛び込んできた「葉月はちぐわつ」の一連から引いた。

「シユツサンイカガイカニナヅケシヤ」。

これは作者が生まれて20日めに父から届いた電報である。遺品として70年間母が保存していた昭和19年12月2日付の電報送達紙。ジャカルタ発グンヨウ。

「一九四五年八月一五日、旧王子製紙ジャワ(現インドネシア)ジャカルタ工場の責任者であった父と部下53名の無防備な民間人が、大日本帝國敗戦をきつかけに蜂起した地元住民によつて、侵略への報復として、全員虐殺された。この事件は日本インドネシア両国間の戦争借款として処理され、国の極秘事項として抹殺された。35年後の一九八〇年、アメリカ公文書公開で明らかになり、当時の目撃者の証言を得て、父達は発掘された。」
           『モンキートレインに乗って72 昭和十九年の会アンソロジー』(2016年4月刊)より


  かなしみをかなしみつづける父がゐる南十字星の心臓のあたり

  口にして胎内燃ゆる文字にしてたましひ歪む言葉ぎやくさつ (※ 元の本では、「ぎやくさつ」、傍点あり。)

  悲しさの総量として青があるわが身体も青に青燃ゆ


どうしても言っておきたいこと、それがこれらの歌なのだと思う。


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