<毎日新聞>衆議院解散――名づけるならどういう風に
「大義がない」とも批判される今回の衆院解散を、どう名付けるか。それぞれの分野で活躍する人に考えてもらった。
◇「朝三暮四解散」内田樹さん(64)神戸女学院大名誉教授
目先の違いにとらわれ、結果が同じトリックにだまされることを「朝三暮四(ちょうさんぼし)」と言います。エサを減らしたい飼い主に「朝三つ、暮れ四つ」と提案され怒ったサルが、「朝四つ、暮れ三つ」と言い直されて喜んだ、という中国の故事にちなんだものです。消費再増税は延期するだけで、結局は実施されます。まさに朝三暮四のトリック。まるで一国のトップが、有権者はサルのように判断力がないと考えているかのようです。「(無党派層は)投票日には寝ていてくれればいい」という大先輩(森喜朗元首相)の発言を思い出しました。
◇「自分が輝く解散」深澤真紀さん(47)コラムニスト
安倍内閣が重要課題とする「女性が輝く社会」にかけて、「自分が輝く解散」。内閣改造の目玉として女性閣僚を5人登用したが、不祥事が続いた。増税先送りも含め、結局は自分の傷を深くしないために解散に持ち込んだとしか思えない。「アベノミクス」という言葉に象徴されるように、安倍晋三首相は自分のことが大好きなのだと思う。集団的自衛権の行使容認や特定秘密保護法の制定など、自分がやりたいテーマは誰が何と言おうとやってきた。長期政権を視野に入れた自分目線の解散で得する人は、他に誰もいない。
◇「幸福の黄色い解散」中森明夫さん(54)コラムニスト
解散表明は高倉健さんの訃報が舞い込んだ日と重なった。将来振り返る時、多くの人は健さんの訃報の方を記憶しているだろう。代表作「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」で健さん演じる刑務所帰りの男が家に帰る際、妻役の倍賞千恵子さんは受け入れるサインとして黄色いハンカチを掲げた。健さんを安倍さん、倍賞さんを国民に例えると、国内総生産(GDP)がマイナス成長となる中で解散した安倍さんに対し、国民はハンカチを示すのか。立場を逆にすれば、安倍さんが今後、国民に景気回復というハンカチを与えられるのか。そこが見どころだ。
◇「上から目線解散」中島岳志さん(39)北海道大准教授
自民党は、経済指標の悪化が政権支持率の低下と結びつく前に解散しておこうと思ったのだろう。特定秘密保護法の施行や原発再稼働なども、解散すれば目立たなくなると考えたのだろうか。国民の判断力を軽く見た「上から目線」による、目くらまし解散だと感じる。だが、そこまで有権者は愚かだろうか。喫緊の課題を放置し、まだまだ任期があるうちに多額の税金を使って選挙をするのも無駄で非常識きわまりない。争点が明確ではない中での解散は、橋下徹市長の独り相撲に終わった今年3月の大阪市長選も連想する。