貸し手と借り手の論理の違いがあったとしても、一国の経済が破綻し、立ち行かなる事態は回避しなければなりません。一企業が経営破たんして金融機関が再生をさせようとすれば、債務の減免を行うことは日本でも行われています。また、法律上の破たん処理と再生の仕組みとしても現存しています。債権者との合意も必要ですが、国家が財政破綻し、立ち行かない事態はあってはならないことです。
ギリシャ政府の財政政策上の間違いは、その過程で正されればよいだけのことです。EUにとって有利か不利かではなく、一国を財政破たんで立ち上がれなくし、そのことを契機に地域の平和と安定が乱れる事態こそ、さけなければなりません。第一大戦、第二次大戦時のドイツとヨーロッパ各国の争いはその歴史の教訓を示しているのだと思います。
ヒトラーのような人物と、ナチスによる政治支配、軍国主義の復活を止めなければなりません。
<東京新聞社説>ユーロ危機回避の策は ギリシャだけが悪いのか
ギリシャがいよいよ正念場だ。債権団が求めた緊縮策に国民は大差で「ノー」と答えたが、資金が枯渇しつつある。双方が歩み寄る決断が必要だ。
ギリシャ問題は芥川龍之介の短編小説「藪(やぶ)の中」のようである。金の貸し借りなので問題点ははっきりしている。しかし、見る者、語る者によって自分の言い分が正しく、非は相手にあると映る。それぞれの主張は論理的で間違ってはいない。
◆債務削減は当然だ
では協議行き詰まりの原因はどこにあるのか。ギリシャだけが悪いのか。債権者に問題はないのか。それとも支援策自体の問題か。
解くヒントは「貸借文化の違い」にある。債権者の中心のドイツや欧州北部は「借りた金は返さなければならない」が常識である。日本人も同じだ。だから巨額の融資を受けながら、条件を守らず、返す努力も見えないギリシャを許すことができない。
しかし、この貸借文化は世界的には主流でない。ギリシャなど南欧や南米では「返せないものは返さなくてもいい」との考えがなじむ。五年に及ぶ緊縮を受け入れ、高失業率と年金や給与の大幅減に苦しむギリシャ人は「返せないほどの金を貸した方が悪い」と考えるのだ。
貸し手の権利を守る度合いが異なるが、どちらの言い分も金融の世界では間違っていない。だが、厳しい財政緊縮と追加金融支援をセットにした支援策はギリシャの債務残高を高止まりさせ、事態をより深刻化させた。ドイツ的考えに基づく支援策に問題があったのだ。
過重債務に対しては、債務を削減(借金棒引き)して負担を軽くした方が経済が立ち直り、債務不履行(デフォルト)に追い込んでしまうより返済は大きくなる。債権団の一角を占める国際通貨基金(IMF)も認めたように、ギリシャ経済が持続可能となるためには大幅な債務削減は当然だ。
◆発祥の地として歓迎
危機の原点にさかのぼると、ギリシャのユーロ加盟にまでたどりつく。一九九九年に発足した欧州単一通貨には「財政赤字が国内総生産(GDP)の3%以下」という加盟基準がある。ギリシャは明らかに基準を満たしていなかった。だが、欧州発祥の地であり、ロシアに近接したバルカン半島の突端という地政学的な要請から特例的にユーロに迎えられた経緯がある。
EU各国はギリシャの欠陥を知りながら過剰な投資を続け、大いにもうけた。ギリシャもユーロ加盟で信用力が高まり資金を借りまくった。アテネ五輪(二〇〇四年)を機にバブル景気で高成長も実現した。
しかし、身の丈以上の経済を謳歌(おうか)したため、債務が膨張。GDP比12%超の膨大な債務残高がありながら隠蔽(いんぺい)していたことが〇九年の政権交代で明らかになった。
翌一〇年にまとまった第一次支援で債務削減が検討されたが、当時はポルトガルやアイルランドなど財政危機の国々への連鎖を恐れて見送られた。この抜本処理の先送りが、その後の危機拡大につながったのである。
一二年の第二次支援ではドイツやフランスの民間銀行向けの債務が削減された。大半の債務はEUや欧州中央銀行(ECB)、欧州各国向けに置き換わった。このため、今回債務削減が実施されれば、各国の国民負担(税金)に直結する。
負担が大きくなるドイツでは拒否感が強いが、これは実はおかしい。ユーロ導入で実力より安い通貨を手に入れ、ギリシャや東欧への輸出増などで恩恵を最も享受してきたのである。
時間的な余裕がない中、実効性ある解決策をまとめられるのは、欧州統合をフランスとともにリードしてきたドイツである。
経済規模がユーロ圏の2%に満たないギリシャが離脱しても、影響は軽微との見方はある。しかし、長い年月をかけて築き上げてきた通貨統合という歴史的試みを、小国への誤った対応で瓦解(がかい)させてはならない。
◆自らの意思で決める
協議の土壇場で国民投票という奇策に打って出たチプラス首相の大衆迎合的な行為は、とても賛同できるものではない。とはいえ、ギリシャ人は大国に翻弄(ほんろう)されてきた経験から、自らの将来は自らの手で決める自尊心が強い国民である。ギリシャ人の悲痛な叫びには耳を傾けたい。
ユーロ体制は、通貨は統合したが財政は各国ごとという矛盾を抱える。圏内格差を埋める調整機能に欠け、このままでは「第二のギリシャ」も生まれよう。平和と共存という理念に向け、再分配政策など統合深化を急ぐべきだ。
世界経済を危うくする火種などになってはいけないのである。