続・切腹ごっこ

~当ブログは更新を終了しました~

「あぶ・らぶ」

2008-05-11 | ★レビュー(本)

 「あぶ・らぶ」(高橋 鐵(てつ)著、昭和46年10月30日初版)を読んだ。
 心理学者である、高橋鐵(1907~1971)が異常性愛についてまとめた書物の中の一冊だ。“あぶ・らぶ”とは“あぶのーまる・らぶ”のことだ。前半は、女性・男性に見る異常性愛について実例を挙げながら解説し、後半は主に著者に届いた相談に答える公開カウンセリング形式になっている。

 ゲイ、レズビアン、サディスト、マゾヒスト、フェティシズム、ナルシズム、露出欲、隠蔽趣味、児童性愛、性愛緊縛、獣姦、視姦、排泄物狂崇、汚染症、淫斬症、ほりものマニア、アベック殺し、男根化粧‥等々等々。←紹介されている異常性愛を系統立てて紹介しようと思ったけど、どれがどの系統に入るのか分からなくなったので目につくものをそのまま羅列してみた。名称だけではよく分からないもの、今は呼び方が変わってるものもある。
 性に関する俗称や隠語は時代によってコロコロ変わるようで、今までほとんど聞いたことのない単語もよく出てくる。コイツス、パンパン、ヨニ、トーハー、千鳥、ブルーセックス等々‥ 前後の文章を読めばなんとなく意味は分かる。自分より年齢の上の人なら知ってて当たり前な単語なんだろか?もしかして僕が知らないだけ??
 単語だけでなく内容にも原稿が書かれた時代を感じることがある。カウンセリング編で、相談者が「戦時中、どこそこへ出征しており‥」というような記述が珍しくない。「戦地で女を強姦しろと上官に命令され、それを拒むと人目につく電信柱に全裸で縛られ‥それ以来露出欲が芽生えてしまった」とか、「戦後急激にエロ雑誌(もっと違う呼び方だったかも)が氾濫し‥」「近代的な女性が社会に進出し‥」みたいな感じで。
 「戦前は、何か犯罪事件が起きると『犯人は探偵小説を読んでおり』という記事が‥」という文章もある。戦前は“探偵小説の殺人等の描写箇所を読んだ影響で事件を起こした”という関連づけられ方もしたようだ。関係づけられる対象はゲームやアニメに変わったが、今も昔も関連づけたがる人の思考パターンは変わらないようだ。

 この数々のあぶのーまるらぶの中に「腹切願望」もちゃんと入っている。相談者の手紙には本人が描いた少年が切腹しハラワタを掴み出している絵も添えられている。
 「終戦時、青年14人が割腹したという新聞報道を見て現場に駆け付けたが、遺体がそのまま放置されているはずもなく虚しくその現場を1日歩き回った。あの時切腹後の光景を目の当たりにしていれば‥、感激して追い腹を切って死ぬにせよ、本物の切腹死体に気持ち悪くなって腹切願望を捨て去るにせよ、自分の異常性愛にケリがつけられたものを‥」という内容に共感というか同情というか、とにかく他人ごとではないという気がした。

 自分の祖父ぐらいの年代の人も若い頃に「自分は変態ではないか?このままでは異常性愛のせいで人生が破綻してしまうのではないか?」と気に病んでいたのだと知って親近感が湧いた。カウンセリング編で見られるような著者の「世間のほとんどの人は、一般的に異常だと思われるような面を何か持っているものだ。貴方のような人に合うパートナーは必ずどこかにいるし、異常性愛を昇華させて人生の役に立つようにすればいい。」という答えは当時の悩める人たちの気持ちをいくらか救っただろう。

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「少年悲歌」中康弘通著 4/4

2008-02-19 | ★レビュー(本)

前回に引き続き「少年悲歌」の紹介と感想を。4回めの今回で終了です。

「少年悲歌」1/4→
 
「少年悲歌」2/4→
 
「少年悲歌」3/4→

◆男ならずや(44年7月~12月)
 この自伝的な話は前回紹介した「少年の哀しみ」の続編である。
 “わたし”が7歳の頃、級友を遊びの弾みで傷つけてしまったことがあった。母に叱られたわたしは切り出し小刀を使って乃木将軍のように切腹したいと思った。幸か不幸か母は許してくれ、わたしは切腹する第一の機会を逃した。
 わたしは自分が男らしくないというコンプレックスを抱えていた。同時に自分を叱ってくれる同い年の少女Nの見ている前で切腹したいという願望も持っていた。県立の中学に受からなかったらNのことを想いながら切腹しようと考えていたが、受かってしまい第二の機会を失った。
 男子校である県立中学に入って、身体に大人の兆しが表れたが生理的な面とは裏腹に男らしくない容貌や性格に苦しんでいた。そして、それまでと同じように歌舞伎やラジオドラマの男らしく切腹する武士たちに憧れを抱き続けていた。
 中学では「解剖」といういたずらが流行っていた。色の白い比較的きゃしゃな少年を、数人の悪童が押さえつけズボンごしに彼をまさぐり、少年が蔑恥と屈辱に頬を染めるのを見て歓声を上げるのだ。ある日の夕方、Oとわたしは二人で掃除をするため学校に残らされた。陰険な性格のOを、わたしは嫌っていた。そのOに突然組み敷かれ、彼に股間をまさぐられ身体はそれに反応してしまった。恥辱に堪えられなくなったわたしは、帰宅してから今度こそ切腹してしまおうと小刀を構えた。しかし、こんな惨めな切腹ではなく、やはり想いを寄せる少女の前で切腹したいと思いとどまった。
 Oと、OをかばうMとのケンカが原因で、級友のKは野球部を退部した。OとKのケンカの原因は、Oがわたしを襲ったことではないのだが、わたしはこの状況からOとKとに板挟みなる美童である自分を想像した。Kとわたしは秘かに文通をしていた。Kからは「ずいぶん前からあなたを慕っていました」という手紙が来たが、わたしはそれにはっきり応えることはしなかった。
 その後Yという少年のような容貌の看護婦と知り合い、彼女の前で切腹という願望を抱くが、Yが戦地に徴用されてしまってから現在まで行方を知ることができなくなってしまった。わたしは若くはなくなってしまった今、切腹すべき時にしなかったことを悔やんでいる。

◆夢のまた夢(47年1月)
 幸姫に西国の大藩への輿入れが決まった。小姓である少年は、幸姫がその縁談を嫌がっていることを知る。少年は姫の役に立つ時は今しかないと、縁談を進めた老女を姫の目の前で斬り殺した。
 なぜ、と問う姫に「姫をお慕い申しておりましたが、近習という身分の差。ただ一度でも姫のお役に立った上で、姫御自ら切腹お申し付け下さり、目の前で腹切ることできれば、と」と応える少年に、姫は願い通り切腹を命じた。悲願を叶えられた少年は、与えられた懐剣を使い、姫に見守られながら腹を切った。


◆末裔の霊(42年9月)
 木村はふらりと立ち寄った中国山地の田舎町で苗子と出会った。苗子に案内され訪れた城跡で、木村は青年の切腹を目撃する。彼は苗子の親戚筋にあたり、苗子との結婚を望んでいたが叶わなかったのだ。
 この城には悲しい落城物語が語り継がれている。城主諭鶴羽政信と正室お苗の方の自刃の話である。切腹した青年は城主の末裔で、政信と同姓同名。同じく城主の末裔である苗子との結婚が諭鶴羽家の栄光を取り戻す道だと信じていたが叶わず、白帷子姿で先祖と同じく櫓の最上階で一文字に切腹して果てたのだった。

 
◆長い道(43年6月)
 「いえはだんぜつ みはせっぷく」四十七士カルタに、こういう1枚がある。わたしは幼い頃から切腹という行為に惹かれつつ、しかしそれを素直に表現できないでいた。「白虎隊」「三日月」「太平記」「女腹切」「照葉狂言」などの書物との出会い。そして“ねえや”や、ゆき子との出会いは切腹への憧れをかきたてた。
 公立高校の教師となったわたしは、克美という女性徒に理想の女性像を重ねて見ていた。克美も切腹に対して少なからず惹かれるものを持っていたようだ。しかしわたしは温厚な教師という仮面を脱ぐことはできず、それができたのはしばらく経ってからのことだった。
 克美は実家の会社を守るために結婚した夫と別れ、わたしを訪ねてきた。二人で「憂国」を見に行った後、わたしは克美に対する自分の想いを告げ、克美も「生徒の頃から慕っていた」と、それに応える。わたしは四十年間果たせなかった女性との行為を果たした。そして、今これを書き上げ死のセレモニーを遂行しようとしている。

◆秘楽(43年6月)
 幸夫は両親を亡くしてから従姉の芳美の家族と同居していた。幸夫は芳美に言えない秘密があった。一人きりになると芳美の部屋に入り、盗んでおいた芳美の下着をペーパーナイフに巻き切腹のまねをして、その果てに自慰行為をするのだ。芳美の名前を叫びながら。
 ある時、それを芳美に知られてしまう。幸夫の芳美を呼ぶ声や荒い息使いは盗聴されていたのだ。芳美と友人の里子は、幸夫に何をしていたのか問い正した。芳美は、このことは秘密にすると言ってくれたが、里子は良からぬことを考えているようだった。
 蒸し暑い季節、里子が訪ねてきて、幸夫に「芳美の水着写真が欲しくないか」と聞く。代わりに幸夫の切腹が見たいという里子に、抗うことができず幸夫は応じる。幸夫はペーパーナイフで腹を切ると同時に、里子のカイシャクにより射精する。里子はカイシャクで汚れたビニール袋を持ち帰る。
 秋口になり芳美が体調を崩した。なかなか良くならず家から離れた病院に向うことになった。芳美と叔母が出かけた後、里子から電話がかかってきた。「あたしと芳美は体を触れ合うほど仲が好いの。あの時のビニール袋の中身を芳美の体に入れることだってできるのよ」と里子は言った。「どういうことか分かるわよね。償いはいるわよ、どんな形にせよ‥」幸夫はペーパーナイフを力を込めて腹へ押し当て、さらに体を前に折った。激痛が腹ふかく徹った。

★死におくれ戦記(あとがきに代えて)(54年9月)
 三島由紀夫事件のとき、「これで三島さんにも、やっと終戦が来たのだな」と言った同年輩の人がいた。三島さんも死におくれを意識していたのではないだろうか。三島さんと同年のわたしだが、わたしの切腹をテーマに選んだ著述という戦いは太平洋戦争の終ったときから始まった。これは戦うべきときに闘わなかった者の非命であると同時に、永遠に会うことはないであろうN子への恋文でもある。


 この「少年悲歌」短編小説の中には自伝かと思わせるようなものも含まれている。本当にそうなのかは分からないが、著者にも全くではないにしろ同じような経験があったのだろう。一貫した年上の女性への憧れ、病弱な自分の世話をしてくれる女性への憧れが感じられる。また、男らしくない自分が切腹することで男らしくなりたいという願望。それを憧れる女性に見てもらって「男らしい」と認めてもらいたいという願望。
 著者の中康弘通氏は「女切腹」の方が好きらしく、衆道的な内容の話はあまりなかったので、その点は残念だった。しかし、切腹ごっこに耽る少年の姿はまるで自分のことが書かれているようで、主人公に共感できる部分が多くあり面白かった。

読み物としての面白さ ☆☆☆☆☆
新情報度       ☆☆★★★
資料の貴重度     ☆☆☆☆☆
切腹フェチの満足度  ☆☆☆☆★
総合点        ☆☆☆☆☆

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20代・14位△ イラスト・85
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「少年悲歌」中康弘通著 3/4

2008-02-17 | ★レビュー(本)
あー‥ 時間かけて書いた記事が消えた‥ なんでログイン画面が今頃出てくるんだ‥
気を取り直してもう一回‥、
前回の続きで「少年悲歌」の各小説の紹介と感想。

◆実熟れず
 三樹夫が憧れる従姉の美輪子は、今日結婚する。
 女の子みたいで頼りない三樹夫を、美輪子は自分も通う剣詩舞の道場に通わせた。発表会が迫ったある夜、美輪子は三樹夫を特訓する。三樹夫は「白虎隊」の切腹の動作が、言い知れぬ抵抗感と気恥ずかしさでうまく出来なかった。煮え切らない三樹夫に美輪子は手本を見せる。
 三樹夫は切腹の特訓をしたあの夜を思い出していた。美輪子が吟じたテープをかけ、美輪子のポートレートがほほ笑む前で、三樹夫は本物の刀で本当に腹を切った。「美輪子さんッ、見て、見てッ、教わったとおり、ぼくは、切腹、しますッ」

◆悲願
 ゆきは、大きな旧家の主の、しかし今は天涯孤独となった同じ年ごろの少年の世話をしていた。少年は病弱で、楽しみといえば、ゆきに古典や歴史小説を朗読してもらうことぐらいだった。ゆきが朗読する武士の悲壮な最期を描いた物語を聞きながら、少年は短刀に見立てたおもちゃの刀で切腹した。
 「ぼくの好きなあのあかね色の空の下、思うさま腹掻き切って死にたい」というのが、少年のたった一つの願いだった。ゆきは少年に生きていてほしいと願いながらも、たった一つの願いをかなえてやりたいとも思っていた。
 本土決戦が現実味を帯び始めた頃、空が美しいあかね色に染まる日が来た。少年はゆきに縫わせた死装束に着替え、ゆきが朗読する中、鎧どおしで腹を切った。しかし、いつもするように一気に切ることはできず、ゆきの介添えでようやく思いを成し遂げることができた。
 ゆきも後を追って脇差を腹に突き立てたが死にきれなかった。

◆海風の来る丘
 靖男はいつも清拭をしてくれる真崎看護婦に憧れていた。ある時真崎を怒らせてしまった靖男はお詫びに腹を切るまねをするが、「そんなことでは腹は切れない」と言われてしまう。真崎の兄が書き残した「切腹覚書」というノートを読んだ靖男は再び真崎に切腹を見せ、今度は一人前だと認められる。
 空襲が激化する中、病院の閉鎖が決まった。期日の夜、真崎を呼んでおいて靖男は切り出し小刀を腹に突き立てた。部屋に入ってきた真崎は傷が深いと見ると、靖男に手を添えた。真崎の手で腹を断ち切られながら靖男は満ち足りていた。

◆夏の記憶
 信太は従姉の初美の部屋で六寸ほどの擬刀を見つけた。帰ってきた初美に部屋に入って何をしていたのかを問いただされ、言われるままに擬刀を腹にあて切腹のまねをした様子を再現する。そんなことじゃおなかは切れない、と初美は信太に切腹の作法を教える。そのあとで初美は水着に着替え、普段やっているように切腹の真似をして見せた。信太は切腹の真似を見せあうなど異常だと思えたが、“ねえさん”がすることならいいんだ、という気になった。初美は「二人きりの秘密よ」と言い、二人はゆびきりをした。

◆少年の哀しみ
 “わたし”は自分がいるせいで母が父と別れることができないと思い、「いい子」になって母に愛されるためには切腹して死ぬしかないと思っていた。わたしは常に二本の切り出し小刀を持ち歩いていた。新聞で見た「女腹切り」という小説に心惹かれたが、読むと本当に切腹してしまうような気がして怖くなり読まなかった。わたしは白虎隊の少年たちや椿説弓張月の島の冠者為頼という少年の切腹にも憧れた。
 母が入院している病院の看護婦のIさんとYさんとの会話から、Yさんに見守られながら切腹する自分を想像してみたりもした。わたしは、Yさんとのただ一度の愛のあと、切腹することを望んでいた。

◆少年慕情
 「りりしいわね、あなたぐらいの年頃でいさぎよく立派に切腹して果てたのよ」従姉の秀美のあのうっとりしたような言葉を聞いてから、幸雄は憑かれたように切腹のまねをするようになった。
 ある日、秀美が家のプールに呼んだ女友達二人の着替えを幸雄は見てしまう。怒る秀美に、幸雄は「切腹する」と言う。幸雄は悲しみともよろこびともつかない心の高ぶりを感じていた。秀美が持ってきた懐剣を幸雄は腹に突き立てるが刺さらない。懐剣は模造だった。
 幸雄の覚悟を知った秀美は、秀美への思いを書きつづった幸雄の日記を盗み見たことを告白する。そのお詫びに、と秀美はさっきの懐剣で切腹の真似をして見せた。それを見て自分も切腹したい衝動を抑えられない幸雄は、その懐剣をとってまた腹に突き立てて言う。「ぼく、おねえさんの目の前で本当に切腹してしまいたい」


 この6篇は現代のもの、戦時中のもの、本当に切腹するもの、切腹のまねをするもの、いろいろだ。ただ共通しているのは、主人公の少年よりも“強い”女性が登場するということだ。このうち3篇は女性が従姉だというのも興味深い。たしかに従姉のおねえさんというのは少年が憧れを抱く存在かもしれない。
 少年はその女性に命令されて、または見守られながら、あるいは介添えを受けて、切腹する。少年自身はというと女性に比べて年下だったり、病弱だったりする。前回の6篇の連作も夫より妻の方が強い。この人間関係は著者の趣味だろうか?

 今回も読んでいて思うのは、同じ切腹趣味を持つ人と出会える(さらにそれが自分が憧れを抱く人)幸せだ。切腹の話題になると微かに表情が上気しているように見える、いやに腹を切る動作をして見せることが多い、その時はいやに嬉しそうだ、切腹シーンが流れると画面を食い入るように見つめる、部屋に短刀を隠している‥そんな人身近にいないかな~

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少年悲歌 (1979年)
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「少年悲歌」中康弘通著 2/4

2008-02-13 | ★レビュー(本)

前回の続きで、「少年悲歌」の各短編小説の紹介と感想。

血の色の月(40年1月)
 木谷隆は営業部の美川克美のことが好きだが、内気な性格のせいで告白できないでいる。克美の方は“男らしくない”隆に冷たくあたる。隆には切腹の真似をして興奮するという性癖があった。
 隆はある日、勝気な性格の克美が数日前に封切られた映画「切腹」を見て「切腹って男らしい」と話しているのを聞く。それを聞いた隆は、結婚の噂が立っている克美に告白しようと決める。夜の河原に克美を呼び出した隆は「僕は克美さんのことが好きだけど、克美さんは僕を嫌っている。最期ぐらいは男らしく切腹するから、見届けてほしい。婚約者の人とお幸せに‥」と、言って短刀を腹にあてがう。隆が本気だと気づいた克美はそれを押しとどめる。
 結局そのことがきっかけになって二人は結婚。実は克美も切腹が好きで、結婚してからも二人で切腹の芝居を続けている。芝居の流れは、姫である克美に慕情を告げた小姓の隆は、無礼者!と切腹を申し渡される‥、あるいは、二人は白虎隊士で刺子に袴姿で腹を刺し違えるというような感じだ。

愛の純度計(41年11月)
 木谷隆は、妻克美のために「切腹曼荼羅縁起」という創作を書いた。
 ―小姓隆之助に秘かに切腹の作法の手ほどきを受ける克という姫がいた。しかしその二人の関係を好ましく思わない者がおり、姫の父である城主に密告する。二人はやましいことは何一つしていないと弁明するが、城主の怒りは収まらず「それほどまでに腹が切りたければ、二人揃って切腹せよ」と申しつける。城主とその側室、紅毛の異人も同席する中、二人とも見事一文字に腹を切り自ら介錯して倒れる。
 ‥という古文書を手に入れた幸美と、彼女の家に仕えていたばあやの忘れ形見、隆夫。二人は太平洋戦争に負けた祖国の未来を憂い、古文書に習い、白無垢と学生服姿で切腹して果てた。

夫婦茶碗(42年4月)
 隆と克美夫婦はテレビ番組「風流夫婦茶碗」に出演し、結婚へのなれそめを面白おかしく話す。ただし、隆が腹を切ろうとして抜いたのは本物ではなくお芝居用の刀だった、というオチにして。
 もし、克美が事故か何かで死んだら‥という話になり、隆は迷わず「後を追って切腹する」と断言する。克美も、「もし、自分が他の男に無理やり体をどうこうされるようなことがあったら、申し開きのために切腹する」と返す。その後も夫婦の切腹ごっこは続いている。

「憂国」私記(42年11月)
 隆、克美夫婦は二人で「憂国」を見に行った。切腹シーンに気持ちを昂ぶらせた二人は、その夜も切腹ごっこを楽しむ。「存分にお腹あそばせ‥」と冷たく言い放つ克美に、三島由紀夫に負けじといつも以上に張り切る隆。十文字に切り終わった隆の短刀をひったくり、「見て、あたしの本当の気持ち」と晒しを巻いた腹に突き立てる克美。一文字に切り終わってから「ごめんね、イケズばかり言って」と頬を赤らめた。

白い水着(43年4月)
 隆の前に克美が短刀と三宝を置く。いつもと違い克美の表情が青ざめている。「タカシさん‥許して」という言葉を聞いて、克美が自分以外の男を好きになったと悟る。隆は「いいんだよ、この月日楽しかった」と覚悟を決め腹を切る。しかし、本身のはずの刀が腹に刺さらない‥
 という夢を見たと隆が話すと克美は怒ってしまう。翌日の夕方、隆が帰ってくると、克美が遺書を残し白い水着姿でうつ伏せで倒れていた。床には血溜まりができ手もとには短刀が転がっている。隆が昨夜の夢の話が悪かったのだ、と腹を切ろうとすると、何事もなかったかのように克美が起き上がった。「ふん、ゆうべの仕返しよ」と隆をにらみながら克美は笑った。

藍絣の克美(44年1月)
 隆、克美は二人の結婚のなれそめに似た記事を週刊誌に見つける。今夜は、その記事を脚本にして切腹することになる。
 「腹を切って死ぬ前に、一度だけ、たった一度でいいから‥」と言い寄る隆に、「そんな女だと思ってらっしゃるの?せめてもの情けに見届けてあげるから、たった今切腹なさい」と克美は表情も変えず言い放つ。隆はもろ肌脱いで「これが、男のわび方‥」と一文字に腹を切る。それを見て「許してあげますわ」と顔を上気させながらも冷静に言う克美。
 男と女、どちらが純情か‥それをお互いへの気持ちに置き換え討論し、思いあまって短刀を自腹に突き立てたりしながら二人の夜は更けていくのであった。


 前回の六編とは違って、時代は現代(しかし、映画「切腹」「憂国」の上映とか「夫婦茶碗」とか、やっぱり時代を感じる)。設定も切腹に興奮する青年の物語ということで、物凄く親近感が湧く。本当に切腹して人が死ぬことはないので全体的に雰囲気も明るい。悲愴なのもイイけど、こういうのも好きだ。

 この6編の連作の50%は、のろけでできていますといっても過言ではない。もちろん、もう半分は切腹でできている。
 隆は自分でも認めるように男らしくなく、お人好しで受け身でM。克美は好き嫌いはハッキリ口にして、一見冷たそうに見えるが実は情に厚い。今で言うとツンデレ?
 都合の良すぎる感じがしないでもないが、それだけに羨ましい状況だ。憧れていた相手も実は切腹好きで、結婚後も毎夜切腹ごっこを楽しんでいる。切腹ごっこを楽しむだけではなく、新聞で「失恋した青年が一文字に切腹!」などという記事を読んだら、パートナーと切腹フェチ同士ならではの会話ができるのだ。その話で盛り上がって、今夜はこのシチュエーションでやってみようということになったりする。
 切腹フェチ同士の夫婦って、けっこういるもんなんだろうか?? 自分のパートナーを自分の趣味に誘ったりってことはあるから、「この刀で、切腹のマネやって見せてくれない?」とか「オレと切腹してくれないか?マネでいいから」とか言って誘うこともあるんだろうか。ちなみに自分はそう言って頼んだことないです‥。自分の好きな人が切腹フェチだったら、なんていう希望妄想的観測は持ったことはいくらでもあるんだけど。意気地なし‥

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「少年悲歌」中康弘通著 1/4

2008-02-11 | ★レビュー(本)

 中康弘通・著、「少年悲歌」(1979年発行)という本を読んだ。去年の秋に譲り受けた書籍群の中の一冊だ。この本は切腹を扱った短編小説集である。小説の内容は大きく分けて2つに分類される。1つは幕末や終戦時が舞台で実際に青年・少年が腹を切って果てる物語、もう1つは現代(といっても発行年の1979年より以前)が舞台で、切腹フェチの青年・少年、あるいは切腹フェチの女性が登場する物語。
 長くなるので4分の1ずつあらすじを紹介する。

◆紅梅吹雪(昭和42年9月)
 源義経の腹心、佐藤四郎忠信は“かや”という女が忘れられず、危険を承知で京に独り舞い戻ってくる。しかし、かやの裏切りで屋敷は頼朝方の兵に包囲されてしまう。奮戦の後忠信は彼を真に慕う少女あかねの見ている前で見事な立ち腹を切る。

◆凶夢聚楽第(48年12月)
 関白豊臣秀次は、秀吉に斬りかかるが惜しくも取り逃がすという凶夢を見た。彼は正室の操を好色な秀吉に奪われていた。秀次はポルトガル人宣教師フローレを聚楽第の奥、美女の侍る大浴場に案内する。秀次の乱行は度を増していき、ついに高野山で寵愛する小姓3人を供に腹を切る。3人の中でもひと際美しい不破万作とは、もしかすると不破のお万の方という美女ではなかったのか‥

◆若衆武士道(49年5月)
 新之丞という見目麗しい寵童小姓がいた。彼に心を寄せる森山内記という武士が、領内で狼藉をはたらく浪人集団を鎮圧した褒美に新之丞を賜りたいと申し出る。願いは聞き入れられ、新之丞は内記とともに暮らすようになる。
 ある時、新之丞の親類の治太夫の紹介で、江戸の武芸者が藩を訪れた。藩の指南番として内記が受けて立つが相手に花を持たせるためわざと負ける。武芸者はその夜酒宴の席で、内記と藩主を暗に貶し新之丞の手をとって弄んだ。その話を聞いた内記は激昂し武芸者を斬り、「自分の紹介で招いた武芸者を斬られて黙っていては武士が立たない」と刀を抜いた治太夫をも斬り伏せた。
 本来親類の仇を討つべきところだが、内記に向ける刀は持たぬと新之丞は介錯もなく十文字に切腹。改めて切腹を仰せつかった内記も十文字に腹を切った。

◆花の若衆(43年8月)
 十八の采女は恋の病に伏せっていた。想うは采女と同じく小姓で十六の右京。やがて二人は互いの想いを打ち明け相思相愛の仲になった。しかし美しい右京を想う者は采女のみにあらず。右京に袖にされ、茶坊主にそそのかされた細野主膳という男が、可愛さ余って憎さ百倍と右京を狙う。しかしあえなく返り討ちに遭う。主膳に非があるのは誰の目にも明らかなれど、喧嘩両成敗の原則に則り右京は切腹と決した。
 右京が辞世を記し終わったその時、右京に駆け寄る采女。二人は「後世は一つ蓮の上に‥」と向かい合って腹を切る。一文字に切り終えると、抱き合うようにして鳩尾を刺し違え、二人同時に果てた。


◆峰の松風(44年9月)
 時は幕末、但馬の国の片田舎にも動乱の風は吹き荒れた。維新のために同志を募りながら転戦し、自分の村に滞在している南八郎こと河上弥市に、庄屋の娘お小夜は想いを寄せていた。しかし情勢が不利と見た一部の農民の裏切りに遭い、南八郎は逃亡の末、お小夜の見ている前で立ち腹を切って果てた。
 その時の悲壮な姿は、時代が変わり、夫を持ち息子・孫が生まれ、年老いてからもお小夜の脳裏から消えることはなかった。

◆黎明悲歌(42年12月)
 初美は、兄の親友で軍人だが今は療養している岡野を秘かに慕っていた。岡野は色白で年齢よりも若く見え、24歳ながら美少年のような雰囲気があった。
 昭和20年8月15日、うちへ訪ねてきた岡野と兄は二人で腹を切ろうと話し合う。話を聞いた初美もいっしょに腹を切らせてほしいと頼む。拒む二人に初美は岡野を慕っていることを打ち明ける。次の日、岡野と初美は婚姻届を出し、軍服とセーラー服姿で祝言をあげた。
 一日だけの結婚生活を送ったその翌日、岡野と兄は鎧通しと懐刀で切腹。しかし、初美はいっしょに腹を切らなかった。「子供を授かっていれば、あとを追って死なずにその子を育てる」という岡野との約束があったからである。そして‥、秋になり初美にその兆候が表れた。


 最初の6話は全て、若衆や軍人が実際に切腹する物語だ。どの話も切腹の場面は凄惨な中にも妖艶な雰囲気が漂っている。時代背景もしっかりしているので、物語の背景にも想像を膨らませることができた。
 この本には1話ごとにほぼ1枚の挿絵がある。衣服を寛げ腹を露わにし短刀をかまえているもの、腹に突き立てた刀を引き回し血が飛沫いているもの。男もの女もの両方あって、絵柄も見るからに数十年前という感じだが、なかなかイイものもあった。構図等、切腹絵の参考にしたい。

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RaKuGaKi

2008-01-19 | ★レビュー(本)
 イラストサイト刑法第60条の主犯さん(様というべきか)の、同人誌を買った。2004年~2007年までのラクガキを集めた本で、99%のページが白黒。
 ラクガキって言っても自分好みな(エロ)絵をこれだけのボリュームで見れるのは嬉しい。キレイに整えた線よりラフな描きかけの線の方が、どうやって描いてるかがよく分かるし。

 「刑法第60条」を訪れたことのある人なら分かると思うけど、この本のページの80%ぐらいが「エタアル(エターナルアルカディア)」関係。その昔、好きだった子が貸してくれた、という個人的にほろ苦い思い出のあるゲームだ‥^^; 全クリしたけどストーリーはほとんど記憶に残ってない。そういえば男気っていうパラメータがあったはず。ナニすると上がるんだっけ? なんかエロい。
 しかし、ヴァイス(主人公)はここまで魅力的だったかな(笑 主犯さんの描くヴァイスは危険です。ヤバイです。こんな子がいたら、この子のために道を踏み外しそうな気がする‥
 相方のギルダーにはなぜかほとんど萌えない。なんでだろ‥メガネがいけないのか?それともヒゲか?間違いなく美形なんだけど‥

 エタアルの他にも版権絵が色々。その中ではドラクエ関係のイラストが好き!っていうかその他の元ネタをあんまり詳しく知らない‥。4勇者♂とか、3賢者♀とか、マーニャとか、カッコイイ。若い3戦士♂、若い3魔法使い♂、若い3僧侶♂はカワイイし。

こんなラクガキが描けるようになりたい‥

★今回の記事を読んで、同じく主犯さんの描くヴァイスが好きだ!という人は↓↓をクリックしてやって下さいな☆

 
20代・12
位□ イラスト・55位△

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「切腹の美学」八切止夫著

2007-12-21 | ★レビュー(本)
  この間頂いた書籍群の中から「切腹の美学」(八切止夫著・昭和46年初版発行・発行所(株)秋田書店)という一冊を読んだ。内容を要訳し感想を書く。八切止夫(やぎり とめお)‥変わった名前だ。

 この「切腹の美学」という本は今まで読んだ切腹研究の書とは少し違っている。まず始めに著者はこの本の発行のきっかけになった三島由紀夫の切腹についての考察を書いている。その中で新渡戸稲造著作のかの有名な「武士道」は新渡戸のカナダ人の妻が書いたものだと述べている。英文で書かれた実物草稿は、著者曰く達筆で癖のある女文字だったそうだ。「武士道」の序文には、‥これは妻から日本の風習について聞かれそれについて説明している内に出来たようなものである‥、と書いてあるらしい。
 「武士道」は最初アメリカで発行され、その後和訳されて日本で発行されている。しかし和訳したのは著者のはずの新渡戸稲造ではなく別の人物であるらしい。母国語に翻訳するのなら新渡戸本人がすればいいものを、だ。「武士道」の文面も、著者曰く「持って廻ったような舌足らずで日本人には読み辛く、外国人受けは良い」ものだそうだ。
 僕が「武士道」を読んだことがあれば、少なくとも訳された文面の雰囲気を伝えることができたかも知れないが、残念ながら読んだことはない。
 
 著者曰く「武士道」は発刊以来、日露戦争から太平洋戦争までの戦意高揚に大きな役割を果たしている。「武士道」に書かれた生き方死に方を手本にした軍人(さらには日本男子)は多いだろう、と書く。その名著が実は一外国人婦人が書いたものだとしたら‥

 こういう書き出しから始まり、著者自身が今までに書いた小説を全文または切腹の場面を特に抜粋したものを七編ほど載せている。これらの小説はどれも「アンチ切腹の美学」と言ってもいいほど酷く悲惨で時には滑稽な切腹の姿を描いている。
 最後に著者は、―どうか今後は、切腹の本質をよく見極めて、美化することのないよう、やたらと模倣せぬことを切に祈るものである―、と結んでいる。この一文に、著者が言いたかったことは集約されていると思う。この本は美化された切腹へのアンチテーゼなのだ。

 現在一般的な「切腹」の姿とは少なからず美化されてきたものであり、「切腹の歴史」自体もそれが拠り所とする史料とされるものがもともと怪しいからあてにはならない。後の世に書かれた軍記物や講談話に出てくる切腹の場面など所詮お客が楽しんでなんぼのファンタジーである。しかし、それを真に受けて美化された切腹を実行してしまった、またその武士道精神に感銘を受けた日本男子は数知れない。
 ―「切腹論考」(著者が三島事件前に出した切腹研究書)を三島氏が読んでいたらしいだけに、この間のことは残念でならない―と著者は書く。


 「切腹」が持つ美化されがちな精神性に否定的な立場からの切腹研究書というのは初めて読んだので面白かった。「切腹」というのはもともと仏教系(渡来系・弥生系)勢力が、被占領民である神道系(原住民系・縄文系・東国武士など)勢力に課した過酷な刑罰であった‥それを武士が自らのアイデンティティーに組み込み、後に誇り高い死に方とされるように変遷していった、という説も、今まで聞いたことのないものだった。
 ちなみに八切というのは「切腹」の別名らしい。ペンネームにまでメッセージが込められているんだろうか??

読み物としての面白さ ☆☆☆☆★
新情報度       ☆☆☆☆☆
資料の貴重度     ☆☆☆☆★
切腹フェチの満足度  ☆★★★★
総合点        ☆☆☆☆★

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20代・8位△ イラスト・58
位△

切腹論考 (八切意外史)
八切 止夫
作品社
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武士道 (講談社バイリンガル・ブックス)
須知 徳平
講談社インターナショナル

「切腹の話」千葉徳爾著

2007-11-24 | ★レビュー(本)

 この間頂いた書籍群の中から「切腹の話 日本人はなぜハラを切るか」(千葉徳爾著・昭和47年第一刷発行・発行所講談社)という一冊を読んだ。内容を要訳し感想を書こうと思う。

目次
1.切腹のいろいろ
2.生理学的問題
3.切腹の歴史
4.刑罰としての切腹
5.隣接民族の類例
6.切腹の原型と意味
7.何が切腹にかりたてるか

 副題にあるとおり著者は「日本人はなぜハラを切るのか?」、または「切腹とは何なのか?」という問いを突き詰めている。海外の百科事典にseppuku、harakiriとして載っているように、また現代人(昭和47年当時)の一般常識として知られるように「武士が己の名誉を守るために行う自殺方法=切腹」というのが本当の姿なのだろうか?と。

 まず著者は様々な時代の例を挙げることで、単純に「切腹=死に到達する手段」という認識は的を射ていないと言っている。また、異常時(戦乱の中)の切腹を考慮に入れず、平常時の切腹のみを見ただけで、「切腹=死に至ることの困難な愚かな自殺法」と決めつけるのにも否定的だ。
 著者は歴史を紐解いて調べた結果、切腹は武士だけのものでも男だけのものでもないと言っている。女性や町人、農民の切腹も珍しいものではなかったという。また切腹の発生と介錯役の出現には歴史的時間差があり、負け戦の後、敵に捕えられるのを避ける目的で速やかに死ななければならない(特に大人数での集団切腹)状況において出現発達したとも書いている。
 時代は移り、武士が宮仕えの中で主の命令によって切腹する割合が増えてくると、無念腹(内臓を掴み出すようなやり方・中世には称賛された)は支配層に抗議する形として嫌われるようになる。百科事典に載っているような切腹の形態というのはこの時代の儀式的な切腹を記述したものが多いようだ。
 さらに地域を越えて、沖縄、アイヌ、朝鮮半島、中国大陸の諸民族に似たような慣習がないのかどうかも調べている。同じとは言えないが、中国では内臓に宿るという本心を示すため腹を切り開いて見せるということはあったようだ。

 これまでのことを踏まえて著者が考える日本人がハラを切る理由というのは、次のようなことだと思う。古代においては人身供犠を原型に、「神に見放された者(武運尽きた者)」が最期に自分の真心を示すために行い、同一民族内での抗争が主だった戦乱の中ではお互いの悲壮美が共有できたために発展した。日本刀という切れ味の良い道具があったこと、根底に下腹部を刺激する生理的衝動としてのエロチシズムがあったということも大きな要因と考える。


 ‥以上が自分が極々簡単にまとめた要訳だが、だいたいの内容を分かってもらえただろうか?自分でも書いてるうちに訳分からなくなってしまった^^; 読んでる時は理解できたような気になっていても、人に伝えるのは難しい。読んだ時の面白さとか感動を伝えるのはもっと難しい。
 ↑のような大まかな流れの中にたくさんの切腹の例が記載されている。中世以前の例は男性のものが多く、明治以降(特に敗戦時)の例では女性のものが多い。切腹フェチの欲求も満足させてくれる内容だった。

☆の数で自分が感じたこの本の印象を表してみた。新情報度は自分が読むまでに知ってた情報が多かったかどうかだし、資料の貴重度は自分がなんとなく貴重なんじゃないかな~と思ってる程度の印象なので、そのつもりで見て下さい。

読み物としての面白さ ☆☆☆☆☆
新情報度       ☆☆☆★★
資料の貴重度     ☆☆☆☆★
切腹フェチの満足度  ☆☆☆★★
総合点        ☆☆☆☆★

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20代・15位□ イラスト・74
位△

切腹 日本人の責任の取り方 (光文社新書)
山本 博文
光文社
日本人はなぜ切腹するのか
千葉 徳爾
東京堂出版

設定資料集

2007-06-27 | ★レビュー(本)

先日、「WILD ARMS The Vth Vanguard 公式設定資料集」を購入。ゲーム自体はまだやったことないんだけど‥。キャラデザの方の絵が好きなんで。

 ゲームのキャラとか背景の設定資料がズラッと掲載されてる本(そのまんま^^;)なんだけど‥、眺めてると、こんなふうに絵を描けるといいな~と思えてくる。表紙に使われてるような、枠の中にちゃんとバランス良く治めた最後まで色塗ったイラストを(グダグダ言うヒマがあったら描けって話なんだけど)。自分自身こういう「キャラの集合絵」に憧れてるところがあんのかな?自分のオリジナルキャラをかっこよく配置して、みたいな。(自分のオリジナルキャラなんていないけど。いてもすぐ切腹させちゃうんだけどw 超回復キャラなら何回腹切らせてもOKか)
 動きのあるイラストにも憧れる。一番好きな絵はキャロルがミサイル発射してる絵(
公式サイトにもあるヤツ)。ミサイルも、髪も、スカートも、脚も動きまくりな感じが大好き。キャラ設定のページには、操作キャラ6人全員に動きの激しいイラストが1枚ずつあるんだけど、その中でもキャロルのが一番弾けてていい。2Dでしか描けないディフォルメされた感じも。
 イメージボード集の街の建物とかダンジョン内部のイラストも見入ってしまう。もともとこういうジオラマちっく(鳥瞰図みたいな?)な写真とかイラストとか大好きだから。ゲームってスゲー人たちが集まって作るもんなんだな~

ちなみに好きなキャラは、ディーンでもグレッグでも、その他男前な面々でもなく、レベッカでした(ゲームを傍から見てた感想)w

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20代・9位□ イラスト・36位△

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お~い!竜馬

2007-02-24 | ★レビュー(本)
 こんな画像を拾った。原作武田鉄也、作画小山ゆうの漫画「お~い!竜馬」のワンシーン。司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を読んだことがあるので、だいたいどういうシーンか分かる。
 “山田広衛に弟忠一郎を斬られた池田寅之進(切腹している青年)は、山田を斬り弟の仇を討つ。しかし、寅之進は郷士(下級武士)で、山田は上士(上級武士)だった。土佐藩は、もともと土佐にいた長曾我部氏の家臣(郷士)と、関が原以後土佐に入った山内氏の家臣(上士)の間に身分の差があり、幕末になっても仲が悪かった。そんな状況の中で、上士が郷士を斬り、斬られた郷士の兄が弟の仇を討つという事件が起こったために大きな騒ぎになってしまった。竜馬は騒ぎを治めようとするが、そんな中寅之進が腹を切る。郷士全体に迷惑がかかることをおそれてのことだった。突然だったので周囲の者はうろたえるが、介錯するしかなかった。”
 この画像とはあまり関係ないが、山田に斬られた忠一郎というのは男色家で、宇賀喜久馬という19歳の美少年を連れていた。忠一郎が山田に斬られた時にも喜久馬は一緒におり、寅之進に急を知らせに行っている。寅之進が切腹した後、上士たちは喜久馬にも切腹を要求する。喜久馬は直接手を出していないが、結局切腹することになる。(
参照サイト

※画像はgooブログの要請により削除しました。

 切腹したが介錯が受けられず、横に転がって悶え苦しむという絵はあまり見たことがない。腹を抱えるようにくの字に体を曲げていたり、爪先で地面を蹴っていたりするところがリアルな感じがする。実際の寅之進の年齢は分からないが、絵は童顔に描かれているのがいい。寅之進の着物が農民と間違えそうなぐらい粗末だが、郷士の着物はこんな感じだったんだろうか。「お~い!竜馬」には、他にも切腹を描いたシーンがいくつかある。

お~い!竜馬 (1) (小学館文庫)
武田 鉄矢,小山 ゆう
小学館
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「卒業斬首式」

2007-02-15 | ★レビュー(本)
 先日、ふたば☆ちゃんねるにUPされた後藤寿庵さんの新作「卒業斬首式」。しばらく前から制作途中のページが少しずつ公開されていたが、13日未明に完成品が全編公開された。さっそく読んでこれはスゲーと思ったのでレヴューを書く。ネタバレになりそうなので、↓以下を読みたい方は文字を反転させて読んで下さい。

 舞台は、最初保健室かと思ったけど体育館か講堂のようだ。身体測定か予防注射でも受けるだけかのような雰囲気の中学生たち。生徒全員教師も含めて全裸(斬首される時も屋内用シューズだけ履いてるがポイント)だってのは日常とは言えないんだけど、明るくてさっぱりした性格の若い女性教師とか、天パでゴツゴツした顔の体育教師とか、実際に居たもんな~。このいかにも日常的な風景と、「死ぬ」という人生最期の瞬間とのギャップにクラクラする。見た目はまだ幼さの残る中学3年生が当たり前のように、嬉々として死に臨むのだ。この感覚はやっぱり「バトロワ」を見た時の感覚と近い部分もあるが、根本的に違う部分もある。
 人生最期の舞台としてしつらえた場所にしては、あまりにも粗末な感じがするのもクラクラする理由だ。切腹の座と同じような4畳半ぐらいの白い台と飛んだ首を受けるためのマット。それが講堂の舞台上中央とかじゃなく壁際に用意してあり、その横ではカーテンの向こうで痛み止めの注射がまだ続いている。しかもひとり々の斬首を全員が観てるわけでもないようだ。
 自分がこのテーマで描くとしたらなるべく雰囲気を厳かにし、生徒も全員正座して斬首を見守っている場面にするかもしれない。処刑としての切腹がそういう雰囲気だからだ。意図的に儀式の中で人を殺す場合、静かにするか騒ぐかの差はあれど非日常的な演出をするのが当然だ、と思い込んでいる。でもそれだと、このクラクラする感じが出ないだろう。このマンガの魅力はやっぱりこのギャップなんだと思う。

 一番萌えたシーンは、木村遙ちゃんが伊藤ひろしくんの生首を、ひろしくんのスペルマ発射中のPに挿して「フェラとキスが同時にできる新体位」を開発するシーン。キスとフェラ同時というアイディアとひろしくんの口から顔を覗かせた亀頭にクラっと。井上由美と佐藤ケータのエッチしながらの2人同時斬首も微笑ましくてよかった。西園寺麗華とダメ男の関係と幸せそうな死に顔もいい。そのコマの、「俺たちもアレやる?」「もっと楽な死に方しようぜ」というセリフ‥。もしかして♂♂カップルか? 東と高鳥の最期もかっこよかった。お互いの高い実力を認め合った友人(同時にライバル)関係って憧れる‥。
 やっぱり男子が絡んだシーンに興味がいくみたいだ。この中に男子の切腹シーンはなかったけど別に不満はない。これはこれで充分過ぎるほどイイと思う。また今度じっくり男子の切腹をテーマにして描いてもらえたらいいな
~とは思うけど‥。
 
 皆さんは、痛みや苦しみが制御できればどんな死に方をしたいですか?(これにプラスして死んでも生き返ることができるという条件付きで心置きなく死ねるとすれば)

自殺の心理学 (講談社現代新書)
高橋 祥友
講談社
卒業式―答辞 (ガッシュ文庫)
高久 尚子
海王社


オール1

2007-02-08 | ★レビュー(本)

 無造作な黒髪で、将来男前になりそうな童顔(高1なら年相応かな)、褐色で筋肉質。生傷が絶えず絆創膏が似合う。性格は素直で純朴だけど頭は悪くない。いろんな意味で磨けば光るダイヤの原石のような少年w。←かなり好みである。

 相互リンクしてもらってるサイト「
ごまさば」の、もなかさんの新刊の主人公はまさにこんな少年だ。昔々に経験した甘酸っぱい想いを思いだしてしまった‥w こういうちょっと男の汗臭さの混じったやおい(なのかな?いまいち全体のカテゴリー分けが分からない‥)が一番しっくり来る。自分のイラストも絵柄で分けると多分この辺りのような気がする。あんまりキレイキレイ過ぎてもイヤだし、「漢!!」ってのも苦手なのだ。少年少女マンガの垣根が消えて久しい(らしい)が、こういうジャンルでもカテゴリーの垣根が低くなってきてるのかな。それとも、もともとそんなものは無かったのか。

 画像は例の主人公の少年。オリジナルよりはちょっと幼くなってしまったかもしれない。彼のイメージカラーは目の色と同じ「赤」だと思われるが、気がついたら背景を青にしてた。ちなみに彼の相方のイラストも「
ごまさば」のPBBSに描いた。

可愛らしく、おめでたい!【鯛安もなか】
和菓子とおせんべい おおき屋
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Hacoa USBフラッシュメモリモナカ Monaca-T チーク H902-T
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割腹の日

2006-11-25 | ★レビュー(本)
 「割腹」でブログに書かれた記事を検索してみると、昨日今日は三島由紀夫関係のものばかりだった。そういえば今日11月25日がその日だった。
 夏に「回想 回転扉の三島由紀夫」という本を読んで感想を書くつもりだったが、前ブログのゴタゴタがあって結局書かないままになった。もう何ヶ月も経ったから内容も細かいところは覚えていない。暴露本というか、プライベートなことをいろいろ書いた内容だった。三島と著者の「兄弟ごっこ」「切腹ごっこ」の話は印象に残っている。
”三島は上半身裸になった。まだボディビルを始めていなかった裸は痩せて貧相で、切腹には向いていなかったし、下帯もしていず、ブリーフを下げて露わにした腹はいたずらに臍が滑稽で、これはダメだと思った。とくに前髪が額に掛かるのが、ポマードで光り、変に現代的に見えた。しかし三島は真剣に腹をもみ、長刀を逆手にし、左腹に突き立てる。引き回す。そして、ドッと私の死骸の上に倒れこんだ。”
(↑上の内容は
この本を読んで感想を書いている人のブログからコピったもの)
 その光景が目に浮かぶ。先に切腹して果てた男の体の上に倒れこむ男。折り重なったまま、しばしの間二人は動かなかっただろう。その間甘美な”死”を感じていたと思う。なんとなく分かる。切腹ごっこじゃなくても幼い頃「”死”ごっこ」をしたことがある人なら分かるんじゃないだろうか。


回想 回転扉の三島由紀夫 (文春新書)
堂本 正樹
文藝春秋
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若きサムライのために (文春文庫)
三島 由紀夫
文藝春秋

「他殺志願」購入

2006-10-25 | ★レビュー(本)

 数ヶ月前の記事で紹介した「他殺志願」をダウンロード版を購入した。後藤寿庵氏作。
 3つの短編マンガで構成されている本で、内容は流血たっぷり。男の切腹が描かれてるわけじゃないけど、こういうシチュエーションやストーリーは好き。流血の量は多いけど、グロい感じはしない。‥あ、1作目の若い女が頭を撃ち抜かれる話は、好みじゃなかったからちょっとグロく感じた。あとの2作は斬られるのが首と腹だから興奮できた。
 この本の1作目と3作目はずっと前からネットで公開されていた。しかも未公開の2作目も数ページはサンプルとして公開&流出していた。だから今回初めて見れたページは本当に数ページだが、以外と重要なシーンもあって、やっぱり買ってよかった。
 3作のマンガについて「解説」したページには、「このマンガの登場人物たちは葛藤も後悔もすることなく、愛や快楽のために殺されたり殺したりしている(もちろん作者は他殺も自殺も推奨していないし、これは純然たる非現実)。」というようなことが描かれている。たしかに3作とも重い雰囲気はないし、ハッピーエンドだ。自分が描くイラストはなんとなくこういう雰囲気を目指しているような気がする。言ってみれば「明るくて気持ちいい、幸せな切腹」‥
かな?

たばこで他殺、たばこで自殺
宮崎 恭一
女子栄養大学出版部
他殺の効用―内田康夫ミステリー・ワールド (ジョイ・ノベルス)
内田 康夫
有楽出版社

学習漫画の‥

2006-10-18 | ★レビュー(本)
 コメントの返事を書いていて思い出した。
 小学~中学の頃、「日本史学習漫画」系の本を図書館や書店で見つけると、必ずと言っていいほど立ち読みして切腹が描かれたページまたは1コマがないか調べていた。特に、時代で言えば幕末戊辰戦争の頃の巻は白虎隊自刃が描かれてないか必ずチェックしていた。しかしあっても1コマぐらいで、子供向けなので刺激的な描写もなく、なかなか満足できるものは見つからなかった。前々回に描いた見開き2ページが自刃図というのは珍しい。数年前会津若松で買った学習漫画には大きめのコマを使って自刃シーンが描かれていた。
 そのほかで言えば浅野内匠頭の死装束での切腹の場面は描かれていることが多かった。幕末の巻なら安政の大獄の場面で、投獄、斬首、切腹させられる人なんかが描かれていた。鎌倉時代末期なら北条一族や楠木正成。戦国時代なら浅井長政や柴田勝家などなど。
 特に歴史上の人物の伝記漫画は内容が詳しいので、全体の歴史から見れば重要ではない切腹シーンも描かれることがある。例えば徳川家康の伝記の中の、嫡男信康(享年21)の切腹など。
 学習漫画の切腹シーンは扱いは小さく絵柄も淡白だ。しかしその1コマから切腹に興味を持つ子供達もいるのではないだろうか。というかそう願いたい。

画像は、ある学習系伝記漫画の1コマ。さすがに最近の学習漫画は今風の絵柄のもあるようだ。

★今、kikuryouranさんのブログ「切腹の情景」で衆道切腹小説の連載が続いている。「
衆道禁断」をテーマにした物語だ。こういうシチュエーションもいいな~^^と思う。

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