醸楽庵だより

芭蕉の紀行文・俳句、その他文学、社会問題についての評論

醸楽庵だより  612号  白井一道

2018-01-04 13:17:12 | 日記

  今朝もまた納豆飯の旨さ哉  いちどう



句郎 「北朝鮮が日本を攻めて来る」と発言した知人の意見について今日は、考えてみたいんだ。
華女 なぜ、その人はそのような発言をしたの。
句郎 核兵器を持つと軍事的に優位に立つから日本を攻めてくると思っているようだ。
華女 だから日本は米軍と一体化して北朝鮮や中国の侵出を阻止しなくちゃならないという主張なのかしら。
句郎 そのようだよ。この発言を聞いて、いろいろなことを思った。例えば古代ギリシア人は自分たちをヘレネスと自覚し、文明人だと自任していた。ギリシアの周辺に住む人々をバルバロイ(分からない言葉を話す民)として差別した。そのバルバロイの中心はペルシア人だった。ペルシアの軍事力が強大になり、ギリシア人にとって脅威となるに従ってペルシア人に対する差別意識は強くなった。古代ギリシア人にとって自分と対等な人間はポリスの市民だけだった。アテネ人にとって人間はアテネ人だけだった。だからアテネ市民にとって奴隷は人間ではなかった。勿論バルバロイ・ペルシア人は人間ではなかった。だからアテネ市民がバルバロイを殺しても罪になることはなかったし、罪の意識を持つことはなかった。
華女 古代アテネの民主政とは、アテネ人だけの民主政だったのね。
句郎 そうなんだ。だからアテネ人にとってバルバロイは潜在的な敵、いつアテネ人に危害を加えるかわからない脅威であった。アテネの平和はアテネ人の間にだけしかなかった。
華女 絶えず、戦争の脅威に曝されていたのが古代ギリシア人の世界だったのね。
句郎 、そうなんだ。このようなことは古代ギリシアに限らないように思う。例えばアラビア半島に例を取ってみるとイスラム以前の世界をジャーヒリーヤ、無道時代とか、無明時代なんて言われている。この時代には遊牧の部族間の争いが何十年間も間続いていた。それぞれの部族が部族毎の神をカアバ神殿に祭っていた。ムハンマドは630ADメッカに入場し、各部族毎の神々を壊し、神はただ一つ、各部族はみな平等だと演説をするんだ。唯一神アラーを信ずるものは皆平等だと訴えた。こうしてアラビア半島内の部族間の争い、戦争はなくなった。こうして隣の部族も同じ神を信じる同じ人間なんだという気持ちが広がっていった。
華女 アルプス以北の中世ヨーロッパ世界においてもイエスを信じる者同士の間の戦争はカトリックの普及に従って争いがなくなっていったのよね。
句郎 カトリックとは、普遍と言う意味だよね。普遍、同じ人間だという意識を持つということなんじゃないのかな。
華女 古代社会にあっては、部族間の戦争があったが、中世社会になると同じ宗教徒、民族間では戦争が無くなったということなのね。
句郎、おおよそね。
華女 世界の歴史はおおよそ戦争は少なくなっていく傾向があるということなのね。
句郎 大雑把に言うとそういうことなかな。なぜそういうことが言えるのかというと私とあなたは同じ人間だという気持ちを持つ人々が増えたからね。
華女 近代社会になると戦争の規模が大きくなっていくのよね。
句郎 時代が進むに従って戦争の規模はますます拡大いくんだ。
華女 20世紀の戦争が史上最大の戦争が起きたのよね。
句郎 第一次世界大戦、第二次世界大戦がそうなのかな。
華女 第一次世界大戦は植民地争奪の世界的規模の戦争だったのよね。
句郎 世界の歴史は人間の愚行の歴史なのかもしれない。人間同士の殺し合いの歴史、そのような出来事の羅列だからね。
華女 『西洋の没落』を書いたのは、シュペングラーだったかしら。
句郎 そう、第一次世界大戦後、世界的に大きな影響を与えた本だったのかな。
華女 でもまた第一次世界大戦を遥かに超える規模の世界大戦が起きてしまうのよね。
句郎 共産主義の撲滅を目的にしたナチスの台頭が世界的規模で誕生したからね。
華女 第二次世界大戦とは、世界的規模の共産主義勢力を殲滅する戦争だったの。
句郎 そうなんじゃないのかな。だから犠牲者の数が圧倒的に多かったのがソ連だったからね。ソ連は2000万人の犠牲者がいたと言われているからね。それから中国人なのかな。
華女 ソ連も中国も潰れてしまうことはなかったのよね。
句郎 そうなんだ。しかし、第三次世界大戦とも言ってもいいと思うんだけれども、冷戦ではソ連は敗北し、自滅してしまう。
華女 冷戦という苛酷な戦争経済にソ連は耐えきれなくなったということなのかしら。
句郎 そう、ソ連という負の遺産に世界の人々は苦しんでいるのじゃないのかな。
華女 北朝鮮という国自身がソ連の負の遺産の一つなんじゃないかしら。
句郎 そうなんだ。まさにソ連の負の遺産だと思うね。だから「北朝鮮が日本を攻めて来る」なんていう発言が日常的に行われる所以なのかもしれないんだ。しかし、北朝鮮の脅威ということは、日本に米軍基地があるからだよ。そのように北朝鮮政府が言っているんだから。脅威とは、具体的に言うと北朝鮮が日本を攻撃できる能力を持っているということ。さらに日本を攻撃する意思というか、意図があるということだ思う。なぜ北朝鮮政府が日本を攻撃したいと思う理由は北朝鮮を攻撃する意図を持っている米軍基地があるということになるだろう。更に朝鮮戦争地位協定に基づいて日本の自衛隊は米軍と一体となり再開された朝鮮戦争に参戦するに違いないと北朝鮮政府が考えるからかもしれない。
華女 そんな細かなことを考えて日本の一般庶民は考えて発言なんかしていないと思うわ。
句郎 マスコミに煽られているのかもしれないな。でも急がば回れという言葉があるとおり、核兵器の違法性、世界に核兵器があってはならないという核兵器禁止条約の精神を核兵器所有国に理解してもらうよう働きかけていくしか、世界の平和を実現する道はないと思うけどね。