北海道の夏は短くて、故郷室蘭は鬱陶しい梅雨がない代わりに7月中旬くらいまで冷たい濃霧が立ち込める港町。
娯楽が少ない港町の少年時代、夏の楽しみは輪西町は中島神社のお祭りでした。
屋台がたくさん建ち並ぶ縁日です。
そう言えば「縁日」なんて東京に暮らすようになってから知った言葉。
僕らは年に一回、浮き浮きとした気分になれて、そして終わってしまうと儚く切なくなる僅か2日間はやはり今でも「お祭り」であって「縁日」ではないんですね。
さて、そのお祭りで傷痍軍人がハーモニカを吹いているところを逃げるように走り去り、一目散に駆けつけるのは「ひよこ売り」でした。皆さんの土地、時代には「ひよこ売り」はありましたか?
「ひよこ売り」はまさしく、ひよこを売ってるんです。タンスの引き出しのような箱の中で何十羽かのひよこがおしくらまんじゅうをしています。
雨上がりの土の匂い、潮を運ぶ夜の風、餌と糞、綿菓子の甘い香り、哀しいハーモニカのメロディ。裸電球に照らされてピーピー鳴くひよこ。
ひよこは2種類。黄色い普通のひよこが一羽30円。黒いひよこが50円です。(カラーひよこが出る前の話)なんでも黒いのが丈夫で長生きするらしいんです。
命がひとつ30円。今思うと切ないなあ。そしてまだまだ貧しかったんだよなあ。
ある夏、私は黄色いひよこを確か三羽買いました。3つの命が100円でお釣りがくる値段で買ったのでした。
ひよこ売りのオヤジはボールを握るような乱暴な手付きで、粗末な茶色の紙袋に放り込み私に手渡してくれました。
私は紙から伝わる体温を感じつつ、多少ぐったりした様子のひよこを抱き抱え家へ帰るのでした。
続く
写真は本編と全く関係のない辻堂の名店、旬菜みうらの絶品お料理です。
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