外人客の接待のために数人で東銀座のフレンチに行った時のことです。
山口さんは外人に一番遠いテーブルの端っこの席を猛然と死守することから始まります。
全員が着席した頃を見計らってオシャレなウェイターがフレンチスクリプト体で書かれたメニューを渡してくれます。
メニューは日本語はナシ。
フランス語で料理名が書かれ、英語で料理の簡単な説明書きがあります。
仏語はしょうがないとして、英語もちんぷんかんぷんな山口さんはもうどうしてよいのか分からず緊張しまくりです。
そんな緊張感に見舞われているのが見え見えの正直者でも、見栄は張りたいらしくフレンチにはよく来ている的な子供のような嘘をつくのです。
さあ、ウェイターが前菜からメインディッシュの説明をしてくれます。
「メインディッシュは今日は4品からお選び出来ます。」
「え?全部を少しずつアラカルトではダメなの?」
「山口さん!恥ずかしいから喋らないで話を聞きましょうよ。すみません、じゃあ始めから説明してください。」
「かしこまりました。本日の魚は舌平目のムニエル、スズキのポアレ、お肉は小羊のステーキ、鶏の林檎ソースでございます。」
山口さん、もう何が何だか分かりません。料理の名前を聞いても実際どんなものが出てくるのかイメージの欠片も沸かず席で石のように固まっています。
「じゃあ、私は肉で小羊を!」と私。「私はスズキをください!」「う~ん、じゃあムニエルをお願いします。」「I'll take a chicken please」とすらすら決まっていき、山口さんの番。
「う~ん、何が何だかさっぱりわからんで、びっくりしたぞ!朴ちゃんは何頼んだの?」
「私は小羊ですが、他も旨そうですよ。」
「う~ん、う~ん」と固まる山口さん。
唸りながら2分経過。さすがにウェイターの表情にも苛立ちと面倒臭さが見て取れます。
我々も恥ずかしいやら、喉は渇くわで、かなり苛立って来ました。
唸りながら3分経過。
流石に誰かが「山口さん!早く決めてよ。迷惑でしょう⁉︎ 店にも外人のお客にも!」と怒り始めたのをきっかけに、全員が山口さんの態度に呆れたような発言を浴びせ、かつ早く決めるように急くのです。
皆んなの怒りや冷ややかな表情をようやく察した山口さんですが、もう慌てて何が何だか分かりません。
「じゃ、ぼぼぼ僕は、ここここの、小小小小小小小小」
「小小小 子犬(こいぬ)ください!」
一同、暫し沈黙!
次いで大爆笑!ウェイターはプロなので「かしこまりました、小羊ですね。」と言ってはいるものの、肩が震えています。
外人客「Oh! What happen? Why do you laugh?」「Yamaguchi San has ordered Puppy 」と言い間違いを含めて誰かが説明してやると外人客も大爆笑!
で、当の山口さんは自分の言い間違えには当然気づくことはなく、思いがけずウケた自分の発言に気を良くして、
「いえ~す、いえ~す! アイ アム ア パピー! パピー! なんかわからんけど、びっくりしたぞ!」と上機嫌。
一方、まだデザートやワインのオーダーを聞けていないウェイターは俯いたまま激しく肩を揺らしながら笑いを堪えていたのでした。
写真は本編と全く関係ない私が愛してやまない横浜鶴屋町の魚介類のお店「角一」
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