一昨年に逝った母のお話にお付き合いくださいませ
それは朴竜中学生の頃、5月のとある晴れた日、開けた窓から1羽の文鳥が家に飛び込んできました
桜桃色の嘴、雪のように真っ白で儚い躰、小豆色のつぶらな瞳
小首を傾げて挨拶をしてるようです
近所では文鳥を飼っている家はありませんから、遠い場所から飛んで来たのでしょう
返す先の検討もつきませんし、放せばカラスや猫に殺られることは必至
懐っこく肩に乗ってくる文鳥に満更でもない母は「飼ったらいいいじゃない。」と意外に寛容な態度です
そうしてよく慣れた迷い文鳥は朴竜家の一員となりました
数ヶ月後の或る日
文鳥の姿が見えません
11月の北海道ですから窓は開けていないため外へ飛んで行くことはありません
では、何処にいるのでしょう?
母は自ら家の中を必死に探し回ります
私と弟に積極的に指示を出します
見つからないこと一時間
突然、母が叫びました!
「お兄ちゃん!文鳥死んでるよ。ホント、どうしたんだろう? お〜 可哀想にねぇ、よしよし。どうしたんだろう?」
と眼を閉じて硬くなっている文鳥を掌に載せています
熱し易く冷めやすい弟は直ぐに泣き出します
ん〜?
なにやら、芝居がかった節回しと嘘泣きの涙のようです
「お母さん、ちょっといい?あっちでふたりで話そうよ。」
一瞬、たじろぐ母
「いいから、いいから、ちょっと来てよ。」と別室で母と向き合います。
「お母さん。文鳥、お尻で踏んだでしょ?ワザとじゃないのはわかってるけどさ。」
「いやいや、そんなことするわけないっしょ!探していたら、死んでるの見つけただけだべさ!」
「い〜や、そうじゃないよね。確かにお母さんはクッションの処に死んでた文鳥を見つけた。でも、死んだのはその前にソファにいた文鳥をお母さんが気がつかないで踏んだんだよね。」
「だから文鳥がいなくなったと思ったんだ。で、みんなで探し回ったんだ。まさか、自分が踏み殺したとは言えないから、嘘の芝居をしてるんでしょ?」
「な〜んも、そったらことないっしょ。アンタ、母親を疑ってるのかい?」
「うん。疑ってる。嘘ついてるでしょ?」
「母さんがそんなことするわけないっしょー。」
「いや、ワザとだとは思ってないけど、間違って踏んだんだよ。」
結局は肥後女の母は決して自分の過ちを認めませんでした。
それから幾星霜。母が逝く一年前に何かの話の流れから
「いや〜、昔、文鳥踏み殺したんだよね〜。」
と穿つにも自白してしまった母
「やっぱりね。やっぱりお袋だったわけだな。」
「あれ?言ってなかったかい?いやいや、あれは見つけた時はもう死んでたんだあ。」
お袋、もういいんだってば
そんなことを思い出しては笑います
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