本当にあった怪談話
それはおよそ10年前の暑い夏、山陰のとある街に出張に行った時のことです。
私が駅改札を抜けるのを待っていたかのように雨が降り出し、空が急激に暗くなり始めました。
雨宿りも兼ねて夕方近くのアポの時間までどこかで時間を潰さなければならない私はとりあえず、駅から近くの唯一のビルでしょうか、古い朽ち果てそうなデパートで涼むことにしました。
そのデパートは昭和30年代から40年代後半に建てられたような佇まいで、ひと気のない暗いフロアーには調子外れのBGMが流れます。
ひとまず5階建のビルの2階フロアーにある書店で立ち読みをして時間を潰しましたが、それもにも飽きてしまった私は書店前にあったエレベーターで上まで行ってみようと考えました。
エレベーターは2基あり、ひとつは点検中のようで転落防止に置かれた黄色いバリケードの後ろには、エレベーターのドアが開いており黒い深い闇が見えています。
もう1基の稼働中のエレベーターを待つのですがなかなか動きそうもありません。
2階のエレベーターホールには私のほかに、70代半ばのおばあちゃんとその娘さん(たぶん40歳後半)、女子高生二人組、デパートのテナントさんが2~3名、そして小学校低学年の女の子と幼稚園の女の子の手を引いたお母さんがいます。お母さんは長い髪で顔が良く見えません。
子供たちは大人しくエレベーターが来るのを待っています。 と、その時点検中のはずのエレベーターが突然動き出したのです。
でも、エレベーターの扉は開いたままです。
エレベーターを昇降させる太く古そうなワイヤーがギシギシと嫌な音で軋みはじめ、エレベーターの箱がガタガタと音を立ててゆっくりと上がってきます。
そして突然ガタッと大き揺れて途中で止まってしまいました。
黒い深い闇をみると、その箱は十分に登りきらずに箱の屋根の部分が丁度エレベーターの床辺りの場所で動かなくなってしまいました。
ハコはガタガタと音を立てワイヤーはキーキーと泣いていてまるで誰かを呼んでいるようです。
と突然、ふたりの女の子の手を引いたお母さんが黄色いバリケードを横に滑らせて、その隙間から3人でゆっくりとまるで普通のエレベーターに乗るかのように、箱の屋根に乗ってしまったのです。
え?何?間違ったのか?危ないよと思い私は慌ててその親子を引き戻そうとエレベーターに駆け寄ったのですが、私の前でドアは閉じて、3人の親子を載せたハコは上へ登っていったのです。
ビックリした私と一緒に驚いて悲鳴を上げたのはおばあちゃんとその娘さん。
他の人達は何故悲鳴を上げたのかが理解できません。
私とふたりは眼を合わせて「今、見えたよね?」と無言で語りました。
怖くなった私はもう階上へ進むことなく階段を駆け下り早々にデパートを出たのでした。
お後がよろしいようで
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