記憶とは、通常、「過去に起こったもの」という 前提があるけれど、記憶という感覚を、「自分の人生で 起こるあらゆる事象においての具現化と連続性」と捉える時、これから我々が体験するであろうこと、そうなって 欲しいこと、また、そうなると予測されるものとして、「未来の記憶」という概念が、重要性を帯びてくる。
未来記憶とは、通常、我々が、「今現在より先の ある時点(明日かもしれないし、大晦日かも知れないし、 来年の今日かもしれない)で、何らかの行動に出たり、 予定を実行することを『覚えている』という記憶」を指すのだけれど(なんだか分かりにくい説明だ。 書いている自分もよく分からない)、基本的に、我々人間は、明日も明後日も、一週間後も一年後も「自分が生きていること」を前提として、今を生きている。
今日の行動のすべてがそうではないだろうけれど、 そのうちのいくつかの行動は、自分の近未来のために行ったことだったりする。誰でも、「来年の今頃自分は」という、自己イメージは、多かれ少なかれあると 思う。ここで大事なのは、この「未来のイメージ」は、現在の自分自身の自己同一性と密接に結びついていて、現在と未来は「連続」している。
ところが、癌や、自然災害や、性犯罪や、事故など、自分にとって、あまりにも脅威で衝撃的なことを経験したとき、人は時に、「未来における自己イメージ」を失い、そこには「不連続性」が生じてくる。
連続性の断絶と言ったほうがいいかもしれない。
これは、言うまでもなく、自分とは何かと言う、 Identityにおける脅威であり、未来が分らないゆえの、絶望感に見舞われたりする。
癌の生存者においてもこれが言える訳で、死の恐怖を長期に渡って体験したり、手術による身体部位の切断によって、以前とは違う形の身体となり、それは、今までの、
自分のボディ・イメージがある日突然、永久に変わってしまうわけで、そこには明らかな自己同一性の断絶があり、未来像も大きく変わってしまう。
「今年のクリスマスは何をしようか」
このような、普段我々が、全く当然のことのように考えて、計画している未来は、今の精神・身体機能を持った自分がその時点でも変わらずにいることが、実は大前提になっている。
未来の記憶について考えるとき、今自分が当たり前だと思っていたことが、掛け替えのないものなのだと思いがけず気付かされたりして、それはなんだか未来からの警告のような気がする、今日この頃だ。
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この記事は、2005年の12月上旬に書かれたものです。
当時私は癌の生存者の心理について研究していて、その時に
未来記憶について学びのときを持ちました。
Future Memoryは、 Prospective Momory(展望記憶)
とも呼ばれます。
我々の、自己同一性(アイデンティティ、Identity)、つまり、自分が誰であるか、 自分とは何かなど、「自分と言う存在における自分なりの 概念」には、「記憶」という要素が重要な役割をもって いる。
嬉しいコメントをどうもありがとうございます。
これからも気軽にどんどん来てくださいね。
至らないものですが、今後ともよろしく
お願いします。
色々困難も多く、しかし、やり遂げなければという自負心もあり、心を開放する術がない状態でした。
然しながら、よだかさんのこのブログを拝見していると、人間の様々な側面に分析的に触れる事ができ、なぜか癒されます。
きっと、ある種の人間の弱さというものを知り、自らの非力さの慰みになっているのかも知れません。
今後もぜひ拝見させて頂きますので、いろいろ教えて下さい。
有意義なコメント、ありがとうございます。
とても関連性の深いお話だと思います。我々の
Identityは-とりわけ集団主義的な
文化的特色の強い日本人においては-周りの人間との
関係性が密接に関係しているもので、未来記憶に
おいても、その、現在の(信頼)関係が前提に
ある上で形成されますね。
ところが、様々な状況から、当初は信頼していた
人たちが信頼できない人たちに変わってしまった。
こういう状況下で、人は「裏切り」を体験する
ものだけれど、その体験は時にあまりにも
ショックで、Traumaticであり、そこに
一種のIdentityの不連続性が生じる
可能性が考えられます。
そこで、今まで存在していた未来記憶には
大幅な修正が要求されるわけだけれど、そうした
Damagingな人間関係の傷を消化して
新たな防衛機能を身につける過程で、その人の
Identityは更新され、その結果未来記憶も
変わっていくのだと思います。
やはり、我々のIdentityと、記憶と
いうものは、未来記憶を含め、相互に影響し
合っているようですね。
人間は弱いからこそ、それを防御する為新たな自分を生み出し、未来の記憶も変えてしまうものなんでしょうかね。