興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

責任

2024-10-12 | 戯言(たわごと、ざれごと)
 朝。

 幼稚園に向かう車の中で、息子がふいに言った。

「のどかわいた」

 それで自分は、水筒を持ってこなかった事を一瞬後悔し、その直後、後部座席には、彼の手の届くところに、アンパンマンの小さな紙パックのりんごジュースがあった事を思い出した。

「そこにあるアンパンマンのりんごジュース飲みなよ」

と言うと、彼は、

「のみたいけど、ままにおこられる」

と答えた。

 なるほど、彼はさっき出発前に妻との交渉に成功して、今日のおやつに食べる事になっていた下駄饅頭を車の中で食べていたのだ。下駄饅頭を平らげて喉が渇いたので、ここでさらにりんごジュースを飲む事には抵抗があるのだろう。しっかりしているなあと思わず感心した。

 こういう事で妻は怒らないと、自分は夫婦であり大人だから感覚的に分かるけれど、どうして彼がそう思うのかはよく分かる。もしかすると最初はちょっと怒るかもしれないけど理由を話せば必ず分かってくれる。

「大丈夫だよ。ママ怒らないから飲みなよ」

と言うと、

「おこるよ!」

と返ってきた。

「うーん、怒るかなあ。こういう事でママ怒るかなあ」

「おこるって」

「でもさ、パパが飲んでいいって言ってるんだよ」

すると彼は、

「だれがせきにんとる?」

というので、その思わぬ発言に驚きつつ、

「パパが責任取るよ」

と即答した。

 ただ、飲みたいけれど飲まない、というのは彼なりの責任ある行動と自制心の表れで、この彼の気持ちを大事にしたいとも思い、ここは飲ませないのが良いのかな、でも喉渇いたと連呼してるし、目の前にあるりんごジュースを飲めないのもかわいそうだな、どうしようと葛藤を感じた。

 しかし彼は、そんな自分の心の動揺が伝わったためか、或いは父親に威厳がないためか、恐らく後者だと思うけれど、

「う〜ん。でもおこられる」

と言って、飲むのを躊躇っている。

 幼稚園に着いたら、彼が自由に飲める麦茶が常備してあるけれど、残念ながら幼稚園へはまだ道のりがあった。

 自分は考えがまとまったので、彼に言ってみた。

「ねえ、S。こういう事だよ。Sは今喉が渇いているけどお水がない。でも車の中にはりんごジュースがある。そして幼稚園に着くまでまだ時間が掛かる。だからSはりんごジュースを飲む事にした。パパも飲んで良いって言ってる。こんな事でママ怒らないって」

 すると彼は納得したようで、パッと明るくなり、そうだね、のもう!と、素早く紙パックにストローを挿して飲み始めた。「おいしい!」と言いながらとても嬉しそうに飲んでいる。

 自分は息子の中に確かに育まれている自制心と責任感に感動し、そういう風に育ててくれている妻に感謝の気持ちを抱きつつ、妻に損な役回りをさせてしまっている自分の甘さに嫌気が差し、なんだか複雑な気持ちで、りんごジュースをストローで無心に啜る息子をバックミラー越しに見ていた。







小さなふたつのブーケ

2024-09-09 | 戯言(たわごと、ざれごと)

ご注意: 自殺をテーマに扱ったエントリーです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先日の日曜日は、横浜で出張カウンセリングの仕事があったので、一か月振りに、横浜に行った。

 最初のセッションは9時半だったが、横浜駅に着いた時、それまで一時間以上余裕があったので、ずっと気になっていた横浜駅西口のNEWoMan前の広場に向かった。

 そこで、8月31日の夕方に、千葉県の女子高校生が飛び降り自殺をし、下を歩いていた32歳の会社員の女性が巻き込まれ、ふたりとも亡くなってしまった、という痛ましいニュース記事を一週間前に読んでから、そのことがずっと頭から離れなかったのだ。

 具体的な場所までは知らなかったけれど、広場に行くとすぐに、たくさんの花束やペットボトルの飲み物のお供え物が置いてある一角が視界に入ってきた。

 自分はなんだか胸が締め付けられる気持ちでそこに行き、手を合わせていたら、涙が溢れてきて止まらなくなりそうになり、何とかこらえて、とりあえずその場をあとにした。

 何かお供え物を、せめてお花でも、と思ったけれど、早朝の横浜駅近辺は、どの花屋もお店も閉まっていたので、仕事が終わったらまた戻ってくることにした。

 セッションは7件フルに入っていて、今回も、一つひとつのセッションが充実したものだった。

 すべてのセッションが終わった後、いつもは心地よい疲れで満ち足りた気持ちになるのだけれど、今回は気が重かった。

 

 

 いつものことだけれど、日曜日の夕方の横浜駅周辺は、とても活気があり、人々でごった返していた。

 昔から、横浜駅を歩いている時、視界に入ってくるいろいろな人たちを見るのが好きだ。ここには老若男女、本当に様々な人たちがいて、いろいろな表情の、いろいろな出立ちの人たちがいて、そこには自分の知らない本当に数えきれないほどの生活と人生があるのだと感じる。とにかく自分は人間が好きで、人々の人生やその人間の営みに、強い興味を持っている。

 でもその時自分の頭の中にあったのは、会ったこともないふたりの女性のことだった。

 お供え物は何にしようか、ふたりは一体どんなものが好きだったのだろう。飲み物はもう本当にたくさん置いてあったし、ぬいぐるみは濡れてしまってはかわいそうだ、お菓子は虫が湧いてしまうかもしれない、烏など来るかもしれない、化粧品などは違うと思う、なんだろう、やはり花がいい、と、一件目の花屋に行ったけれど、ピンとくるものがなかったので、何も買わずに、その花屋をあとにした。本当は大きな花束にしたかったけれど、いつか片付ける人が大変だとも思い、小さなブーケがいいなと思って、2件目の花屋に行ったら、イメージしていた小さな花束がたくさんあって、安心した。

 そこでまた、ふたりのことを考えた。

 その女子高校生と、32歳の女性は、一体どんな人たちだったのだろう。当たり前だけれど、分かるはずもない。それでも考えた。ふたりはどんなものが好きだったのだろう。好みもまた違うかもしれない。全然分からなかったので、時間を掛けて、2つの異なった種類のブーケを選んでレジに持って行った。店員さんに、「ご自宅用ですか?」と聞かれ、はっとして、一瞬迷ってから、「あ、ギフト用でお願いします」と伝えた。

 店員さんからそのふたつの小さなブーケを受け取ると、軽いはずのその小さなブーケたちがとても重く感じて少し驚いた。何とも言えない複雑な気持ちで、その重いブーケを持って、今朝行った広場に向かった。

 朝はひと気の少なかった、広場までのその通路は、ものすごい数の人々でごった返していた。

 一週間前の土曜日も、きっとこんな感じだったのだろう。

 自分のしていることはどうしようもない自己満足であることは重々分かっていたけれど、それでも、とにかくふたりのためにどうしても何かをしたかったのだ。

 

 広場に着いた。

 他にもだれか手を合わせている人がいるかなと思ったら、その周りだけ、心持ちがらんとしていて、手を合わせている人はいなかった。

 ずらっと並べられたペットボトルとたくさんの花束を目の前にすると、そこはなんだか横浜駅の雑踏とは切り離された異空間のようで、少し空気が薄く感じた。背筋がぞっとして、うまく言葉にできない寒気を感じたけれど、ふたりの死に向き合わなければと思ったら、そうした感覚は消えていった。

 びっしり並んだお供え物たちのなかに、ちょうどよいスポットを見つけて、持っていた2つのブーケをそっと置いた。すると、自分が置いたブーケのちょうど隣に他の誰かが置いたブーケが、自分が持ってきたブーケのひとつと同じものであることに気づいた。会ったことのないその誰かも、きっと自分と似たような気持ちだったのかもしれないと思い、なんだか少しだけ嬉しかった。

 目を閉じて、手を合わせて、ひたすら祈った。ふたりが、痛みや苦しみのない、楽しい世界で、ずっとずっと幸せに暮らせますように、残されたご家族やお友達が、どうにか守られますように、どうにか少しでも癒しがありますように。

 再び涙が込み上げてきたけれど、そこには本当にたくさんの人がいたので、再び涙をこらえて、ゆっくりとその場をあとにした。

 少し離れたところでなんとなく立ち止まって、高くそびえたつピカピカのNEWoManをしばらく見上げて、深いため息をついて、再び歩き始めた。

 

 高校3年生の、ちょうど2学期が始まるタイミングで、こんな賑やかで楽しい繁華街で、彼女は一体どんな気持ちだったのだろう。これだけたくさんの人が歩いていたら、誰かを巻き込むことになってもおかしくないのに、きっとそんなことも考えられないほどに思い詰めていたのだろう。分からないけど、計画的にそこから飛び降りたんじゃないだろうと思った。ちょうど、電車に飛び込む多くの人たちのように。

 それから、巻き込まれてしまった32歳の女性。正直、彼女が一番気の毒だと思う。その女性は、会社員で、お友達3人と一緒に歩いていたという。32歳と言えば、自分がアメリカで博士号を修得した頃だ。きっと、まだまだ本当にたくさんやりたいことがあったはずだ。日本人女性の徒歩の平均速度は秒速1.3メートルだという。ほんの1、2秒違っていたら、などとどうしても考えてしまい、また、もし自分の身内にそんなことが起きたらと考えてしまい、どうにも胸が苦しくなり、何とも言えない気持ちになった。一緒に歩いていたご友人やご家族の気持ちは想像もできない。考えただけで発狂しそうになる。

 

 こうした悲劇をひとつでもなくしていく事が自分の仕事だけれど、このように出会う事ができない誰かのために自分には何ができるだろうと答えの出ない問いについて考えながら、混沌とした日曜日の夕暮れの横浜駅を歩き続けた。

 

 


2024-05-01 | 戯言(たわごと、ざれごと)
 3ヶ月ぐらい前から、5歳の息子が、幼稚園に電車で行くと言い出して、以来平日はほぼ毎日電車で幼稚園に行っている。

 幼稚園バスはなく、車で30分弱のところで、幼児の足取りで電車で行くと、毎朝がちょっとした冒険になる。

 火曜日と水曜日は大学勤務の通勤がてらに、木曜日と金曜日は在宅ワークの運動不足がてらに、月曜日は仕事が休みで元々彼にとっての終日「パパデイ」で、息子と一緒に過ごす時間が増えたのも嬉しい。

 今朝は息子は結構な咳が出るのでお休みで、久々に一人で駅に向かった。

 小雨が降っていた。

 小雨を見るたびに不思議と思い出すのは、あるヨーロッパの男性との会話だ。その人は日本人女性と結婚していて、ある雨の日の妻との諍いについて話していて、

「ちょっと雨が降っていました。僕の国では大した雨じゃないけど、日本人からすると結構な雨で・・・」

と、流暢な日本語で彼は言った。雨の感覚の違いは私がLAに住んでいた時にもよく感じたもので、その話のくだりで少し盛り上がった。

 傘を差していこうか迷ったけれど、霧雨のようだったし、息子と二人だったらまず傘が邪魔になるような雨だったので、傘は差さずに出掛けた。いざとなれば鞄の中に折り畳み傘が入っている。

 息子がここにいたら、お気に入りのレインコートを着て、お気に入りの長靴を履いて、お気に入りの傘をテキトウに差して、嬉々として走り回っていた事だろう。

 雨足が少し強くなってきて、ああ、やっぱり傘持ってくれば良かった、と思いつつ、鞄から折り畳み傘を出すのも何だか癪で、走るのもまた癪なので、早歩きで駅に向かった。



about same-sex marriage…

2024-03-19 | 戯言(たわごと、ざれごと)
In this morning, when my 5-year-old and I were taking a walk, he asked me a question:

He: Is it possible for a man and a man to marry?

Me: Oh sure! It’s possible in many countries, including US, but not in Japan yet.

He: Why not?

Me: Well, Japan is behind the times.

He: What do you mean??

Me: Well, Japan is an old country, and there are still so many people who believe only a man and a woman can marry, which is untrue. 

In reality, a man and a man, or a woman and a woman can marry. And Japan is getting closer. It’s going to be legalized soon.

He: Right? They can marry. And a man and a man or a woman and a woman can make a baby???”

Me: No, they can’t. 

He: I knew it! That’s not good, isn’t that?

Me: Not really. There are many married people who are happy without any children. 

He: But they are lonely without children, aren’t they?

Me: Well, not necessarily. But many same-sex married people get babies from others. 

He: That’s not good, isn’t that!?

Me: Oh, there are actually so many babies who don’t have parents, and they really need parents.

He: Is it right!? Why don’t they have parents?”

Me: Well, there are so many different situations. But isn’t it good that a married couple who really wants a baby but doesn’t have any will get a baby who really needs parents?”

He: Yes! This is good. Then why can’t they marry in Japan?

Me: Well, Japan is behind the times. But no worry. It’s going to be possible soon. 

He: That’s good!

I think he remembered a recent conversation between my wife and I when I excitedly told her a news that a superior court in Japan just decided that it’s a violation of the constitution that Japanese government doesn’t allow same-sex couples to marry.

大根と人参

2024-02-13 | 戯言(たわごと、ざれごと)
 夕方、5歳の息子とふたりでスーパーに行った。

 3連休最終日のためか、スーパーは混んでいた。

 ここに来る前に行ったホームセンターでの買い物は1時間ぐらい掛かったので、きっとスーパーの買い物もとてつもない時間が掛かるだろうと覚悟して行ったら、彼は思いのほか協力的で、妻からもらった長めの買い物リストのアイテムがサクサクとカートの中に入っていき、予想外にスムーズだった。

 あとでお菓子を選んで買ってもらえる事が頭にあったからか、先ほどのホームセンターでUFOキャッチャーで取ってあげたウーパールーパーのぬいぐるみの効果が続いているのか、彼が大人の階段を登っているのか。

 そんなことを考えていたら、不意に息子が手を伸ばして大きな大根を掴んで籠の中に入れようとした。

 彼の小さな体と大きな大根の対比がかわいくて思わず笑ってしまい、

「え?大根?大根食べたいの?」

と訊ねると、

「ママがせきしてるから。はちみつだいこん つくってあげないと!」

と、すかさず答える彼の優しさに嬉しくなり、

「なるほどね! うん! いいねいいね! Sは優しいね!」

と言うと、彼はすまし顔で、今度は素早い動作で袋入りのニンジンを掴んだ。大きなニンジンが3本入っている。

「え、ニンジン? S、ニンジン嫌いじゃなかったっけ?」

と聞くと、

「さいきん ようちえんの うさぎさんのえさがすくないから」

と即答するので、これにも思わず感銘を受けて、

「なるほどそうなんだね、わかった、ニンジンも買おう」

と言うと、彼は嬉しそうな顔をして、「つぎいこう!」と言って慣れた動作でカートを押し始めた。



チョコバナナ

2024-01-28 | 戯言(たわごと、ざれごと)

 今日の午後、自宅の仕事部屋でセッションの準備をしていると、一階から、5歳の息子が「パパーっ!!」と呼ぶ声がした。

 自分はすかさず時計を見た。

 次のセッションまで10分ほどある。息子が階段を上ってくる足音がする。きっと「パパ、あそぼう!」というだろうと思い、10分でどうやって彼を満足させようかと考えていたら、部屋のドアが開いた。

 ところが扉の前に現れた息子は、両手で大事そうにお皿を持っていて、そのお皿の上には、小さなチョコバナナが載っていた。

「はい、これ、パパのおやつだよ」、とお皿を差し出すので、自分は驚いて、

「え、これ、Sが作ったの?」

と聞くと、

「そうだよ」

と、彼は得意そうに答えた。

「上手じゃん!よくできたね!おいしそうだね。これ本当にパパがもらっちゃっていいの?」

「うん」

「ありがとう!!パパ、すごいうれしいよ」

「パパ、しごとなんじにおわるの?」

「これが最後のセッションだから、5時だね」

すると彼は、

「え~、5じまでまてないよぉ」

と言いつつも、「またあとでね」と言って、すたすたと階段を下りていった。

自分は思わず何度も礼を言い、息子のうしろ姿はどこか誇らしげだった。

 


新年あけましておめでとうございます。

2024-01-04 | 戯言(たわごと、ざれごと)

皆様、新年あけましておめでとうございます!

北陸大震災で被災された皆様、心よりお見舞い申し上げます。また、一日も早い復興をお祈り申し上げます。

 

これから始まる一年も、皆様お一人おひとりとの掛け替えのない交流を、心待ちにしております。

今年も一年間、どうぞ宜しくお願い致します。

 

黒川


こちらの写真のひまわりは、昨年末に開花して、今も元気に咲いております。10月に息子のリクエストで半信半疑に一緒に植えた種子が無事開花しました。




 


『カタオモイ』

2023-10-18 | 戯言(たわごと、ざれごと)

 いつからだろう。

 夕方に風呂釜を洗う時に浴室で吹く口笛が日々の小さな楽しみになっているのは。

 口笛は、亡き父がよく吹いていた。父は寡黙な人だったが、酒が入るとよくしゃべった。そういえば、酒に酔った彼が口笛を吹いていたのは見たことがない。今思ったけれど、もし父が酩酊状態で口笛を吹いていたら、自分は今頃口笛を吹いていなかっただろう。

 どうして彼が口笛を吹いていたのか、今ではよくわかる気がする。そして気づいたら息子も口笛を吹き始めている。5歳児がこんな風に上手に口笛を吹けるとは知らなかった。音階はまだだけれど、それも時間の問題で身につけるだろう。父は自分に口笛を教えていないし、自分も息子に口笛を教えていない。

 口笛の良さのひとつに、普通に歌うよりもずっと音域が広いということがあると思う。演奏する曲は、その時によく聴く曲の場合が多い。最近は、Aimerの『カタオモイ』をよく聴いていて、気づいたらこの曲をよく演奏?している。

 先日ふと思いついた。Googleの曲調べ機能は自分の口笛からちゃんと原曲を抽出してくれるのだろうかと。この可能性を妻と息子に伝えて、「やってみるね」と言っていざやろうとすると、息子が競ってきてとてもできない。

 その時は諦めて、彼を幼稚園に送って行った後で、静かな仕事部屋で再び試してみた。

 意識を集中して、サビの部分を吹いてみたら、Googleはすぐに認識してくれて、しかも表示された3つの提案曲全てが『カタオモイ』で、妙に嬉しくなって「よっしゃ!」とガッツポーズをしてその画面をスクショして、階段を駆け降りてそれを妻に見せて、彼女の「ふーん」というクールなリアクションを見て、ふと我に返った。

 誰もいない部屋でひとりでスマホに向かって口笛吹いて、一体自分は何をやっているのだろうと。


 


フレグランス

2023-10-09 | 戯言(たわごと、ざれごと)

 十代の終わりぐらいからフレグランスが好きで、貰ったものや、自分で買ったものなど、香水をたくさん持っていた。

 いろいろな色や形や手触りの瓶も好きだったし、毎日、その朝の気分によって使い分けるのも日々の小さな楽しみだった。

 渡米してからもそれは変わらず、帰国してからは、日本社会に「香害」という概念があることを知り、かなり控えめになったけれど、香水のある生活は続いていた。

 しかし、5年前に子供が生まれて間もなく、妻に、

「〇〇が、ギャル男の匂いがするんだけど」

と言われてはっとした。生まれてきた息子がかわいくてかわいくて仕方がなくて、家にいる時はとにかくずっと抱っこしていて、それは、「原初的母性的没頭」ならず、「原初的父性的没頭」の如しで、何かの用事で息子を妻に委ねて出掛けて帰ってきたら言われたのだ。

「なるほど。。ギャル男の匂いのする赤ちゃんとかちょっと嫌かも」

「そうだよ。それに、赤ちゃんは嗅覚も敏感だし」

「そうだよね。わかった。香水を使うのはもうやめよう」

「うん。〇〇が赤ちゃんの時はそうして」

「そうだね。間違いない。使わないようにするね」

 こんな感じで、自分の香水ライフは終わったけれど、最近、なんとなく立ち寄ったお店で、ちょうど一番最後に使っていたフレグランスととてもよく似た匂いに出くわして、フレグランスのある生活が懐かしくなった。

 家に帰って、なんとなく封印していたその香水の瓶を取り出して、そっとひと押ししてみたら、それはやはりとても好きな匂いで、なんだか楽しい気持ちになった。「香害」とか気を付けながら、再び生活に取り入れていこう。これは妻から貰ったものだけれど、再び妻から、もしかしたら、息子から、何かよろしくないフィードバックを貰ったら、またやめようかなと思う。そうならないように、自分にしかわからないくらいの微量で使っていこう。誰にも気づかれないように。自分だけの密かな楽しみに。海外のフレグランスは微量でも強いので、そんなことが可能だとも思えないのだけれど。

 


初冠雪

2023-10-07 | 戯言(たわごと、ざれごと)
きのうの朝。

車で息子を幼稚園に送っていく時に、フロントガラス越しに見えた富士山はいつもと何かが違っていて、思わず二度見すると、頂上に雪が積もっていた。私は興奮して、

「ねえ!見て!富士山にもう雪が積もった!」

と、後部座席に座っている息子に伝えると、

「わあ!もうゆき!?どうして?はやすぎるでしょ!」

と嬉しい反応をしてくれたので、

「富士山の上の方は、ここよりもずっとすっと寒いんだよ」

と答えると、

「ええ、なんで?」

と聞かれて、咄嗟に答えが思いつかずに、

「なんでだろうね。不思議だね」

と言うと、彼は突然楽しそうに、

「ゆうきやこんこん あられやこんこん」

と歌い出した。いつの間にか空で歌えるようになっている。途中彼が歌詞が分からなくてつっかえるタイミングでフォローしながら一緒に歌った。

「もう まふゆだね!」

と彼がいうので、

「まだ秋だけれど、あっという間に冬が来るね」

と返したら、いつの間にか雪の話になっていた。

 息子を幼稚園に送り届けて帰宅して、私は何だか慌ててリビングルームのハロウィンの飾りつけをした。