今回は、yumeさんからの3つ目の質問、「相性」について考えてみたいと思います。これも、多くのひとにとって、非常に興味深い課題ではないかと思います。以下がその質問の引用です。
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【3.相性とは何か】
私は相性は大切だと思っています。でも、相性の良し悪しの判断って難しいとも思います。相性って何でしょうか?「好き」とはまた違いますよね。
自分の考えとしては、相性がいいとは、対象物(人・物・こと)にとっても自分にとっても居心地が良かったり、やりやすかったり、いい効果があったりすることだと思います。相性の良さが、対象物との関係の持続性や自分の向上・負担にも大きな影響を与えると思います。
相性の良し悪しの判断の仕方や、悪かったときの対処法や心構えについて、心理学的なアドバイスがあればそれも教えてください
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一言で相性といっても、それにはいろいろな意味がありますが、yumeさんの質問文における相性は、Compatibilityに相当しそうです。Compatibilityとは、アメリカ心理学協会の心理学辞典によると、"the state in which two or more people relate to each other harmoniously because their attitudes and desires do not conflict" (APA, 2007)ということです。つまり、「二人またはそれ以上の人間が、それぞれの姿勢、態度、欲求、願望など衝突しないゆえに、調和良く(仲良く)関係しあう状態」ということです。逆に、Incompatibilityは、"the state of affairs in which two or more people are unable to interact harmoniously with each other" (APA, 2007)、つまり、「二人、またはそれ以上の人間が、仲良く(調和よく)交流できない状態」ということです。
これらの定義のポイントは、「Harmonious」、調和的、というところだと思います。Harmoniousに、調和的に交流できればCompatible, できなければ、Incompatible,ということです。アメリカで人気の定着している結婚相手を見つけるオンラインマッチングサイト、「eHarmony」など、この好例ですね。これはまさにその名前どおり、全く見知らぬ、まだ会ったこともない男女を、そのプロフィールなどによって相性を分析し、マッチングさせるわけで、いかにHarmoniousなマッチングができるかが要なわけです。
ところで、Compatible (Compatibility),Incompatible (Incompatibility)といえば、コンピュータ用語として、「互換性」、「両立性」などの意味でご存知のかたも多いと思います。あるソフトウェアと、そのコンピュータ、或いは、二つ、それ以上のソフトウェアが、うまく共存できるか、あるいはそれぞれの性質がお互いの存在を邪魔し合い、やっていくのが難しいか、ということですが、これは全く同じことが、人間関係にもいえると思います。たとえば、小さな会社の小さなオフィスに、もともと3人の従業員がいるところに、もうひとり加えることになったとき、その新しいひとりの性格などは(仕事内容にもよりますが)結構重要だと思います。その人が、他の3人とうまくやっていけるか、それともその人の参加でその小さなオフィスが混沌としたものになるか。
なんだか例によって話の収集がつかなくなってきたので本題に無理矢理戻りますが、相性は、「好き」とは確かに異なるものの、これらは深く関係しています。相性とは、冒頭のAPAの定義にもあるように、その人たちの態度、姿勢、欲求、願望、好みなどが似ていたり、共通であったり、また、相反しないものであるため、調和をもって関係しあえるわけで、また、人間は、自分と似たような好み、興味、価値観などを持った人に自然に惹かれることも知られています。そうしたものが全く異なり、共有するものがなかったら、ひとは互いに興味を持ちません。それから、興味や関心と関係していることですが、ひとは、自分と同じレベルの知性、知的能力、教育レベルのひとと惹かれあう傾向にあります。というもの、これらが互いにかけ離れていたら、ものの見方、考え方、世界観などが異なり、話が合わない、ということが多いからです。
ただ、好きであることと、相性とが、異なる事象であるのは、たとえば、性格、態度、興味、関心、知的能力、学歴などまったく異なっても、とても相性のいい組み合わせは少なくないことからも分かります。逆に、相性が最悪であるのに磁石のように惹かれあい苦労している男女もよく見かけますね。後者の場合、彼らは共有するものが多いものの、どうしても受け入れ難いものがあってうまくいかない、という場合が多いです。
ところで、何がどうしても受け入れ難いのかというと、これは以前お話した、Projectionで、互いに自分自身の持っている受け入れ難い性質を自分から切り離して相手に投げかけているからです。実はとても似ているゆえ、自分自身の受け入れ難い部分も共有していて、ゆえに互いが絶好の投影対象であるわけです。対処法としては、Projectionの記事でも述べたように、相手に投げかけているもの、相手の受け入れ難い性質をよく観察して、そういう性質を実は自分が持っていないか、考えてみることです。そして、もしその性質が、自分にも当てはまるものであると分かったら、それを自分の性質として受け入れることを心がけることです。受け入れられれば、それを自分から切り離して相手に投げかける必要がなくなるからです。
もうひとつ、相性について苦しむひとの特徴として、「人に好かれたい」、という気持ちがとても強いということがあります。その気持ちが強すぎると、明らかに自分と合わない人と、なんとかうまくやろうとして、相手とのこころの距離をうまく取れずにまずい人間関係のパターンに陥ってしまったりします。逆説的な話ですが、そのひとが過度に持っている、「人に好かれたい」という気持ちと向き合ってうまく調整できると、相性のあわない人とうまくいかないことにそれほど葛藤が起こらなくなり、うまい距離が取れるようになり、不思議とその人とうまくやっていけるようになったりします。要約すると、相性のよくないひととうまくやるには、まず、自分自身の「ひとに好かれたい」という願望とうまく折り合いをつけること、その折り合いによって、相手と適切な距離をもって付き合う、ということです。その新しい距離感で、互いに新しい良い発見があり、そこに新しい関係性がでてきます。また、なんだかこのひととうまく行かないなあ、苦手だなあ、と思ったら、あまり親しくなることにこだわらずに、まずは距離をもって、なぜそこに苦手意識、問題があるのかを見つめて、それぞれの投影の可能性について考えてみるのがよいでしょう。