興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

経験すべき自然な感情

2020-11-28 | プチ臨床心理学

「ポジティブシンキング」、「前向きに生きよう」といったスタンスが奨励される現代社会で、こうした考え方自体は良いと思うのですが、何事も行き過ぎると問題が出てきます。


私がしばしば気になるのは、物事を前向きに捉えようとし過ぎるあまり、過度な合理化をして、その事物に自然に伴う感情を経験する事を避けたり、怒りや不安や恐怖などの難しい感情を伴う行動を条件反射的に避けて生きている人たちです。


それはまるで、嫌な感情を経験したら自分が致命的に傷ついて立ち直れなくなるんじゃないかというような恐怖です。


また、自己肯定感や自己評価の向上、合理的でスマートな生き方が奨励される世の中で、HSPなどの概念も独り歩きし、対人関係を伴う嫌なことは避けて良いのだという誤った解釈をする人も増えていて、それもまた気がかりです。


嫌な気持ちになる事を必要以上に避けるゆえにいつまで経っても深みのある情緒体験に対する耐性ができずに精神的に未成熟な状態が長年続いている人たちです。


人間、何かに苦手意識を持って、それを避ければ避ける程に、克服の機会が得られずに、苦手意識が増悪するという悪循環があります。


我々人間が陥り易い代表的な認知の歪みに、「感情的推論」(emotional reasoning)というものがあります。


これは文字通り、その人がある物事に対して感じる感情を元にして、その物事の良し悪しを判断する傾向です。


例えば、社交不安のある人が、パーティーに招待されたものの、出席する事を想像すると不安が出てきて、行きたい気持ちもあるものの、こんなに不安なのは出席すると何か悪いことが起きるに違いない、と結論付けて早々に欠席の返事をしてしまうのも感情的推論です。


この方の社交不安の強さにもよりますが、比較的マイルドな不安であれば、むしろ出席する事で、何らかの心的報酬があり、自己評価が向上したりしたかもしれません。


もちろん、すべての感情的推論に問題があるわけではありません。


我々がこうした認知傾向になり易いのは、進化心理学的な理由があります。


現代のような複雑な文明社会になる以前は、こうした認知のパターンが社会的サバイバルに結びついていました。


「嫌な予感」がするのは、正当な理由が伴う場合も少なくありません。


私がここで問題にしているのは、感情的推論が誤作動したり、過剰反応しているケースです。


もうひとつ気になるのは、これも近年増えてきている印象がありますが、怒りや悲しみや恐怖や嫌悪といった難しい感情を無条件に悪いものだと信じて、こうした感情が伴う可能性のあるあらゆる行動を避けて生きている人たちです。


例えば、何らかの事情で不和になってしまった大事な人と歩み寄る必要がある時に、その過程で必然的に伴うであろう不安や恐怖をとにかく体験したくなくて、中期的、長期的に見たら双方にとって良い話し合いをいつまでも避け続けるケースです。


これが夫婦間葛藤や真剣お付き合いしている恋人との関係性である場合、避け続けている時間が長いほどに破局や離婚のリスクも高まります。


なぜなら、本当に親密な関係性には多かれ少なかれ、難しい感情が伴うものであり、この深みを避ける事で、親密になれなかったり、こころに距離ができて、親密さや信頼関係が失われてしまうからです。


こじれてしまった関係の人に歩み寄るのは、その人が大事な人であるほどに怖いものです。


なかなか分かり合えないかもしれないし、やり取りの中で互いに傷付け合う事もあれば、一時的な拒絶感を味わうかもしれません。


しかしこうした人生における事象は、本質的に、”no pain, no gain”であり、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」的な側面があります。


誰だってこういう事は嫌ですし、できれば避けたいものです。


しかし、何より怖いのは、必要な対峙を避ける事で大切な人を本当に傷つけてその人間関係が駄目になる事や、勇気を出せずに好機を逸する事を繰り返す事で、自分に失望する事ではないかとも思うのです。



うつ病のパラドックス

2020-11-19 | プチ臨床心理学
大切な人がうつ病を患った時、周りの人たちはしばしば善意から、何か気晴らしになる楽しい事をするように勧めます。

ご本人も早く良くなりたいですし、これは感覚的にももっともらしいので、いろいろなアクテビティを試みます。

これでうまく好転するのはマイルドなケースであり、実際多くの方が、そうしたアクテビティを思うようにできなかったり、できても楽しめなかったりして、無力感などから更に落ち込むという悪循環があります。

これは専門家からすると、実は当然の事です。

というのも、うつ病(大うつ病性障害、Major Depressive Disorder)の診断において、その中核的な症状に、「1日を通して、ほとんどの活動における興味または喜びの著しい減退」、という症状があります(この症状がうつ病の診断に必須というわけではありません)。

病前は楽しめていたこと、興味を持っていた事に対して、興味を失い、楽しめなくなっている状態です。

つまり、興味が湧かない、楽しめないからうつ病だと言うことができます。

その症状ゆえになかなかできない事を、意志の力でどうにかしようとしてもなかなか難しいです。

それではうつ病の人にこうした助言は不適切なのかといえば、必ずしもそうとは限りません。

というのも、人の情緒と行動は密接に関係しています。気が進まないながらに参加したイベントが思いがけず良いもので気分が上がった、というような経験をした方は多いと思います。この場合、行動が先で、行動の結果として気分が好転しています。

実際、私自身、うつ病でカウンセリングにお越しになったクライアントさんには、治療関係ができてきたら、行動療法的に、こうした何か無理なくできそうなアクテビティを試したり生活に取り入れるように助言する事があります。

ただ、先述したように、うつ病の症状について説明をして、なかなかうまくできなくて当たり前で、できたらしめたもの、ぐらいの気持ちで、焦らずに気長に取り組んでいくように助言していきます。

実際、うまくできるか、楽しめるかどうかはそれほど重要ではありません。

大事なのは、その試行錯誤そのものであり、その過程を通して回復の足掛かりが出てくる事も多いです。

例えば、ちょっとしたウォーキングですが、歩く事で、抑うつ状態の人の脳内に不足している、セロトニンという情緒の安定に重要な脳内物質の分泌量が増えることはよく知られています。心理的にも、家の中にいては得られない適度な新しい刺激を得る事は、こころの喚起にもなります。

最初は義務感から仕方なく歩いていた人が、ウォーキングを日課として続ける中で、徐々に歩くことが苦でなくなり、移動距離が増えて行き、電車やバスに乗って出かけられるようになるケースもたくさんあります。

つまり、うつ病を患った人がいろいろとアクテビティを試す事は、症状について少し勉強して、できなくても自分を責めない前提のもとで取り組む場合、有益である事が多いです。

本は読めなくなっちゃったけれどYouTubeはそれなりに楽しい、というならば、しばらくは何も考えずにYouTubeを見て時間を過ごし、YouTubeを見ながらゆっくりと今後の事を考えていけば良いわけです。

現実的なゴール

2020-11-18 | プチ精神分析学/精神力動学
日々の心理臨床の中でしばしばクライアントさんが希望される事のひとつに、その方を今現在も苦しめ続けている過去の出来事や人物などの記憶を消したい、完全に忘れてしまいたい、というものがあります。

そうした記憶は多くの場合、トラウマ化した記憶(traumatized memory)であり、実際にその人をひどく苦しめています。

思い出す時に伴うのは、怒りや恐怖や屈辱感や大きな失望や深い悲しみなど多岐に渡ります。

そうした難しい感情に加えて、動悸や息苦しさ、震えや発汗、吐き気などの身体症状を伴う事もあります。

いずれにしても、こうした種類のトラウマ化した記憶は、いわゆる「時間薬」が効かず、長い時間が経っても鮮明に、同じ強度で存在し続けます。

こうした記憶に悩まされるクライアントさんの心理臨床で、強い治療関係ができてから、適切なタイミングがあれば、私は以下のようにお伝えする事があります(ケースバイケースで、そうしない場合もあります)。

「その記憶(人物)の事を、完全に忘れ去る事は現実的ではないかもしれませんし、もしかすると、そうすべきでもないのかもしれません。

大事なのは、○○さんがその記憶をプロセスして、こころの折り合いをつける事で、そうする事で、たとえ思い出しても今のように心が乱される事がなくなっていきますし、その頃には、思い出す頻度もどんどん減っていきます」

すると、クライアントさん達は異口同音に、

「そうか、今までこの記憶をなんとか消し去りたいって頑張っていてそうすればするほど忘れられずにどんどん苦しくなっていたけれど、完全に忘れる必要はないんですね。

確かにこの記憶が苦しいから忘れたいわけで、思い出しても大丈夫になれば良いんですね。そんな日は来ますか?」

と仰られます。

「もちろんです。時間は掛かるかもしれませんが」、

と私は返します。

実際、2人でその出来事や人物や記憶について取り組むセッションを重ねていくうちに、皆さん、その記憶に煩わされる事が少しずつ減り、やがて克服されます。

その出来事や人物との事が消化されて、その方の自己同一性に統合されていくプロセスです。

トラウマ化された記憶が脱トラウマ化され、嫌な記憶に変わりはなくても、トラウマでは無くなるのです。

これは徐々に、段階的に起こる事であり、乗り越え始めた頃に、次第にクライアントさんには新しいテーマが出てきて、そうした記憶はセッションの主題から外れていきます。

サービス内容の更新

2020-11-12 | ┣ サービス内容

皆さん、こんにちは。

いかがお過ごしですか?

いつの間にか11月になっていますね。2020年もあと2ヶ月を切りました。なんだか早過ぎますね。皆さん、ニューノーマルの生活にもだいぶ慣れてきた頃でしょうか?

今回は久しぶりにサービス内容の告知をさせていただきたく、更新しています。

まず、対面で月1回の横浜カウンセリングは、申し訳ございませんが、今月も満席です。キャンセルなどありましたら随時報告させていただきますね。

ビデオ通話や音声通話による遠隔カウンセリングは通常通り行っております。

ご予約可能な日程は原則以下の通りですが、これ以外の時間帯でもご相談ください。

  • 月曜日: 1)午前10時~、2)午前11時~、3)午後5時~、4)午後9~    
  • 火曜日: 1)午後4時~、2)午後5時~、3)午後9時~
  • 水曜日: 1)午後4時~、2)午後5時~、3)午後9時~
  • 木曜日: 1)午前10時~、2)午前11時~、3)午後4時~、4)午後5時~、5)午後9時~
  • 金曜日: 1)午前10時~、2)午前11時~、3)午後4時~、4)午後5時~、5)午後9時~

 *すでに予約が入っている枠もありますが、予約状況は流動的なので、ある週では予約不可であった日程が別の週では予約可能な場合もあります。

サービス内容に関しましては、以下の通りです。


サービス内容

  • 総合心理カウンセリング・サイコセラピーのリモートセッションです。
  • 1セッション50分で、すべて税込み7000円です。
  • 個人、カップル、いずれも可能です。
  • 初めての方、1セッションのみご希望の対応も、時間が空いてしまって久しぶりの方も、中期的、長期的な対応をご希望の方も、大歓迎です。お気軽にお問い合わせください。
  • こころのお悩み(鬱、不安障害、グリーフワーク、摂食障害、依存症、発達障害、パーソナリティ障害などの精神疾患を含む)、対人関係、自分自身との関係(自己啓発、自己理解、自己受容、自尊心、自己評価、進路、学業、就活、転職活動、など)、夫婦関係、恋愛関係、パートナーシップの課題、恋活、婚活、家族関係、育児困難、セクシュアリティ(性のお悩み)、宗教/スピリチュアリティなどのご相談が可能です。
  • 心理カウンセリングとは別に、専門家向けのスーパービジョンやコーチングも受け付けております。
  • 基本的に、スカイプ又はLINEのビデオ通話を使用します。
  • 心療内科の通院の必要はありません。心療内科・精神科の診察を合わせてご希望の方は、私が信頼している精神科医の先生をご紹介致します。

 *セッションの際は、ある程度の強さのネット環境があり、プライバシーが保てる空間をご用意ください。


ご予約方法とセッションまでの手順

  1. ご希望の日程をいくつか選び、drtakakurokawa@gmail.comまでご連絡ください。
  2. なるべく48時間以内の返信を心がけております。メールでの日程調整の際に、お互いのSkype ID(LINE ID)を交換させていただきます。
  3. 予約日が確定したら、メールでお伝えする銀行口座に、予約日の前日までに、料金の7000円をお振り込みください。クレジットカード払い(PayPal)も可能です。ご予約が前日など直前の場合は、セッション当日払いで結構です。
  4. 当日キャンセルの場合は、やむを得ない場合を除き、キャンセル料100%となります。ご了承ください。

 

どのようなお悩みでも課題でも受け付けております。お気軽にお問い合わせください。