実際、さまざまな精神的、一般的疾患とつながりの深いストレスにおける臨床心理学/精神医学的研究は実際に盛んで、その定義もいろいろありますが、ひとつのコンセンサスとして、「人は、『何かを失う可能性、何かに変化が発生する可能性における恐怖や不安を経験』しているときに、大きなこころの負担、つまりストレスを感じる」というものがあります。
何かとは、現在の人間関係、恋愛関係、自己イメージ、仕事、今の会社での地位、家、アパート、お金、健康など、実に様々な可能性があります。
たとえば人は、失業の可能性、金銭的損失の可能性、離婚の危機、失恋の可能性、左遷の可能性、大きな病気(健康を失うこと)などで、大きなストレスを経験します。人が人生において経験する最大のストレスになる経験として、配偶者の死、離婚などが挙げられるものこのためです。
ストレスについて意外と知られていないことで、「人はポジティブな経験、たとえば結婚、仕事の昇進、家を買う、旅行に行く、などの経験をするときにもストレスを経験する」、という事実があります。新しい恋人とのはじめてのディナーの予定は、心弾むものであると同時に、その時間が楽しいものになるか、何か気まずくなったりしないか、その後にどうなるのか、つまり、関係が進展する可能性と同時に、関係が失墜する不安も多かれ少なかれあるわけで、これがストレスとなるわけです。面白いもので、「適度なストレス」、「適度な不安」というものも存在し、それはパフォーマンスを促進したり、こころにとって良い刺激だったりします。100%楽勝なものに人は物足りなさ、退屈などを経験します。
最後に、私たち人間は、人生において何かを得るときに、常に何かを失っています。たとえば、家を買うと決めた人は、長年住んでいた、愛着のあるアパートを去らなければならない、という喪失体験をしますし、これから結婚する人は、今までの生活環境はもとより、独身時にあった自由時間、ひとりの時間、異性の友人との気兼ねない友好関係を失うかもしれないし、仕事の大幅な調整などをしなければならないこともあり、やはり、喪失体験も伴います。このように考えると、ストレスとは、人生における(大小の)変化における心の負担、と理解してよさそうです。