興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

認知のゆがみ その10 「極大化と極小化」(Magnification and Minimization)

2014-03-04 | プチ臨床心理学

 ひとは、良くない精神状態にいるときに、ついつい物事の悪い面ばかり強調し、その良い面を見落としがちです。この認知のゆがみを「極大化と極小化」(Magnification and Minimization)と呼びます。これは文字通り、(あるものごとの悪い面の)「極大化」と、(そのものごとの良い面の)「極小化」を、同時に行うものです。つまり、あなたが、ある状況や、他者や、あなた自身について評価しているときに、必要以上にそのネガティブな要素に重点を置き、同時に、その良い側面において、必要以上に軽くあしらってしまう傾向です。この思考パターンも、他の認知のゆがみと同じように、不安やうつと密接につながっていて、実際このパターンは、うつ病や不安障害を持つ人に多く見られるものです。また、これが他人に向くと、人は不満や怒りなどのネガティブな感情を経験します。

 まず、これがどのように鬱感情を引き起こすのか見てみましょう(脚注1)。

 里美さんは、卒業生代表として卒業式にスピーチをしました。しかし、いざ舞台にあがると、聴衆のあまりの多さに圧倒され、頭が真っ白になり、最初の10秒ぐらい、喉が詰まったりしてぎこちなくなってしまいました。しかしそのあと彼女はすぐに調子を取り戻し、とても立派なスピーチをしました。大きな拍手があり、式の後も、先生や友達から、そのスピーチについてほめられました。しかし里美さんは、スタートのぎこちなさが気になってしかたがなく、あれは恥ずかしくてひどい出来であったと思い、2日ほどそのことについて考えて落ち込んでいました。

 お分かりのように、里美さんは、全体として素晴らしかったスピーチの、最初の10秒の問題を「極大化」し、それ以外の良かったところ、また、皆からのポジティブな感想などを「極小化」し、落ち込んでしまいました。それで、卒業式のあとの友達とのパーティーでもなんだか悶々として楽しめずにいました。

 さて、次に、これがどう不安と結びついているのか考えてみましょう

 義明くんは、対人恐怖症の傾向があり、パーティーに参加したい気持ちはあるものの、それはとても恐怖なことでした。しかし、仲の良い悟君の励ましもあり、二人で共通の友人のパーティーに参加しました。珍しくパーティーにやってき義明君のことを皆歓迎してくれ、彼は思いがけず楽しい時間を過ごしました。しかし、そのパーティーのある時に、明子さんとふたりで話す機会があり、なんだか間が持たずに少し気まずい思いをしました。優しくて敏感で明るい明子さんは、それにはあまり気にせずにいろいろな話をしてくれて、悪くない会話でした。しかし義明くんは、パーティー後も、明子さんとの会話のことを悶々と考えていました。なんで自分は人ときちんと会話ができないんだろう。つまらないやつだと思われたかもしれない。嫌われたかも。などと思いました。数か月後、悟君が再びパーティーに行こうと誘ってくれたのですが、義明君は、明子さんとの件のことが頭から離れず、「パーティーの小話が怖い。気まずい思いをしたくないけど、またああなるかもしれない。行きたいけど人とうまく話せるかわからない。つまらないやつだと思われたくない。どうしよう」、と、ものすごい予期不安に悩まされました。

 さて、義明くんは、確かに明子さんとほんの少しだけぎこちないときがあったのですが、優しい明子さんは、全然気にしていなかったし、むしろ義明君と話せてよかったと思っていました。また、義明くんは、全体としては、いろいろな人ときちんと交流できて、8割方良い時間を過ごせたのでした。こうしたポジティブな要素が「極小化」され、ぎこちない時があった、というむしろ些末な要素が「極大化」され、「自分は社交スキルのない人間だ、という結論に至ってしまい、社会不安が続きます。

 義明君は、冷静にパーティ―の全体的な体験を振り返り、客観的にみつめ、この「極大化と極小化」のパターンに陥っていないか検討することが大切です。そのパーティーで良かったものはなんだろう。うまくいったものはなかっただろうか。あのぎこちなさがそんなにまずいものか。あれは誰にだって起こり得るもので、まず自分はパーティーの経験が少ない。少ない経験であれだけ楽しめたのだし、もっと積極的に参加したら、ぎこちなさも減るだろう。という風に考えていきます。

 里見さんについても、「極大化と極小化」のパターンについて、自覚して立ち止まることが大切です。ここでもまた、「自分の最大の批判者は自分自身である」という図式が見られますね。


 

 (脚注1)この認知のゆがみが鬱感情や不安を起こしますが、鬱や不安の特性として、このような思考パターンが起こるのも事実で、このパターンゆえ、そのこころの問題からの脱出が難しくなっているわけです。 



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