興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

氷の玉

2025-01-18 | 戯言(たわごと、ざれごと)

 朝。

 幼稚園に行く時間になり、息子と外に出たら、車に霜が降りて真っ白になっていた。
 フロントガラスも真っ白で、雪のようになっているのを見て、息子は興奮して、
 
「パパ、(くるまの)エンジンつけて!ワイパーつかわなきゃ!」
 
と言うので、言われるままに車のエンジンをスタートされたら、彼はすかさず横から手を出してきて、ワイパーを動かし、ウォッシャー液まで出した。
 
「ほらほら、運転席にあるものを触らない。勝手に触らない。ウォッシャー液無駄にしないで」、
 
などと一応言ってみるものの、彼はフロントガラスの霜に夢中だったし、いずれにしても自分もそうしようと思っていたし、ワイパーとウォッシャー液でどうにかなるのか確かめたかったので、しばらく様子を見ていたが、あまり効果はなかった。
 
既に幼稚園にいかないといけない時間になっていたので、
 
「これじゃあちょっとだめだね、いいこと思いついた」、
 
と伝えると、
 
「なになに?」、
 
と興味を示したので、エンジンを止めて、急いで倉庫からスクレーパーを持ってきて、こすってみると、面白いほどよく取れた。それを見ていた息子が
 
「やりたい!」、
 
というので、出発時間が気になるものの、こういうこともなかなかないと思い、やらせることにした。彼はフロントガラスには手が届かないので、ボンネットの霜を取り始めた。小さな手で器用になかなかの効率で取り除いている。屋根にもびっしり霜が降りていて、雪のようだったので、そのように伝えると、
 
「パパだっこ!」
 
というので、抱っこしたら、抱っこされたまま、スクレーパーで屋根の上の霜をこすり始めると、雪のような塊ができた。彼は興奮した様子でその白い氷の粒を両手でぎゅっと握って大きな氷を玉を作った。それを持って車に乗り込んだので、思わず反射的に、
 
「それは捨てていこう」
 
と言ってしまったのだが、彼はさかさず、
 
「え、なんで?ようちえんにもっていきたい!みんなにみせたい!」
 
と抗議した。座席がびしょびしょになっちゃうよ、と言おうとしたが、確かにみんなに見せたいよね、とも思い、また、幼稚園までの30分間でその氷の玉がどうなるのか経験してほしいとも思い、
 
「まあ、それもそうだね。溶けてびしょびしょになっちゃうかもしれないけど、やってみようか?」
 
というと、彼は目を輝かせて、「うん」と言った。
 
 運転中も、後部座席の彼は、「みてみて!まだこんなにのこってる!」とか楽しそうで、ああ、なんで捨ててとかいっちゃったかな、と後悔しつつ、「本当だね!」などと相槌を打った。「パパ、早く早く!とけちゃうよ!」などと言いつつも、道はそれなりに混んでいて、彼は何となく分かっているようで、その溶けていく過程を楽しんでいた。
 
 幼稚園まであと5分ぐらいのところで、彼は急に窓を開けて、多分とても小さくなったその氷の粒を捨ててしまった。
 
 自分はびっくりして、今度は思わず、「あれ、なんで捨てちゃったの?」
 
というと、彼は笑って、
 
「まにあわないよ。ほら、てぶくろがこんなにびしょびしょだよ」
 
と言って、手袋を取って見せた。「ほんとだ、なるほどね。でも楽しかった?」と聞くと、彼は「うん!」と答えた。
 
 捨ててと言ったり、今度はどうして捨てたの?と言ったり、自分は勝手なものだなと思った。彼がまたひとつ、sense of wonderを体験できたことは嬉しく、自分が伝えたかったことを彼はこうやって実体験を通してしっかり理解できるのだ。自分は先回りをして、うっかりその彼の大事な体験の機会を奪ってしまっていたかもしれないと思うとちょっと怖く、気を付けようと反省した。とにかくよかった。
 
 
 

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